去る8月17日から20日まで開催されていた、中国全人代の常務委員会の会議が終わった。
今回は香港の憲法に当たる「香港基本法」の付属文書について、中国本土の法律を付け加える審議がなされたものの、適用対象となった「反外国制裁法」の採択が見送りとなった。とりあえず香港は当面の間、延命措置が取られることになる。
反外国制裁法とは、人権問題などで制裁を強化する欧米諸国に対抗した法律で、本土では今年6月に施行した。その主旨は、中国の領土内外を問わず、外国の組織や個人が中国を抑圧するために制裁や内政干渉を行った場合、中国側は対抗措置を講ずる権利を持つというものだ。つまり、この法律の適用範囲が「中国(香港を含まない)」から「中国(香港を含む)」に切り替わった瞬間、外資系企業や個人が中国にとって好ましくない発言をしてしまうと、ただちに香港の銀行口座の凍結リスクを負うこととなる。
香港は言うまでもなく、中国にとっては核心的利益となる重要拠点であり、西側諸国の金融機関にとっては中国本土にアクセスするための玄関口の役割を果たす重要拠点である。仮に香港でこの法律が施行された場合、それはアジアの国際金融センター(オフショア金融センター)としての地位を失うことを意味し、香港の存在意義は消滅することになる。
画像引用元:「台湾确是我核心利益,统一却非“燃眉之急”!」
今回、採用が見送られた経緯については、香港の金融センターとしての役割に影響が出ないか懸念の声が上がったこと、また中国側がさらなる意見の聴取を希望するなどの理由が報道された。
(ホントハチュウゴクノガイカジュンビキンガフソクシテイルノヲホテンスルタメニ、ホンコンカラドルヲブンドッテ、カイケイチョウボヲガッサンシヨウトシテイタナンテ、イエルワケガナイジャナイカ)
このニュースは、アジア・太平洋地域で事業活動を行うビジネスパーソンにとっては極めて重要なイベントであったに違いない。多くの人たちがお茶の間で東京オリンピックの視聴を楽しんでいる間、その裏ではとんでもない法律が施行されようとしていたのである。私も実に経営リソースの80%以上もこのリスク管理に奪われ、通常業務が大混乱に陥ったことは言うまでもない(1か月に取り扱った金額は数百億円にのぼる、これは私の人生でも5本の指に入る月間取引規模だ)。
もっとも、香港が国際金融センターの地位を失うのは、もはや時間の問題だ。なぜなら中国にはすでに香港に取って代わる、アフリカという新たなオフショア金融センターの稼働準備が整いつつあるのだから。
(ソレガツカイモノニナルカハ、マタベツモンダイダケドネ)
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【香港問題】
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【一帯一路(現代版シルクロード)構想】
中国ではスローガンである「一帯一路(1Road, 1 Belt)」の構想を完成させるべく、急ピッチで経済政策を進めている最中だ。
一帯一路とは、中国を基点とした陸(一帯)と海(一路)の交通ルートをそれぞれ開通させ、西アジアから、果てはアフリカまでを統合した超巨大経済圏を作り出す計画であり、地域の安定と経済的発展に貢献するという壮大な構想のようだ。
この構想は2049年までに完成するらしい。習近平国家主席が1953年生まれなので2049年には96歳になる計算だ。
かつてのシルクロードを復興させるべく、現代版シルクロードとも言われている。そうなると当時のラクダの役割は、現代では長距離トラックに取って代わることになる。
現在も、中国共産党のスローガンは建国以来引き継がれる「勿忘国恥(ぶつぼうこくち)」を掲げている。これは「西洋列強に蹂躙された屈辱の歴史を忘れるな!」、という意味だ。
こうして中国は一帯一路計画のスタート地点に立つことになる。
***
【債務のワナ】
経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないため、中国の営業は功を奏し、前向きに受け入れる方向で進んでいった。アジア、アフリカ地域における経済発展に注力、経済格差の是正を目指す一帯一路の販売ルートは順調に拡大していった。
次に、中国は当然ながら信用のない相手にお金を貸すことになるので、金利は高めに設定することになる。これは金融取引の基本だ。ここで金利及び原本の返済は米ドル(USD)で行ってもらうよう契約書に明記した。
最後に、中国は自国資源を使った完成物を現地に残し、労働者は自国に帰還させ、相手国の外貨準備金である米ドルを返済+金利として受け取るスキームを完成させた。
これは銀行と消費者金融を例に考えればわかりやすい。
銀行は担保を取ってお金を貸す。返済できるような信用力の高い借り手は破産リスクが低いので、金利が低くても安心して貸し出すことができる。万が一返済ができなくなった最悪の場合でも、担保を現金化して回収できるので貸し手にとっては金利が低いとリターンは少ないが回収リスクは低い。
一方で、消費者金融は担保を取らずにお金を貸すことになる。返済できないかもしれない信用力の低い借り手は破産リスクが高く、金利が高くないと貸し出すことができない。万が一返済ができなくなった場合には、担保がないので貸し手にとっては回収リスクが高く、金利を多めにとることによってリターンを増やす必要がある。
中国がやっている政策は本質的に消費者金融の高利貸しと同じメカニズムだ。
至極当たり前の話だが、経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないわけだから、中国が立て替えをするという契約になっている。当然担保の提供もできない。
そもそも論として、これらの債務返済はどう考えても超絶無理ゲ―であって、お金がない人(企業や国家)に高い金利で貸し付けるということは、当然ながら貸す側も返ってくる可能性は非常に低い事実を受け入れないと契約書には署名をしないだろう。
当然ながら返済は焦げ付き、融資を受けて借りたお金が返済できない国が頻発することになる。その他、港湾整備や鉄道運営の管理にも維持費がかかることになる。返済ができないのに加えて、さらに毎月定額の使用量がサブスク課金(継続課金)されていくので、電車の運賃や港湾の使用量だけでは、どう考えてもとうてい無理な返済プランだ。
それに施設の管理・運営技術を持たない諸外国が自国の技術者で管理・運営できる能力があるわけがない、なぜなら「それら」は今まさに中国が作ったものなのだから。
現在は事態を重く見たIMF(国際通貨基金)が救済に乗り出し、無担保・低金利での借り替え営業を行うようになって来ていると聞いている。結果として新興国が借り換えによって得た資金はドル建てで中国に流れるので、外貨獲得戦略も大成功に終わったことになる。自国の紙幣はただ同然で印刷して変わりに米ドルと海外領土が手に入るのだから、明らかに中国が一枚も二枚も外交戦略が上手だ。
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【パックスチャイナ~中国を中心とする新世界秩序の実現へ向けて~】
そのためには、イギリスはどうしても世界中の資産を一か所に集中して集める必要があった。すでに金融センターとしての地位を確立していたロンドンのシティに資金を集めるべく、大幅に規制を緩和し、アメリカから逃亡を図る金融資本の受け入れを進めていった。
営業部隊である旧植民地の国・地域に課されたミッションはただひとつ、合法・違法を問わず、あらゆる種類の資金を受け入れ、少しでも多くの資金を本陣であるロンドン・シティに集約させること、ただ唯一この目的のための業務遂行である。
一方で、アメリカもこのまま資産の海外流出を黙って見過ごすわけには行かない。アメリカもアメリカで金融の規制緩和、上記のオフショア国への政治的な圧力、国際社会を巻き込んだ規制強化を矢継ぎ早に実行に移していった。
顧客保護を盾に取って情報開示を拒む営業部隊、秘密主義を悪用して行われる脱税や粉飾決算、それらをアメリカが覇権国という大義名分のもとに取り締まりや摘発を行い、その成果を世界中にアピールするのは、自国から資本流出、租税流出という防衛措置であったことは言うまでもない。
上記のアメリカの行いは一定の効果を奏し、いくつかのオフショア地域はその機能を形骸化されてしまった。しかし、イギリスがこのまま引き下がるわけはない。
こうして起きたのが世界を巻き込んだ、2016年から始まった法人税率の引き下げ競争だった。イギリスは本陣であるイギリス本国の税収を引き下げなければならないほど、覇権争いが熾烈になってきた、ともいえる。
特に非居住者法人(オフショア法人)に対する規制を緩和、イギリスの本陣であるシティが法人税率を一気に引き下げたことを発端として、主要先進国がどんどん実効税率を下げていき、結果として各国の税収がどんどん下がるという負のスパイラルを生み出していった。
さすがにこんな不毛な戦いがいつまでも続くわけがなく、昨今のG7(主要7か国会議)の協議によって法人税率の各国引き下げ競争は終わりを迎えようとしている。最終的には世界の統一税制は15%以下に引き下げられないように、落としどころを探っている状態が続いている。
興味深いのが、イギリスが旧植民地国の国や地域にタックスヘイブン(オフショア金融)の活用法を教え、一定の利益を共有したのに対し、中国はアフリカ開発で潤う中国人が資本をアフリカから本国に持ち出すために、自分たちが使いやすいアフリカのオフショア域を構築している点にある。この現象は中国の非常にユニークな特徴であるといえる。
オフショア金融市場とは本来的な役割として、国内市場と切り離した形の自由金融市場を拠点として、国外からの外貨資金を有利な条件で取り込み、運用する国際金融業務の一連の流れのことをいう。
現在の中国のオフショア金融センターの役割を果たしているのは、いうまでもなく香港である。中国によるオフショア金融のアフリカシフトが鮮明になった時、香港はその役割を終えるのかもしれない。
近い将来、アフリカ諸国の低税率化、外貨規制の大幅緩和といった条件に魅力を感じ、外資系金融機関が次々とアフリカでオフショア法人を設立、中国はそれらを新植民地による新たな外貨獲得戦略と位置付けてくる日も近いかもしれない。
***
中国は「香港」を陥落させたら、次はいよいよ残る2つ「台湾」と「尖閣」の奪取に向けて本格的に舵を切るだろう。
しかし、ここでプロジェクト計画の遂行を邪魔する国が現れた。
そう、アメリカ合衆国だ。
(続く)
【香港問題】
香港が世界史の表舞台に登場するのは、おそらく1839年のアヘン戦争からだろう。
当時アジアで勢力を拡大していたイギリスが、陶磁器、絹、茶葉による対清貿易赤字を解消するため、植民地であったインドで栽培したアヘンを、香港に密輸することによる売上で赤字を相殺しようともくろんだものの、これに反発する当時の清政府はこれを拒否、それに端を発し、アヘン戦争が勃発した。
当時アジアで勢力を拡大していたイギリスが、陶磁器、絹、茶葉による対清貿易赤字を解消するため、植民地であったインドで栽培したアヘンを、香港に密輸することによる売上で赤字を相殺しようともくろんだものの、これに反発する当時の清政府はこれを拒否、それに端を発し、アヘン戦争が勃発した。
これに勝利したイギリスは1842年に締結された南京条約により、香港島を永久割譲され、最終的に1898年に、深圳以南の、現在の香港全土にあたる地域を99年にわたって租借することとなった。
イギリスの植民地支配は日本と異なり、現地に社会基盤を整備しないスタンスだったため、香港は、当初は売春、疫病などで混乱を極めたものの、その後は病院や学校などの公共施設が整えられていくこととなった。これ以降、香港はイギリスの社会制度、文化が色濃く反映されていく地域となった。
その後はご存知のとおりだ、中国の経済発展に伴いつつ急激に成長するものの、内政的には中国本土との政治制度の問題が表面化し、今日に至っている。
香港は1997年の返還から50年間、1国2制度を維持するとしてきたが、中国はその約束を反故にし、実質的に高度な自治権を認めずに本土に引き入れるような動きをしていることを、今や世界中が認識している。これは事実上、香港が中国の法体系に組み込まれることを意味し、結果として1国2制度が形骸化する。
こうした中国に対する最初の本格的な反発が2014年に起こった雨傘運動だった。この運動は失敗に終わったが、香港の人たちの火種はその後も残り続け、2019年の逃亡犯条例改正案の成立を阻止すべく若者を中心に反対運動が起こった。
2019年に起こったデモの特徴は、雨傘運動とは性質が異なるPeer to Peer型のデモだった(Peer=対等という意味)。つまりリーダー不在で行われたデモのため、中国政府は交渉相手が特定できないことから、鎮圧までに非常に手を焼いたようだ。このデモは2010年に中東で起きた民主化運動、SNSであるフェイスブックの呼びかけにより、どこからともなく始まったアラブの春を想起させる出来事だった。
もともと、逃亡犯条例改正のきっかけになった出来事は『「①香港人が台湾領土内で」、「②香港人の交際相手を殺害し」、「③香港領土内に戻ってきた」事件』が発端となっている。中国政府にしてみれば、「香港も台湾も中国の領土内なのだから、裁判権は中国にある」という主張だ。つまりこの改正案が認められるということは、香港で民主活動を行う政治活動家はすべて中国本土に引き渡しをされ、裁判にかけられることになってしまうのだ。
時は流れ、1984年に当時のイギリス首相サッチャーと中華人民共和国の趙紫陽首相が香港返還を定めた「中英共同声明」に署名、1997年に香港が中国に返還された。
その後はご存知のとおりだ、中国の経済発展に伴いつつ急激に成長するものの、内政的には中国本土との政治制度の問題が表面化し、今日に至っている。
香港は1997年の返還から50年間、1国2制度を維持するとしてきたが、中国はその約束を反故にし、実質的に高度な自治権を認めずに本土に引き入れるような動きをしていることを、今や世界中が認識している。これは事実上、香港が中国の法体系に組み込まれることを意味し、結果として1国2制度が形骸化する。
こうした中国に対する最初の本格的な反発が2014年に起こった雨傘運動だった。この運動は失敗に終わったが、香港の人たちの火種はその後も残り続け、2019年の逃亡犯条例改正案の成立を阻止すべく若者を中心に反対運動が起こった。
2019年に起こったデモの特徴は、雨傘運動とは性質が異なるPeer to Peer型のデモだった(Peer=対等という意味)。つまりリーダー不在で行われたデモのため、中国政府は交渉相手が特定できないことから、鎮圧までに非常に手を焼いたようだ。このデモは2010年に中東で起きた民主化運動、SNSであるフェイスブックの呼びかけにより、どこからともなく始まったアラブの春を想起させる出来事だった。
もともと、逃亡犯条例改正のきっかけになった出来事は『「①香港人が台湾領土内で」、「②香港人の交際相手を殺害し」、「③香港領土内に戻ってきた」事件』が発端となっている。中国政府にしてみれば、「香港も台湾も中国の領土内なのだから、裁判権は中国にある」という主張だ。つまりこの改正案が認められるということは、香港で民主活動を行う政治活動家はすべて中国本土に引き渡しをされ、裁判にかけられることになってしまうのだ。
現在、香港周辺には、アメリカ軍をはじめイギリス軍、フランス軍、オーストラリア軍などが展開し、中国の動きにプレッシャーをかけ続けている。1国2制度によって高度な民主化を維持すると約束したうえで返還した側のイギリスとしては、さぞや怒り心頭だろう。
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【一帯一路(現代版シルクロード)構想】
中国ではスローガンである「一帯一路(1Road, 1 Belt)」の構想を完成させるべく、急ピッチで経済政策を進めている最中だ。
一帯一路とは、中国を基点とした陸(一帯)と海(一路)の交通ルートをそれぞれ開通させ、西アジアから、果てはアフリカまでを統合した超巨大経済圏を作り出す計画であり、地域の安定と経済的発展に貢献するという壮大な構想のようだ。
この構想は2049年までに完成するらしい。習近平国家主席が1953年生まれなので2049年には96歳になる計算だ。
かつてのシルクロードを復興させるべく、現代版シルクロードとも言われている。そうなると当時のラクダの役割は、現代では長距離トラックに取って代わることになる。
中国がこの一大プロジェクトを突き進める原動力の根底にあるのは、かつての1800年代のような繁栄と威光ある超大国・中国を取り戻すことに他ならない(中華思想とは本来的に、その根底にあるのは中国中心主義だ)。
この時代の中国は周辺諸国の小国をうまく取り込むことで大国の威信を示し、また同時に周辺の大国であるロシアや日本とも仲が良かった。ところが、その秩序の安定を一気に崩壊させたのは先述したアヘン戦争である。
一方的にモノを売りつけられてばかりの大英帝国(現在のイギリス)は貿易赤字がどんどん溜まり、その不満からアヘンを売りつけることで貿易赤字を相殺することを試みるも清国(中国)側はこれを拒否、アヘン戦争が勃発。この敗北によって中国は長い暗黒時代へ突入していく。
領土の割譲と巨額の賠償金に加え、他の西欧列強も中国は思っていたほど強くない、という事が明るみになったことで次々に領土を割譲、国内が次第に貧困化していった。
国内では貧困にあえぐ庶民たちによる政府への反乱が相次ぎ、国外では朝鮮半島をめぐる日清戦争で大日本帝国(日本)に敗れ、その後、資源をめぐって対立した日中戦争は泥沼化していった。国内は内戦で疲弊、国外も消耗戦で泥沼化するという二重苦を経験することになる。
このような悲惨な状況にあった国家を建て直したのが現在の中国共産党だった。現在の中国、中華人民共和国は(※1つだけ非常に重要な国内問題が未解決な状態のまま)1949年に毛沢東によって建国された。※後述する。
現在も、中国共産党のスローガンは建国以来引き継がれる「勿忘国恥(ぶつぼうこくち)」を掲げている。これは「西洋列強に蹂躙された屈辱の歴史を忘れるな!」、という意味だ。
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その後、中国は世界経済の発展の流れに乗り、世界の工場となることによって大きく経済を成長させていくことになる。2008年には念願の北京オリンピックが成功し、間もなくGDPではアメリカに次ぐ世界第二位の日本を追い抜く射程圏内まで迫りつつあった。
しかし、このタイミングで未曾有の経済危機が発生する。北京オリンピック開催直後の2008年9月にアメリカのサブプライムローンにより端を発したリーマンショックが発生してしまう。その影響は一気に世界中に波及し、中国も巻き込まれることになる。モノを売る先の先進国が不況でモノを買ってくれない以上、世界の工場は出荷先がなくなり、作っても大量の在庫だけが残ることになる。
しかし、このタイミングで未曾有の経済危機が発生する。北京オリンピック開催直後の2008年9月にアメリカのサブプライムローンにより端を発したリーマンショックが発生してしまう。その影響は一気に世界中に波及し、中国も巻き込まれることになる。モノを売る先の先進国が不況でモノを買ってくれない以上、世界の工場は出荷先がなくなり、作っても大量の在庫だけが残ることになる。
そこで、中国は思い切った景気刺激策を実施することによって公共政策を行い、高速道路や高速鉄道、公共住宅などの建設ラッシュによって一気にV字回復を果たしていった。これは他の国が経済不況から立ち直れない中、極めて速い回復スピードであったと記憶している。
しかし、よく考えてみればこれらの経済回復を果たすことができたのは、未熟なインフラ整備による国内経済の成長が最大の要因だった。そうなると、ハードウェア(道路や建物)がいったん完成してしまうと、今度は鉄やコンクリートなどの資源が国内に大量の在庫の山を抱えることになる。
そこで考えたのが、国内で消費できないのであれば、生産余剰分は国外に売ればいいという発想の転換だ。さて、どこに売ろうか。
世界地図を開いてみると太平洋に出ると東にはアメリカがいる、その手前には日本がいる。中国の視点から考えれば、チョッカイを出されるとなかなか面倒くさいことになりそうな国たちだ。
そうなると、西へ、西へと商売を進めていくしかない。中国から西のアジア、アフリカ方面だ。
そうなると、西へ、西へと商売を進めていくしかない。中国から西のアジア、アフリカ方面だ。
こうして中国は一帯一路計画のスタート地点に立つことになる。
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【債務のワナ】
中国はこうしてアジアの周辺諸国やアフリカ諸国に対して、経済発展に貢献することで経済的利益、地域の一体化を営業トークとして販売ルートを確保、政府間交渉(営業活動)に奔走することになる。
経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないため、中国の営業は功を奏し、前向きに受け入れる方向で進んでいった。アジア、アフリカ地域における経済発展に注力、経済格差の是正を目指す一帯一路の販売ルートは順調に拡大していった。
経済発展のための資金まで貸し付けてくれ、ともに発展しようという提案は新興国にとってはこの上ないほど良い条件だ。当然ながら、余剰在庫の処分をする中国にとっても、開発や資金提供まで代わりにやってくれる国々にとってもWin-Winな関係なのだから。
しかし、世の中にそんなうまい話はないもので、後にこれは債務のワナと呼ばれる問題に発展する。
まず、中国は自国通貨である人民元建て(RMB)で貸し付けを行い、自国から資源と労働者を提供することで相手国の公共事業を進めていった。そうなると、現地の資源が使われず、雇用創出もできず、現地にお金が落ちないという問題が発生した。
まず、中国は自国通貨である人民元建て(RMB)で貸し付けを行い、自国から資源と労働者を提供することで相手国の公共事業を進めていった。そうなると、現地の資源が使われず、雇用創出もできず、現地にお金が落ちないという問題が発生した。
次に、中国は当然ながら信用のない相手にお金を貸すことになるので、金利は高めに設定することになる。これは金融取引の基本だ。ここで金利及び原本の返済は米ドル(USD)で行ってもらうよう契約書に明記した。
最後に、中国は自国資源を使った完成物を現地に残し、労働者は自国に帰還させ、相手国の外貨準備金である米ドルを返済+金利として受け取るスキームを完成させた。
これは銀行と消費者金融を例に考えればわかりやすい。
銀行は担保を取ってお金を貸す。返済できるような信用力の高い借り手は破産リスクが低いので、金利が低くても安心して貸し出すことができる。万が一返済ができなくなった最悪の場合でも、担保を現金化して回収できるので貸し手にとっては金利が低いとリターンは少ないが回収リスクは低い。
一方で、消費者金融は担保を取らずにお金を貸すことになる。返済できないかもしれない信用力の低い借り手は破産リスクが高く、金利が高くないと貸し出すことができない。万が一返済ができなくなった場合には、担保がないので貸し手にとっては回収リスクが高く、金利を多めにとることによってリターンを増やす必要がある。
中国がやっている政策は本質的に消費者金融の高利貸しと同じメカニズムだ。
至極当たり前の話だが、経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないわけだから、中国が立て替えをするという契約になっている。当然担保の提供もできない。
そもそも論として、これらの債務返済はどう考えても超絶無理ゲ―であって、お金がない人(企業や国家)に高い金利で貸し付けるということは、当然ながら貸す側も返ってくる可能性は非常に低い事実を受け入れないと契約書には署名をしないだろう。
当然ながら返済は焦げ付き、融資を受けて借りたお金が返済できない国が頻発することになる。その他、港湾整備や鉄道運営の管理にも維持費がかかることになる。返済ができないのに加えて、さらに毎月定額の使用量がサブスク課金(継続課金)されていくので、電車の運賃や港湾の使用量だけでは、どう考えてもとうてい無理な返済プランだ。
それに施設の管理・運営技術を持たない諸外国が自国の技術者で管理・運営できる能力があるわけがない、なぜなら「それら」は今まさに中国が作ったものなのだから。
さて、契約書に署名をして作ってしまった以上、港湾設備や道路を壊すこともできないし、お金も返すことができなくなった。そうなると貸し手である中国にとっては担保に変わる「何か」で辻褄を合わせるしかなくなる。
中国は貧しい諸外国にこう提案する、「担保はあるじゃないですか、うちが作った施設を使わせてくれればいい。その代わり、管理権という名目で超長期契約を締結して相殺しましょう」。
こうして中国は巧みな営業により、国外領土の獲得に成功していった。 気づいた時は後の祭り、新興国は強引な統一計画ではないか?との懸念を持ったときには、時すでに遅し。中国の新植民地戦略のワナにハマってしまったことになる。
こうして中国は巧みな営業により、国外領土の獲得に成功していった。 気づいた時は後の祭り、新興国は強引な統一計画ではないか?との懸念を持ったときには、時すでに遅し。中国の新植民地戦略のワナにハマってしまったことになる。
現在は事態を重く見たIMF(国際通貨基金)が救済に乗り出し、無担保・低金利での借り替え営業を行うようになって来ていると聞いている。結果として新興国が借り換えによって得た資金はドル建てで中国に流れるので、外貨獲得戦略も大成功に終わったことになる。自国の紙幣はただ同然で印刷して変わりに米ドルと海外領土が手に入るのだから、明らかに中国が一枚も二枚も外交戦略が上手だ。
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【パックスチャイナ~中国を中心とする新世界秩序の実現へ向けて~】
現代のオフショア金融の起源は、1945年に発足したブレトンウッズ体制を機に、イギリスが表向きの世界覇権をアメリカに譲ったところから始まる。
これは世界覇権がパックスブリタニカ(イギリスによる覇権主義)からパックスアメリカーナ(アメリカによる覇権主義)へ移転した象徴的な出来事だった(この時から、世界の基軸通貨はポンドからアメリカドルに切り替わった)。
第2次世界大戦後、アメリカの主導のもと、国際通貨を安定させる試みが開始されたものの、各種の規制を嫌う金融資本が逃避を図ることになった。
この機に乗じ、世界覇権を取り戻そうとしたのがイギリスだった。軍事力ではすでにアメリカには到底及ばないことは明らかだったため、代わりにイギリスが目をつけたのが、経済主導による世界覇権を奪還することに他ならない。
これは世界覇権がパックスブリタニカ(イギリスによる覇権主義)からパックスアメリカーナ(アメリカによる覇権主義)へ移転した象徴的な出来事だった(この時から、世界の基軸通貨はポンドからアメリカドルに切り替わった)。
第2次世界大戦後、アメリカの主導のもと、国際通貨を安定させる試みが開始されたものの、各種の規制を嫌う金融資本が逃避を図ることになった。
この機に乗じ、世界覇権を取り戻そうとしたのがイギリスだった。軍事力ではすでにアメリカには到底及ばないことは明らかだったため、代わりにイギリスが目をつけたのが、経済主導による世界覇権を奪還することに他ならない。
そのためには、イギリスはどうしても世界中の資産を一か所に集中して集める必要があった。すでに金融センターとしての地位を確立していたロンドンのシティに資金を集めるべく、大幅に規制を緩和し、アメリカから逃亡を図る金融資本の受け入れを進めていった。
それだけではなく、影響力の及ぶかつての植民地の国家・地域にも同じ法体系(コモンロー)を適用させ、旧英国連邦を形成した。ヨーロッパに位置する王室属領(マン島、ガーンジー島など)はヨーロッパとアフリカから、カリブ海の海外領土(ケイマン、バミューダ、BVIなど)はアメリカ本土から、アジアの旧植民地(香港、シンガポール、マレーシア連邦領ラブアンなど)はアジアから、イギリスのシティに資産を集めるべく、営業部隊(フロントデスク)の役割を果たすことになった。
営業部隊である旧植民地の国・地域に課されたミッションはただひとつ、合法・違法を問わず、あらゆる種類の資金を受け入れ、少しでも多くの資金を本陣であるロンドン・シティに集約させること、ただ唯一この目的のための業務遂行である。
一方で、アメリカもこのまま資産の海外流出を黙って見過ごすわけには行かない。アメリカもアメリカで金融の規制緩和、上記のオフショア国への政治的な圧力、国際社会を巻き込んだ規制強化を矢継ぎ早に実行に移していった。
顧客保護を盾に取って情報開示を拒む営業部隊、秘密主義を悪用して行われる脱税や粉飾決算、それらをアメリカが覇権国という大義名分のもとに取り締まりや摘発を行い、その成果を世界中にアピールするのは、自国から資本流出、租税流出という防衛措置であったことは言うまでもない。
上記のアメリカの行いは一定の効果を奏し、いくつかのオフショア地域はその機能を形骸化されてしまった。しかし、イギリスがこのまま引き下がるわけはない。
こうして起きたのが世界を巻き込んだ、2016年から始まった法人税率の引き下げ競争だった。イギリスは本陣であるイギリス本国の税収を引き下げなければならないほど、覇権争いが熾烈になってきた、ともいえる。
特に非居住者法人(オフショア法人)に対する規制を緩和、イギリスの本陣であるシティが法人税率を一気に引き下げたことを発端として、主要先進国がどんどん実効税率を下げていき、結果として各国の税収がどんどん下がるという負のスパイラルを生み出していった。
さすがにこんな不毛な戦いがいつまでも続くわけがなく、昨今のG7(主要7か国会議)の協議によって法人税率の各国引き下げ競争は終わりを迎えようとしている。最終的には世界の統一税制は15%以下に引き下げられないように、落としどころを探っている状態が続いている。
ここに来て登場してきたのが、中国だ。中国は今、世界覇権をアメリカから奪うべく、パックスアメリカーナ(アメリカによる覇権主義)を終焉させ、それに代わるパックスチャイナ(中国による覇権主義)を確立しようとしている。
興味深いのが、イギリスが旧植民地国の国や地域にタックスヘイブン(オフショア金融)の活用法を教え、一定の利益を共有したのに対し、中国はアフリカ開発で潤う中国人が資本をアフリカから本国に持ち出すために、自分たちが使いやすいアフリカのオフショア域を構築している点にある。この現象は中国の非常にユニークな特徴であるといえる。
オフショア金融市場とは本来的な役割として、国内市場と切り離した形の自由金融市場を拠点として、国外からの外貨資金を有利な条件で取り込み、運用する国際金融業務の一連の流れのことをいう。
現在の中国のオフショア金融センターの役割を果たしているのは、いうまでもなく香港である。中国によるオフショア金融のアフリカシフトが鮮明になった時、香港はその役割を終えるのかもしれない。
近い将来、アフリカ諸国の低税率化、外貨規制の大幅緩和といった条件に魅力を感じ、外資系金融機関が次々とアフリカでオフショア法人を設立、中国はそれらを新植民地による新たな外貨獲得戦略と位置付けてくる日も近いかもしれない。
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中国は来たる2027年に人民解放軍創設100周年を迎える。中国はそれまでに核心的利益をすべて手に入れ、次の世界覇権の地位を確立しようとしている、と言われている。
中国の主張する核心的利益とは全部で5つあり、それは「ウイグル」、「南シナ海」、「香港」、「台湾」、そして「尖閣」だ。現在、香港の陥落が間近に迫っており、まもなく5つのうち、3つは作業完了(ミッション・コンプリート)となる見込みだ。
中国は「香港」を陥落させたら、次はいよいよ残る2つ「台湾」と「尖閣」の奪取に向けて本格的に舵を切るだろう。
しかし、ここでプロジェクト計画の遂行を邪魔する国が現れた。
そう、アメリカ合衆国だ。
(続く)