子どもの頃、私が思い描いた2020年とは、それはそれは素敵な未来がやってきて、私たちの暮らしはさぞや快適になっているだろうとぼんやり考えたことがある。
しかし、残念ながら私の理想は見事に裏切られ、未来はそれとは真逆の物語を私たちの前に連れてきてしまったようだ。今年はいつになく、不穏な1年になりそうだ。
でもちょっと待った、、、悪いことの後には良いことがあると楽観的に考えるのも人間に与えられた才能かもしれない。リスクもリターンもその本質は「変化」や「変動」の中に生きているのだから。
写真はコロナショック前の1月に行ったペナン島。コムタ最上階にあるレインボー・スカイウォークからの眺め、ガラスが割れたら二番底は地上だ
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私は今、このブログを現在の居住国であるマレーシアの首都クアラルンプールで書いている。
2019年12月31日、東京から遊びに来てくれた友人らと合流し、遅めの夜食をともにした。これから私たちはKLCC地区にあるペトロナスツインタワーの前で新年を迎えるのだ。街は2020の文字で埋め尽くされお祝いムード全開だ、私たちはあと数時間後には20年代という新たな時代を迎える。夜食を少し離れたブキビンタン地区・アロー通りの屋台でさっさと済ませると、私たちはペトロナスツインタワーへ向かって速足で歩き始めた。
歩きながら友人が言う。
友人:「ねぇ、ユーディー知ってる?中国の武漢で新種のウィルスが発見されてちょっとした騒ぎになってるみたい。どう思う?」
私:「最近香港で民主派のデモがあったでしょ、中国政府がネタで大げさに言ってるだけだろ?どうせすぐ終わるよ。それより急がないと日付変わっちゃうよ」
到着したツインタワーの前の広場はとんでもない人だかりで「足の踏み場もない」というのは正にこういう事を言うのだろうと思った。久しぶりに東京の通勤ラッシュ時の満員電車に乗った気分だ。笛を吹く人の音がうるさいわ、人は密集するわ、一度止まったら後ろから押されるわ、物好きというのはこんなに多いのかと驚いた。
私たちもその、、、物好きの一派なのだが...。
元日の夜空に向かって天高くそびえたつツインタワーはまさに産油国マレーシアの象徴と呼ぶにふさわしい圧巻の雄姿を見せる。東マレーシアの沖合に沈む海底油田、黒くて重い液体のゴールドは見事な鉄とセメントの塊を首都クアラルンプールのど真ん中に積み上げてみせたのだ。ツインタワーの間から打ちあがる花火を見ながら、私たちのテンションは最高潮に達した。
年末年始の正月休みということもあり、友人たちはしばらくクアラルンプールに滞在した後日本に帰って行った。しかし、この時はまさか数か月後に世界全体がこんな状況になるなんて私たちの誰が予想しただろう?
今になって冷静に振り返ると、もしコロナウイルスがすでにマレーシアに侵入していて、無症状感染者が拡大していたとしたら、あの密集現場で強烈なアウトブレイク(感染拡大)が発生していたかもしれない。
人々は歓喜に沸き、店は朝まで大繁盛、不穏なニュースにも金融市場はわずかな下げ幅にとどまり、特段大きな反応は見られなかった。
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・壮大なるライヤーゲームとシーソーゲーム
金融市場の参加者は概して楽観的だ。そりゃあ上がる!上がる!と言い続けないと商売にならないからだ。
事実、コロナウィルスの震源地となった湖北省武漢が1月23日に都市封鎖(ロックダウン)されても、1月末から2月初旬にヨーロッパにパンデミックが波及して実体経済が麻痺してもなお、株式市場や為替市場には大きな影響は出なかった。むしろ2月12日のダウ工業平均は市場最高値29,568ドルをつけたほどだ。
WHOのテドロス事務局長が胡散臭い顔で「大したことはない!」と言っても、中国の習近平国家主席が「中国はコロナウィルスに勝利した!」と言っても(いや、誰がどうみても大したことになっていたはずだが)、ダウ工業平均や日経平均株価は緩やかに上がっていった。
これだけの壮大なライヤーゲームでさえ相手が人狼であると認識しながら、それでも意図的に株価を上げ続けなければならないのがアメリカ大統領の宿命だ。
それとも、実体経済と金融経済はだいぶ昔から主従関係が逆転してしまっているから、実体経済の悪影響はさほど金融経済に影響を与えないってこと?
えっ、えっ、そうなの...
ところが、2月20日を境に潮目が一気に変わった。それまでは相対的に円が売られドルが買われていたので、これは緩やかに回復を期待するリスクオン(まぁ、中国とヨーロッパなんか色々大変そうだけど、すぐに回復するっしょ)の流れだった(注:最近はドルがゼロ金利なので低金利の円をわざわざ借りてくる投資家は減ったのであまり当てはまらなくなってきた)。2月20日過ぎあたりからリスクオフのムードが漂い始めたのはアメリカ本土へとパンデミックが急激に拡大しつつあったからだ。
今回のパニックでひとつ勉強になったことは、アメリカが当事者(被害者)になるまでは、たとえヨーロッパでパンデミックが起こっても対岸の火事として認識され、アメリカ合衆国の基本的なスタンスとして、世界の深刻な問題としては取り扱わないらしいという事実だ。これは今後、パンデミックや戦争が起こった有事の際に参考になると思う。
私は正直、この地球全体を巻き込んだコロナウィルスという存在が金融経済にどんな影響を及ぼすのかとても興味深く眺めていた。というのも、私はこれまでサブプライムショック(2007年)やリーマンショック(2008年)を金融取引の現場で経験してきたが、いずれも金融経済がクラッシュしてから実体経済に波及し始めるのは9か月前後であることを経験則として持っているからだ。
つまり、株価大暴落が起きようとも、あの時、金融街のオフィスを一歩出れば人々は普通に生活をしていたし、会社やお店がバタバタと倒産し始めるまでには9か月間のタイムラグがあったからだ。2016年3月に石油価格が暴落した時も、マレーシアやインドネシア、アラブ湾岸諸国など産油国の実体経済に影響が出始めたのは、やはり9か月が経った頃だった。
ところが、今回のコロナショックは先の体験とは真逆の現象で、先に実体経済を直撃した。これは私にとっては初めての経験だ。サプライチェーン(供給の連鎖のこと。製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのことをいう)は強制的に分断され、国際線は運航休止に追い込まれ、国境が封鎖され、先に実体経済がやられた(ヒト・モノの移動制限、カネの移動だけはできるがそれだけでは経済を回せない)。
だからどこの国も「現在我が国は戦時下にある」という表現を使っているのだと思う。だって、私たち人類はここ70年以上、地球全体を巻き込んだ世界大戦など経験していないのだから、そういう表現にならざるを得ないんだろう。しかも、さらに厄介なのはウィルスという見えない敵が相手だということだ(当事者のウイルスたちに損害賠償できないから、アメリカやヨーロッパは中国に矛先を向けて「使用者責任」の間接適用を巡って躍起になっているようだ...)。
ガチコ🇨🇦@gatchcoイタリアでは人が減った事で水が透明になって魚や白鳥が戻り、中国では空気汚染が緩和されて、「コロナがワクチンで我々がウィルスだったのでは?」てコメントがあった😂
2020/03/17 23:32:38
ジョージ・カーリンの「地球が本当に人間を恐怖と見做したら、ウィルスばら撒いて根絶やしで終わりだよ!」て言葉を思い出した…
さて、金融マーケットはその後、約1か月間かけて坂道を転がり落ちて行った。
2月12日のダウ工業平均は市場最高値29,568ドルをつけた後、3月23日に18,213ドルまで急落。3月9日と12日の下げ幅が凄まじく、代表的な株式指数であるSP500の暴落を受けてサーキットブレーカーが発動、市場取引が一時停止した。この時点でSP500を基準に投資家の恐怖を指数化したVIX指数(恐怖指数)は3月18日のロンドン市場オープン直後に85.47という驚異的な数値をつけた(これはリーマンショックの2008年10月につけた史上最高値89.53に迫る数字だ。普段は14~22あたりを行ったり来たりする)。
日経平均株価は2月6日に23,995.37円の直近高値をつけた後、3月19日にかけて16,358.19まで急落。ちなみにこの時のドル円の為替の動きを調べると2月21日に1ドル112.186円をつけた後、3月10日に1ドル101.201円まで円が買われた。
ダウ工業平均株価:
29,568ドル(2020年2月12日)→18,213ドル(2020年3月23日)
日経平均株価:
23,995.37円(2020年2月6日)→16,358.19円(2020年3月19日)
ドル円:
1ドル=112.186円(2020年2月21日)→1ドル=101.201円(2020年3月10日)
VIX(恐怖)指数:
14.17ドル(2020年2月17日)→85.47ドル(2020年3月18日)
※上記は直近最安値と直近最高値を比較したもの、興味深いのはドル円と日経平均株価の転換点がずれて相関が崩れている点だ。
さすがにアメリカ政府もこの状況はマズいと思ったのか、3月25日、トランプ政権と議会側は新型コロナウイルスに対応するため、2兆ドル、日本円でおよそ220兆円の緊急経済対策法を成立させた。あまりにも早い決断だったと思う。
Donald J. Trump@realDonaldTrumpWith interest rates for the United States being at ZERO, this is the time to do our decades long awaited Infrastruc… https://t.co/cy5aTtFwhL
2020/03/31 22:48:43
”ゼロ金利となった今、長年待っていたインフラ法案をやるときがきた。これは大きく大胆なものであるべきだ。220兆円相当で、雇用と合衆国のインフラを再構築するのだ!”
第45代アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ
つまり、3月25日の時点でアメリカでは金融緩和が行われることが決定したことになる。金融緩和とは簡単に言えば、お金をどんどん刷りまくって市中に流し、企業や個人の経済破綻を防ぐための刺激的な金融政策(劇薬)だ。
モノの価格は常に需要と供給によって決まる。
これはすなわち、市中に出回るお金の量が増えるわけだから、お金そのものの価値が下がることを意味する。カネの価値が下がるということは相対的にモノ(株式や不動産)の価値は上がることになる(もっと正確にいえば、カネの価値を無理やり下げたので、モノの価値が上がったように見せることができる)。結果としてその後、アメリカのダウ工業平均株価は反発して上がった。そして、アメリカドルの量が増えても日本円の量は変わらないので、日本円の価値も相対的に上がっていった。
これに追随して、日本でも安倍首相が4月7日に景気刺激策として108兆円の経済対策を発表し、日経平均株価は上がっていった(先述したが、上がったように見せた。現在、日本の年金運用機構GPIFのブレークイーブン(損益分岐点)は19,000円前後に位置しているという)。今度はアメリカドルの量に対して日本円の量が増えることが決まったので、日本円は売られ、ドルが上がっていった。
yudypon@yudyponコロナ禍なのになんで株価が上がるんだ?ってめちゃくちゃ聞かれるんだけど、株価が上がってるんじゃないぞ、お金の価値が下がってるんだぞ!
2020/04/10 10:42:20
金融緩和でお金の発行量を増やしただけ。水の量を増やしたら、そこに浮かんでるブイも一緒に上がっていく原理と一緒。
#コロナ #日経平均 #株高
本質を考えれば、両国政府がやっていることは、シーソーにバケツを置いてお互いに水の量を増やしごっこしているだけなのだ。頭のいい大人たちもやっていることの本質は子供時代の遊びと何ら変わらない。
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・まさかの石油価格史上初のマイナス決済
その後、4月20日のNY原油先物取引市場で史上初の緊急事態が発生した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物5月限(ぎり)は55.90ドル安のマイナス37.63ドルで取引が終了した。なんと一時マイナス40.32ドル!?にまで下落したのだ。
𓉤箱コネマン𓁷@HAKOCONNEMAN原油が心停止する瞬間をご覧下さい
2020/04/21 05:55:09
https://t.co/VrlxHBFVBm
そもそもの下落要因として考えられるのは、パンデミックによる地球規模での経済活動の低下を受けて原油そのものの需要が大きく後退したためだろうが、原油そのものが供給過多となりつつあった状況に追い打ちをかけるように、飛行機は飛ばないわ、人は移動しなくなるわで、石油そのものの需要が大きく後退してしまい、先行きの需要が見込めなくなったことだろう。
この時、アメリカ国内ではすでに原油在庫が貯蔵施設の能力の限界に達するとの見方が強まった。ただでさえ、供給過多で原油在庫がパンパンになっていた上に、実需が一気に消えてしまい、しかしそれでも採掘を止められずに供給は続くことになるのだから、「もぅお金を払うので頼むから引き取ってください」という意味不明の事態になったわけだ。
WTI先物は先物取引のため「精算日」という概念が存在する。2020年5月限(ぎり)の精算日は4月25日となり、3営業日前となる日が取引最終日となる。つまり、5月限の取引最終日は4月21日となる。
原油先物取引の決済方法は反対売買によってゲームが終了する。取引最終日にポジションを保有していた場合、最終的には反対売買で強制決済される。それはそうだ、まさか一般の投資家や機関投資家が現物取引をするわけではないでしょ!?そうでないと配達員のお兄さんがインターホンを鳴らして原油を自宅や会社に持ってきてしまうことになる(どこに保管するんだよ笑)。私はこれまでガチの原油を買って、自宅で保管している投資家にはお会いしたことがない。
今回は取引最終日が明日に迫り、お金を払ってでも引き取ってくださいという事態になったのが、マイナスとなったパニック要因だと考えられている。
石油の供給者であるOPECプラスは5月1日から世界の原油供給の約1割に相当する日量970万バレルを削減する協調減産を開始し、現在の石油価格は落ち着きを取り戻しつつある。
オイルの実需を試算すると、コロナの影響で現在3,500万バレル/日の実需が消失したといわれている。OPECプラスが減産に合意した分が970万バレル/日。差分は2,530万バレル/日だから、この量を追加減産しないかぎり、価格がコロナ前の水準に戻ることはないだろう。
このまま需要環境が改善し、OPECプラスの協調減産が行われた場合、年内には今度は供給不足により供給<需要となり、過剰在庫の取り崩しが始まるかもしれない。ただしその間に原油価格が上昇してしまうと、今度は減産合意が破棄され、再度受給が崩れるシナリオも十分にあり得る。
ここでも大人たちのシーソーゲームは続く。
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・コロナショックは何が着火点で誰が大やけどを負い、誰がケツを拭いたのか?
先物市場というのは世界中のどこかのマーケットで売買が常に行われていて、毎秒ごとに値段が上がったり下がったりする。すなわち相場は常に変動している。
価格が上がり過ぎればいったん下げて調整が入るし、下がり過ぎればいったん上げて調整が入るし、少しずつ高値と安値を切り上げ(切り下げ)、小さなレンジ相場を形成しながらやがてトレンドを形成してどちらかの方向に向かっていく。そりゃそうだ、市場取引は買い手と売り手がいて成り立つわけだから、少しでも高くなれば売り手は増えて買い手は減るし、少しでも安くなれば売り手は減って買い手は増えるわけだから、バランスを取りながら上下に変動を繰り返していく生き物だ。
少し難しい話になるが、相場は長期・中期・短期の3つの波で形成されると言われる(ダウ理論)。長期の波は中期の波の連続によって形成され、中期の波は短期の波の連続によって形成される。月足・週足・日足から4時間足、1時間足、15分足、5分足、1分足、ティックチャートまで縦に並べてみるとこの現象がよくわかる(いわゆるマルチタイムチャート)。
ところが、今回のように一気に着火点のトリガーが引かれると、小さな波の動きが早すぎて誰も手に負えなくなる(そんな状況でも3つの波の法則はしっかり当てはまっている。が、小さな波が大きすぎるゆえに1つ上の時間足がもはや津波級レベルになる)。例えるなら、この状況でトレードするということはサーファーが津波の上でサーフィンをやっているようなものだ。
ちなみに、、、私は6月限の原油で1,000ドルだけフルレバレッジでショートポジションを取ったが、数秒で津波にさらわれてしまった笑 火遊びはやるもんじゃないな笑笑笑
yudypon@yudyponそういえば!と思って口座確認したらなくなってたwww
2020/04/25 13:16:41
#フルレバ #強制ロスカット https://t.co/sflDpcmlkg
さて、本題。この暴落局面で超ド級の売りポジションを持ったのは、いや持たざるを得なかったのは誰だろうか?
結論先行でいえば、私は産油国の政府系ファンド(ソブリンファンド)とヘッジファンドや投資信託が主体だったのではないかと思っている。
先日、ノルウェーの政府系ファンドが4兆円の換金売りをするとのニュースを読んだ。ノルウェーは北海油田を擁する北欧最大の産油国だ。この国の政府系ファンドが金融マーケットに与える影響は極めて大きく、世界最大級の機関投資家として知られている。通常、産油国は1バレル数十ドルを想定して国家予算を組んでいるわけだから、原油価格が今回のレベルにまで暴落してしまうと金融資産を売って手元に現金を確保せざるを得なくなる。なるほどなるほど、ノルウェーでさえこの状況なのか...。
先月、大手格付機関であるS&P社は、産油国の債券格付けを軒並み段階的に引き下げた。国家の信用リスクが一斉に低下した格好だ。
私が今回、産油国の中で最も甚大な影響を受けた国は、サウジアラビアではないかと思っている。聞くところによればサウジアラビア政府は1バレル70~80ドル程度を想定して国家予算を組んでいたらしい。
サウジアラビアは若きプリンスであるムハンマド・ビン・サルマーン皇太子のもとで石油に依存する従来の経済構造から脱却し、新たな産業開発を多角的に進める計画(ビジョン2030)を急ピッチで進めている最中だ。それが突然のコロナショックという最悪のタイミングで航空機が飛ばずに石油の需要が激減、原油価格の暴落、さらにはメッカ巡礼の観光需要消滅というトリプルパンチで、相当手痛いダメージを受けているはずだ。ようは副業を増やして別の手段で儲けようと思っていた矢先、本業がピンチになってしまい、副業どころではなくなってしまった状態だ。
サウジアラビアは採掘した原油を輸出して外貨を稼ぐ収益モデルに特化した国であり、政府は国民の生活を保障することで治安を保っている。ゆえに、国民の70%は公務員ということになる。サウジアラビア政府は現行の5%の付加価値税(消費税)を7月から3倍の15%に引き上げることを問答無用で決定、さらにすべての公務員に対して給与引き下げという強硬策に出た。これ、普通に日本だったら暴動が起こるレベルだと思う。
上記から、産油国、とくにサウジアラビア政府の換金売り(金融資産を売ってドルを買う動き)が暴落の大きな原因だったと考えている。
もうひとつはヘッジファンドや投資信託の換金売りが原因だったのではないかと思う。ヘッジファンドは本来、「相場の上下変動(βリスクという)に左右されず、マーケットが上がっても下がっても絶対収益(αという)を獲得しますよ~」という謳い文句で投資家からお金を集め、適切なリスク・リターンのポジションを設計して運用を行っている(はずの)プライベートファンド形態の企業だ(ヘッジとは垣根という意味なので、本来リスクは限定されているはずだ)。ところがその実態は市場変動による利益を積極的に取りに行き、結果として失敗、最悪の場合破綻に追い込まれるケースが後を絶たない。ヘッジファンドは一般の投資信託と異なり、ショートポジション(売りから入るという意味)を持つことができるため、下落局面でも積極的にリスクを取りに行き、そこで勝った負けたのゲームをしているのが現状だ。
コロナショックが起こる前、ヘッジファンド勢の多くは間違いなくダウ工業平均株価の上昇による恩恵を受けていたはずだ。強いアメリカを目指したトランプ大統領、2016年秋の大統領選挙勝利時のダウ平均株価は19,827ドルだった。それが2020年2月12日には史上最高値を更新し続け、29,568ドルまで引き上げたのだ。つまり、一方通行の上昇トレンドが続いたわけだから、買いのポジションを持ってさえいればヘッジファンドは普通に利益が上がっていたことになる。
トランプ大統領のやった政策は非常にシンプルだった。彼の政策のもとで史上最高値を更新し続けることができた理由は、史上最高値を更新した直後に中国に追加制裁をかけて譲歩を引き出すというものだった。ぜひ確認してほしい、トランプ大統領が中国に追加制裁をかけるコメントをし、強いアメリカを演出したのは、いつも史上最高値を更新した直後だったことがおわかりいただけると思う。
そして間もなく念願の30,000ドルに到達する目前の2月上旬、不幸にもコロナウィルスのパンデミックがアメリカ国内で発生してしまった。3年かけて彼が築き上げた強いアメリカの株価水準は3年前の基準をわずか1か月で割り込んでしまった、そりゃあトランプさん激おこプンプンでガチギレするわな。
ダウ工業平均株価:
19,827ドル(2017年1月20日)→29,568ドル(2020年2月12日)→18,213ドル(2020年3月23日)
今年2020年の秋には2期目の大統領選挙が控えている。コロナショックはトランプ政権に大きな悪影響を与えたことは間違いないだろう。ヘッジファンドや投資信託はプロップファーム(自己資金を運用する会社)や個人投資家と違い、含み損を抱えて投資家から解約を迫られてしまうと、相場の回復を待たずにポジションを決済しなければならない運命にある。株価が下がる→含み損を抱える→解約を迫られる→安値でポジションを決済する→また株価が下がる、という負のスパイラルに突入したメカニズムはまさにこれが原因だろう。つまり、トランプ政権はヘッジファンドや投資信託の連鎖倒産を防ぐために株価を上げる政策を速やかに実施する必要があった。
金融緩和の実施により大量のカネを市中にばらまいたのは、本当に失業者たちを守るためだったのか、それとも...?
これ以上の真実は私にはわからない...。
Donald J. Trump@realDonaldTrump“The States have to get the money to the people who need it.” @MariaBartiromo And FAST!
2020/04/02 22:12:56
”合衆国は必要としている人々にお金を与えよ。そして速攻でやるんだ!”
第45代アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ
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・半値戻しは全値戻し、二番底は来るのか?
ダウ工業平均株価や日経平均株価は3月下旬に直近最安値をつけた後、大きな波乱もなく、順調に上昇が続いてきた。世界景気が急激に悪化する中、いわゆる「不況下の株高」という不気味な状況が続いている。
まさに金融緩和という劇薬が功を奏した格好だ。実体経済が動いていないにも関わらず株価が上がっていくのだから、いかに現在のお金の価値が下がっているのかがわかるだろう。
最近、ZOOM飲み会が流行っているようで、機関投資家(いわゆるヘッジファンドや保険会社など)の運用担当者との会話で必ずと言っていいほどホットトピックに上がるのが「二番底は来るのか?」という話題だ。
これは強気派と弱気派に意見が真っ二つに分かれるが、通常シナリオはジリ上げで二番底は来ないだろうという意見が多い。私も来ないだろうと考えている(注:予想と希望は違う)。
その根拠は、実体経済が少しずつ回復基調にあること、ではなく、先述したとおり、お金の価値が極端に下がりすぎてしまっている状況なので、相対的に株価は下がりずらいという消極的な見方だ。だってバケツの中に水を入れて水面の位置が上がってしまったら、そこに浮かんでいたブイを水中にある元の位置に沈めるのは逆に難しくなってしまうわけだから。それでも、気になる点は(経験則になってしまうけど)、今まで二番底をつけずに元の価格まで回復したマーケットは見たことがない。この点は注意しておかないと。
これまで歴史が何度となく証明して来たように、相場が上か下に動くためには必ずそれ相応のエネルギーが必要になる。だから、どちらかの方向に動くためには、一度逆方向に引き付けて強烈なエネルギーをため込む必要がある(弓矢と一緒の原理)。
私たちが子供の頃、チョロQというゴムのゼンマイを後ろに引き付けてミニカーを走らせる超絶アナログ式のおもちゃがあった(今もあるのかな?)。このチョロQの原理はまさに弓矢の原理と一緒で、金融マーケットで格好良くいえば、「押し目(上昇局面の調整)」とか「戻り(下落局面の調整)」というやつだ。
元の価格に戻ろうとする力は3月下旬の金融緩和決定のニュースから一気に上方向に爆発し、現在は半値戻し(回復の道半ば)にある。ここから上がっていくには、おそらく一筋縄ではいかないだろう。上に突き上げ、下に戻されといった変動を繰り返しながら(いわゆるダマし上げ)、少しずつ売り板を崩し、薄くなったタイミングで高値を切り上げながら全値戻しをしていくのではないだろうか?
上がるか下がるか、それよりも投資は「いつ買うか・いつ売るか」のタイミングが難しい(私も金融緩和のニュースが流れた時に試し玉を入れたけど、一気に半値まで戻ってしまったのでこれ以上買うのをためらっている。もっと買っておけば良かった)。
以前もこのブログに書いたと思うんだけど、金融緩和が始まった時点では手元に現物のお金がない状態で株価だけが上がっていく。つまり、ここでは信用取引が行われたり先物取引が行われ、実体以上の数字だけがマーケットに入りこみ取引量を膨らませる現象が起こっている(モノを持たずに証拠金を積んでポジションだけ持たせてもらっている状態。値動きの部分だけを切り取った商品といえばわかりやすいと思う。ようは水は入っていないけど、水がある「テイ」で水面のブイだけが上がっていく。これがデリバティブという金融商品の本質だ)。
マーケットの共通ルールとして信用取引の決済期限は6か月と決まっており、先物取引でも大きな限月は3・6・9・12月と年4回に分かれる(メジャーSQという)。大口の投資家がマーケットで売買をするときはだいたいこのどっちかの商品でポジションを取ることが多い。
さて、証券会社のホームページを見るとざっくりと以下のようなルールがわかりやすく書いてある。
先物取引は、取引できる期間が決まっています。期日の前営業日を取引最終日として、それまで取引が行われます。期日当日は最終決済のみ行われます。これを限月取引(げんげつとりひき)といい、限月とは先物取引の最終決済月を指します。
例えば、日経225先物は、3月、9月のうち直近3限月と、6月、12月のうち直近16限月、日経225miniは3月、9月のうち直近3限月と、6月、12月のうち直近10限月およびそれ以外の月のうち最も近い3限月が取引所で取引されています。
先物取引(※)は、各限月の満期日(SQ日)である第2金曜日の前営業日が最終売買日となります。
※NYダウ先物は、原則、各限月の満期日(SQ日)である第3金曜日の前営業日が最終売買営業日となります。
松井証券ウェブサイトより
今回の戻り相場を形成させた商品は大きく3つにわかれ、それらは以下の商品が利用されたと推測する。
ダウ工業平均株価: 18,213ドル(2020年3月23日)
ダウ平均現物(信用取引)・・・2020年9月22日までに強制決済が必要(6か月で反対売買が必要)
2020年9月限のダウ先物・・・2020年9月18日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)
2020年12月限のダウ先物・・・2020年12月17日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)
いちおう日経平均も書いとこうか。
日経平均株価: 16,358.19円(2020年3月19日)
日経平均現物(信用取引)・・・2020年9月18日までに強制決済が必要(6か月で反対売買が必要)
2020年9月限のダウ先物・・・2020年9月10日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)
2020年12月限のダウ先物・・・2020年12月10日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)
上記のあたりで一度利確するかショートポジションを持てというわけではないけど、だいたい、どのあたりで大きな調整が入りそうかの判断材料にはなると思う。
参考:過去の結果
・安倍政権誕生(アベノミクス開始):2012月11月19日→2013年05月23日、日経平均株価が大幅調整(6か月と4日後)。
・日銀による異次元の質的・量的金融緩和発表:2014年10月31日→2015年3月21日、日経平均株価が大幅調整(5か月と20日後)
・トランプ政権誕生(トランプノミクス開始):2016年11月11日→2017年05月17日、ダウ平均株価が小幅調整(6か月と6日後)※この相場は前後に調整が入ったパターン。
相場は上がると思っているけど下がるほうにかける投資家の方はぜひ私の以下の記事を読んでみてほしい。この記事に出てくるナシーム・ニコラス・タレブ氏がアドバイザーを務めるテールリスク・ヘッジファンドは今回のコロナショックの中、3月の運用成績がプラス3,612%とのこと。ダウ工業平均が史上最高値をつける中、逆バリでショートポジション(もしくはプットオプション?)を積み上げ、含み損に耐えながら暴落を待っていたと推測できる。すげぇすげぇ!
http://yudypon.blog.jp/archives/20141116.html
以上、投資は自己責任で。
”強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく”
アメリカの著名投資家 ジョン・テンプルトン
※過去の景気後退
1987年: ブラックマンデー・・・G7によるルーブル合意の協調政策の破綻
1997年: アジア通貨危機・・・新興国通貨の急落と外貨建て借金の膨張と資金引き上げによる深刻な景気後退
1998年: LTCMショック・・・米大手ヘッジファンドの経営破綻
2007年: サブプライムショック(BNPパリバショック)・・・傘下のミューチュアルファンドの解約凍結による信用不安
2008年: リーマンショック(AIGショック)・・・米大手投資銀行の経営破綻
2017年: ←来なかった→
2018年: ←来なかった→
からの
2020年: コロナショック・・・疫病蔓延による実体経済の停止と実需消滅による石油価格暴落
↑今ここ
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