先日、日本のニュースを読んでいたら「SMAP解散か!?」という見出しが目に飛び込んできた。
どうやら大々的に公共の電波を使って「若者が老人に歯向かったらどうなるか」という実況中継が行われていたらしい。
アイドルグループのゴシップネタがトップ記事に掲載される平和な国、いつもながら消費されてすぐに消える。はずだった...。
ところが、このニュースは芸能界やSMAPファンの枠を飛び越え、多くの日本人に衝撃を与えたという。
画像引用元:「情報操作に裏切り!SMAP解散?報道が泥沼カオス過ぎて、何が本当か分からない」より
この報道が「単なるゴシップネタ」として消費されることなく注目を浴びた最大の理由は、現在の日本社会が抱える閉塞感を象徴する出来事だったからだろう。
ここには、多くの日本人にとって、決して他人事とは思えない残酷な一面が浮かび上がる。
この出来事は、日本社会で慢性的な問題になっている「社畜」・「ブラック企業」・「恐怖政治」・「パワハラ」・「老害」・「世襲制」・「公開処刑」・「社会的暗殺」などといった負のエンターテイメントのオンパレードだったからだ。
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【与えられた自由】
SMAPといえば、今や国民的アイドルとして不動の地位を確立し、お茶の間に絶大な影響力を持っていることは私たちの多くが知るところだろう。
それにもかかわらず、封建主義が蔓延する「芸能界」という村社会の中では、老人(所有者・オーナー)によって労働者(奴隷・労働者)の自由が束縛され、彼らでさえも業界内を自由に移動することができない現実が今回の件で浮き彫りになってしまった。
画像引用元:「African chiefs urged to apologise for slave trade」より
私たちが使う「自由」という言葉には2つの意味があると思う。
ひとつは「自らの意思で能動的につかみ取った自由」
もうひとつは「自らの意思によらず受動的に与えられた自由」
英語のニュアンスでは、前者が ”Liberty” 、後者が ”Freedom” ということになるだろうか。
この枠組みで考えれば、労働者の多くが自由だと思っている多くは「与えられた自由」ということになるが、それは彼らのようなトップアイドルでさえも同様の枠組みから抜け出せずに、もがき苦しんでいることがよくわかる。
スポットライトを浴びながら私たちに夢を与え続けてくれるアイドルであっても、その夢は無数の見えない鎖で縛られた虚像であり、すなわち夢とはどこか儚いものなのかもしれない。
これは話の皮肉なところは、何といっても子どもたちに夢を与えるはずの職業に夢がないことを自らが証明してしまったところにある。
結局、クーデターは失敗し、ジャニーズ事務所から行き場を失った中居正広、稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾の4人は公共の電波を使って晒し刑に処せられ、同事務所の経営陣に謝罪、元サヤに収まるという茶番劇で幕を閉じる形となった。
生放送では本心ではないと思われる反省の言葉を述べることを強要され、権力に屈した姿は見ていて非常に気分が悪くなった。
これはまさに、自己欺瞞が蔓延する日本社会を濃縮還元したそのものではなかろうか。
まぁ、それにしても個人的な謝罪を公共電波で報道するのはどうなんだろう?これでジャニーズ事務所の経営陣が快楽を覚えていたとしたら、相当の性癖の持ち主だ。
いずれにせよ、自慰行為を見せつけられた視聴者はたまったものではないよ...。
結局、ライブドア事件や大阪都構想と同様に、マクロの構図で見れば若者が老人に負けるいつも通りのお決まりのパターンである。
私たち若者が受け取ったのは、せいぜいマンネリズムが生み出す不快極まりない安定感と老人に勝てなかったという敗北感くらいだろうか。
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このトラブルの発端はそもそも事務所側とSMAPマネージャーの確執から生まれたものらしい。
【対立の構図】
・事務所側:「ジャニー喜多川(社長)」・「メリー喜多川(副社長)」・「ジュリー藤島(後継者・メリー氏の娘)」、「木村拓哉(残留希望メンバー)」
・マネージャー側:「飯島三智(マネージャー)」、「中居正広(独立希望メンバー)」・「稲垣吾郎(独立希望メンバー)」・「草なぎ剛(独立希望メンバー)」・「香取慎吾(独立希望メンバー)」
画像引用元:「SMAPの今回の騒動の経緯」より
【対立の経緯】
メリー氏:「SMAPは絶対に売れないわ」
飯島氏:「SMAPをアイドルに育ててみせる」
→ SMAPバカ売れ
メリー氏:「まぁ大変、このままでは娘のジュリーの後継者ポジションが危ないわ」
メリー氏:「ジュリーよ、TOKIOや嵐のマネジメントをやって巻き返しなさい」
ジュリー氏:「ママわかったわ、任せて」
ジャニー氏:「まずい、派閥争いで会社に亀裂が生じる。別会社を作ってYouにSMAPを管理させよう」
飯島氏:「わかりました...」
→ 飯島氏のほうがマネジメント能力は格段に高い、ジュリー氏が嫉妬
メリー氏:「(週刊誌に対して)派閥なんてないわ!そんなもん消してしまえ」
ジュリー氏:「飯島、あなたクビよ。対立するならSMAPを連れて出て行って!」
飯島氏:「わかりました...」
→ 飯島氏が独立を模索、芸能界の重鎮たちに根回しを開始
大手芸能プロ:「いいよ、うちで引き受けるよ」
飯島氏:「さぁ、みんな巣立ちの日は近いわ。独立よ!」
SMAP:「わかりました、オレたちは育ての親を選びます!」
事務所側:「え!?」
→ キムタク説得、数日後
キムタク:「オレやっぱジャニーズ事務所に残ります」
飯島氏 & 4人:「マジでーーー!?」
大手芸能プロ:「5人全員じゃないとダメだよ」
飯島氏 & 4人:「マジでーーー!?」
→ 独立希望メンバー行き場を失う
キムタク:「オレやっぱあいつらとやりたいっす」
メリー氏:「いいわよ、でも4人の謝罪が条件ね。しかも公共電波を使ってね!」
飯島氏:「私は身を引く、4人は事務所に戻りなさい」
4人:「...」
→ 生放送収録
4人:「(生放送)す、すいませんでした...」
キムタク:「(生放送)これからは自分たちは何があっても前を見て進みます!」
予想通りネット上は2つの意見に分かれた。
・「キムタクは裏切り者、育ての親とメンバーを見捨てて寝返った」
・「独立組4人は裏切り者、キムタクだけが事務所に留まった」
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【正義の味方はあてにならない】
このトラブル、正直言って善悪という2項対立だけで判断するのが非常に難しい問題だと思う。
なぜなら、これは彼らにとっては完全に「もらい事故」だからだ。
画像引用元:「The Spitfire Grill」より
正義という言葉の意味を考えるとき、私たちはしばしばジレンマに陥ってしまう。なぜなら、正義とはそれ自体が客観性を持ち得るものではなく、あくまでも主観によって移り変わってしまう概念だからだ。
したがって、正義とは絶対的なものではなくて、いつも常識や倫理観などによって相対的に決定される。民主主義社会では一応そういうことになっている。しかし、常識や倫理観などもまた時代とともに変わる。
結果論だけで考えてしまうと、どうしても今回の件は独立組が謀反を起こしたとして悪者扱いされてしまいがちだ(現にされてしまったが、一方でネット上では事務所側が悪者扱いされているようだ。マスコミの印象操作が形骸化しているのがよくわかる)。
考えてみれば、幕末の日本だって同じことが起こっていたはずだ。
徳川幕府に忠誠を誓い幕府の存続を望んだ「佐幕派」と、鎖国状態から開放して新しい国を作るべきだと主張した「開国派」。今回の出来事は、本質を見れば同じような構図になっている。
結局、徳川家は大政を奉還し、明治という新しい時代が到来、開国派の勝利に終わった。この史実は近代日本の夜明けを象徴する歴史的な出来事であり、幕末史を勉強する時、私たちの多くは開国派の奔走する姿に傾倒する(ことが多い)。
しかし、考えてみれば、開国派がやったことの本質は薩長を主体とした外様大名の謀反そのものだ。「勝てば官軍」という言葉があるが、彼らは勝ったからこそ美化されて語られることが多いものの、負けていたら全員が切腹を命じられていただろう。
こうした事例は私たちに善悪で物事を判断することの虚しさを教えてくれる。
いつだって世の中には一方があり、他方がある。
すべては相対的、これだから正義の味方はあてにならないのだ!
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【おわりに】
ギリシャ神話によれば、ダイダロスとイカロスの親子はミノス王の怒りを買い、迷宮に幽閉されてしまう。迷宮を抜け出すために、彼らは蝋(ろう)で鳥の羽根を固めて翼をつくり、空を飛んで脱出した。
父ダイダロスは、息子のイカロスに忠告する。
「イカロスよ、海面に近付きすぎてはいけないよ、あまり低く飛び過ぎると蝋が湿気でバラバラになってしまうからね。それに太陽にも近付いてはいけないよ、あまり高く飛び過ぎると太陽の熱で溶けてしまうからね。いいかい、空の中くらいの高さを飛ぶんだ」。
しかし、自由自在に空を飛べる翼を手にしたイカロスは自らを過信してしまい、太陽にも到達できるという傲慢さから太陽神ヘリオスに向かって飛んでいった。
その結果、太陽の熱で蝋が溶けてしまい、イカロスは墜落死した。
この物語は、「人間の傲慢さが自らの破滅を導く」という戒めと「自らの手で翼を作り飛び立ったイカロスの勇気を褒め称える」という称賛の2つの教訓を含んでいるようだ。
そう、この教訓は見方によってはいずれも正しいということ。
だけど...
あなたが理不尽極まりない封建社会を生きる道を選んだのなら「長いものには巻かれろ」ではなく、とりあえず「巻かれたふりをしろ」が正解なのかもしれない。
面倒くさい世の中だけど、Youたち...
笑顔抱きしめ カラダに活力(ちから)
辛いことなら 弾きとばせ
君が微笑えば 周囲(まわり)の人だって
いつの間にかしあわせになる
(SMAP「オリジナルスマイル」)
Youたち、笑っちゃいなよ!!
(参考: The Huffinton Post「SMAP解散騒動に見る夢のある職業とは」)
(参考: アゴラ言論プラットフォーム「奴隷はなぜ逃げないのか-SMAP独立騒動から」)
(参考: 日刊スポーツ「SMAP解散報道から1週間/騒動経過まとめ」)