柱の裏の落書き

ひまつぶしにぶつぶつ書いてみる

グローバル社会

日本語と帰属意識


「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」

川端康成『雪国』より

この文章は明らかに主語が抜けている。

これは「日本語には主語がなくても文章が成立する」という特徴を、非常によく表している現象だといえる。

では、これを英文ではどのように訳しているのだろうか?

"The train came out of the long border tunnel - and there was the snow country."

汽車は長い国境を抜けトンネルから出て、そこには雪国があった)

Edward G. Seidensticker(1921-2007)訳 

ここでは主語として The train (汽車)が主語に補足されており、したがって英文訳では「汽車(列車)」が主語ということになる。

日本語はいろいろな「もの」を省略する便利な機能があるが、主語はその典型だといえる。むしろ、主語は「省略」ではなく、そもそも日本語に主語などという概念はない、という研究者もいる。

省略されていても、曖昧であっても、そんなことは通常、一般的な日本人なら気に留めないだろう。しかし、これは別の見方をすれば、曖昧な状態を頭に残したまま思考を進めている、ということでもあるのだ。

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【成田空港での違和感】


先月、久しぶりに日本に一時帰国をした。

成田空港に着き、エスカレーターの下り口まで来ると、以下のような看板が掲げられていた。

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「おかえりなさい」

大きな日本語のすぐ横に併記されている"Welcome to Japan"との英語のメッセージの対比を見ながら、日本語をご存じの方であれば、この看板をひと目見て、日本語で示す「私たち」(日本人)とそれ以外である「彼ら/彼女たち」(外国人)がどのような意味で分けられているのかがひと目で分かる。

ここでいう、「おかえりなさい」とは"Welcome to Japan"ではなく、"Welcome home"の意味で用いられている。

少なくとも私が知る限り、英語圏の国でこのような区別がされている空港を見たことがない。

20090917090547
https://f.hatena.ne.jp/yukinho/20090917090547

私の理解が正しければ、この「おかえりなさい」という言葉は通常、①「内側にいる人」が、②「外側の世界に出て」、③「また内側に戻って来た時に」、④「内側にいる人たちからかけられる言葉」であり、そして⑤「外側から戻ってきた人が内側に帰属意識があることが前提」である。

私は人生の4分の1以上を海外で生活しているので、私のアイデンティティは日本人ではあるものの、私の家・生活の拠点は長いこと日本の国外にある、いわゆる日本の非居住者である。

これだけ長く海外にいると、もはや外国の家が私の主たる居場所であって、日本には「帰る」という感覚よりも、むしろ「行く」という感覚が強くなっている。

成田に着いたとて、私の家はもはや日本にはないのだ。


日本にいる日本人には当たり前かもしれないが、日本の非居住者になると銀行口座も作れないし、クレジットカードも作れない。私たち非居住者の属性は日本では「住所不定・無職」とみなされる。

大多数の日本国内にいる日本人にとっては当たり前の感覚が、私のような海外居住者にとっては逆に不思議な感覚になるのだ。

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【疎外感と排他性】


"Welcome to Japan"は言うまでもなく「ようこそ日本へ」だろう。

これは、日本語が分からない外国人には理解できないため、それはそれでいいという割り切った考え方だ。たいていの外国人は日本語が分からないし、それはそれでいいのだ。

つまり、日本語の「おかえりなさい」に目を通さない「彼ら/彼女たち」(外国人)は、よその国から来た人たちなのだから、ここでは"Welcome Home"である「お帰りなさい」を使ったところで、さほど問題にはならないし、意図的な翻訳ミスを指摘する人はいない。

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この「おかえりなさい」の文字を見るその対象者は、大多数が日本に居住する日本人で、日本語を母語としているため、「おかえりなさい」そのものが問題だとは思わない。

しかしながら、「おかえりなさい」という日本語の表現と同時に、「ようこそ日本へ」という日本語表記がないことは、海外で暮らす私たち非居住者の日本人(少数派)にとっては、何ともいえない疎外感(逆差別)を覚え、それが「大きな政治問題」にもなり得る。

日本語で「ようこそ日本へ」という表現がないこと自体、大多数の日本人が無意識のうちに形成している「排他性」が、そこにはあるからだ。

ここに、長年にわたり海外に住む日本人が感じる、「目に見えない壁」がある。

グローバル化の今、海外に住む日本人の数も多くなり、また日本に住む外国人の数も多くなった。

長く海外に住み、日本への帰属意識が薄れつつある日本人、それとは反対に長く日本に住み、日本への帰属意識が強まっていく外国人。

日本語で書かれた「おかえりなさい」という表現は明らかに20年前、30年前の感覚とは大きくその意味合いが変わりつつある。

日本の空の玄関口・成田。そこにはグローバル化の波に揺れる、ある種の葛藤が見て取れた。

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(参考:東洋経済「川端康成「雪国」が思考力を養うのに最適な理由」より)

(参考:Yahoo!Japan「知恵袋」より)

米中新冷戦の行方③~令和の役、尖閣防衛にカミカゼは吹くか~


あなたが消火器の訪問販売員だったとしたら、民家や集合住宅を回ってどうやって営業をするだろうか?営業活動には適切な段取り、そして顧客の財布のヒモを緩めるための感動的なシナリオが必要だ。

最も簡単で効率的な方法がマッチポンプ方式だろう、ただしこれはまともな人間がやると、売上成績と倫理観の狭間でもがき苦しみ、やがて精神が崩壊するかもしれない。

まずは近所に放火魔をたくさん配置して治安を悪くし、次に消防服を来て消火器の営業にいく。あなたの仕事は、この消火器がいかにお客様の身の安全を守ってくれる商品であるかを親身になって説明することだ。

ただし、あなたは商品を売って終わりなので、残念ながら優秀なビジネスパーソンとは言えない。そこで、万が一火事が起こった時に、-ある一定の条件さえ満たしていれば-、あなたも消火活動に参加するという特約(特別契約)をオプションとして提案してもいいだろう。これだと消火器を売ったお金(一時収入)だけでなく、毎月定額の保険料(継続収入)が入ってくる。

もっとも、治安が悪くなりすぎて契約した全部の家が本当に燃えてしまうと、加入者全員を助けることができなくなってしまい、サービスを提供できなくなる。また、サービス内容に不満を持って加入者がいなくなってしまうと今度は定額費用の入金が途切れてしまう。

本音を言えば、放火魔には火をつけるふりだけしてもらって、実際には何もしないでもらいたい。そうすれば保険会社には保険料(売上)だけが入ってくるし、保証金(経費)を支払う必要はないので、売り上げがそのまま利益になるのだから。

警察や警備会社は事件があるからこそ職業として存在する。ウィルス・セキュリティー対策ソフト会社はハッカーがいるからこそ商売になる。私たちが住んでいる社会は、絶妙な需要と供給のバランスの上に成り立っているのだ。

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【ビジネスとしての安全保障】

2021年1月、アメリカは共和党のトランプ政権から、民主党のバイデン政権に引き継がれた。政権発足後、東アジアの防衛力強化のために首脳会談ではじめに指名した同盟国、それは日本だった。



バイデン大統領と日本の菅首相はいったいどんな会談をしたのだろうか?菅首相は「日本は防衛費を高め、アジア地域における責任を持つ!」といった趣旨のことを記者会見で話しているのがニュース報道で流れていた。

日本はいつだってアメリカにとっては非常に良いオトモダチ(商売相手)だ。中国、北朝鮮など、日本の周辺には必ずしも民主主義という基本的価値観を共有できない国家がいくつかある。アメリカは安全保障条約(継続課金型の保険商品)によってオトモダチを守らないと信用問題にかかわる。アメリカにとって、太平洋の反対側に位置する日本は地政学的にも営業活動がしやすい場所だといえる。オトモダチの家(日本)の周りには火薬庫があるような状態だから、きっと消火器をたくさん欲しがるに違いない。

覇権国家アメリカの重要な任務は、自らが率先して世界中に火種を蒔き(国どおし敵を作らせ)、そして自らの手で消火活動(治安維持)をすることだ。理想的なのは消火器(ミサイルや航空機)を売りつつ、火事(戦争)が起こる直前で放火(軍事衝突)を止めることが望ましい。こうすれば軍事国家であるアメリカは安定した販売ルートを構築し、継続的に商品(武器)を輸出し、安定収入(機器のメンテナンス費用や安全保障費)が継続課金されるという素晴らしいビジネスモデルが完成する。

つまりアメリカの本質的な仕事は、放火魔の配置と消防署員の配置を一人二役でこなすということだ。ここで、アメリカが日本に武器を売る場合、どのような営業活動が有効かを考えれば、アメリカは中国や北朝鮮を煽りまくり、太平洋周辺の治安を悪化させることだ。当然ながら、中国や北朝鮮もアメリカに対して抗議する。

この時、アメリカにとって太平洋の防波堤となるのが日本だ。日本にとってはたまったものではないが、アメリカにとってはモノを売るための環境整備が整う。あとは契約書を持参し署名をもらえれば契約は成立する。

(ダッテエイギョウシタラゼッタイニショウヒンヲカッテクレルンダカラネ)

時々、ふと思うことがある。この世界は予め計画されたもので、誰かが書いた台本通りに歴史が進んでいると考えたらどんなに気が楽なことだろうか、と。そして、そのシナリオはドキドキするストーリーだけれども、最後はハッピーエンドで終わるという展開だ。ただ、時には台本通りにいかず、筋書のないドラマも存在する(こともあるらしい)。

おそらくバイデン大統領は念を押すように菅首相にこういったのではないか?

「台湾の次は日本の番ですよ、尖閣はおたくの国の領土ですよね?今の状況理解してますか?」

(コンカイハスコシヤリスギタカモシレナイ、ニホンハガンバッテジブンノクニヲマモッテクダサイネ)

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【平和ボケ国家、日本】

日本人は水と安全は昔から無料(タダ)だと思っている、何とも平和ボケした幸せな人たちだ。私も日本人なのでこの感覚がどういうものかよくわかる。そして幸か不幸か日本人は性善説で物事を考える人が多い(ように感じる)。

今でも日本の田舎を旅行すれば無人販売機という常識では考えられない仕組みがあって、畑に置いてある小さな箱にお金を入れて、好きな野菜を選んで持ち帰ることができる。誰も見ていないし盗もうと思えば簡単に盗める、にも関わらずみんなきちんとお金を入れて帰る。つまり野菜を売る農家の人たちも、野菜を買う人たちも絶対に盗まないというある種双方の究極の信頼関係によってこの仕組みは成り立っている。

私は世界中いろんな国を旅したが、こんなミラクルな仕組みはこれまで見たことがない。お天道様が見てるから、という理由で日本人は悪さをしないのだそうだ。これは日本人が世界に誇れる民度の高さだと言える。

しかし、今回はそれが裏目に出るかもしれない。

中国は核心的利益である「香港」を併合し、間もなく「台湾」の併合を本格的に始めると言われている。「台湾」が終われば、最後に残っているのは「尖閣」だ。これらをうまいこと手中に収められなければ海洋航路が封じられ、一帯一路構想が夢で終わってしまうのだから中国も必死だ。

尖閣諸島位置関係図
出典:海上保安庁「尖閣諸島の位置関係」より

中国から見れば台湾も尖閣も同じように見えるだろう。台湾は何もしなければ早かれ遅かれいずれは中国に併合される。これは尖閣も同じだ、もっと言えば沖縄も同じように映っているだろう。 

地図を見る限り、台湾は日本と明らかに地政学上つながっており、日本の南西に位置する不沈空母の役割を果たす。台湾が陥落すれば尖閣だけでなく、沖縄まで併合される可能性がある。

また、東シナ海を通る台湾海峡は日本にとって重要なシーレーン(海洋航路)だ。台湾海峡が封鎖されたらタンカーが通れない、そうなると石油などのエネルギー資源、食料などを輸入に依存する日本にとっては死活問題となる。中国は台湾を併合できれば、日本を攻略できる最も重要な軍事拠点が手に入ることを意味する。 

だから台湾問題というのは台湾だけの問題ではなくて尖閣、ひいては日本そのものの安全保障問題でもある。台湾から日本の与那国島まで距離にして100km程度しかない、これは対岸の火事ではない。

sakasa_map
出典:東洋経済ONLINE「「逆さ地図」で見る、中国にとって邪魔な日本」より(一部画像修正)

地図にプロットした赤い点は台湾・尖閣周辺の米軍基地がある場所を示している。時計と反対周りに左から韓国の西沢基地、日本の長崎県佐世保基地、日本の沖縄基地、そしてフィリピンのルソン島にあるスービック基地だ。

中国がもし本当に台湾・尖閣を併合しようとしたら、まさかいきなり台湾本土に軍事侵攻してくるとは考えにくい。中国の立場で考えれば、戦略としてアメリカや日本が介入するのを防ぐほうが先だ。もしくは尖閣を先に取ってしまい、軍事拠点化すれば台湾には本土と尖閣の2方向から侵攻できるようになる。尖閣は幸いにも無人島なので、明らかに台湾よりは取りやすいだろう。

どちらが先になったとしても、アメリカの軍事機能を低下させるためには、沖縄基地を先に攻撃したほうが中国にとっては都合がいい。 

韓国は北朝鮮との関係があるので台湾・尖閣に兵を集中できない運命にある。もし南方向に在韓米軍を集中させると韓国本土は北方面の防衛が手薄になるため、バックアタックで北朝鮮が韓国に攻めてくるチャンスを与えてしまうことになる。在韓米軍が去った後、韓国軍だけで北朝鮮からの侵略に対抗できるだけの力があるだろうか。

フィリピンはドゥテルテ大統領が親中派に傾いている。本音はどうだかわからないが、2019年から南シナ海の開発を中国と共同で進める方向で一致しているし、新型コロナウィルスのワクチンも中国の支援を受けなければならない状況にある。本音はどうだかわからないが。

そうなると消去法でアメリカ軍の動きを封じる場合、沖縄もしくは日本の西海岸にある佐世保あたりの空港や軍事施設を破壊してから台湾・尖閣を一気に取りに来ると考えるのが普通だろう。

現に南シナ海を先に取ったのは明らかにアメリカの動きを封じるためだろうし、南シナ海の軍事施設はほぼ完成状態にあり、アメリカの第一列島線の侵入は阻止できるくらいのレベルにまで至っている(南シナ海の軍事施設の完成を急ぐあまり、アメリカ軍の動きを封じるためにコロナウィルスを生物兵器としてばら撒いた、と考えるのは行き過ぎだろうか。偶然にしては、だいぶタイミングが良すぎる)。

(ワクチンヲジゼンニヨウイシトイタカラ、カンセンガカクダイシタラマワリノクニニアゲヨウカナ。キットオトモダチガフエルハズ)

一方で中国としては、たかだか対岸にある台湾を攻略するためだけに、わざわざアメリカや日本を巻き込みたくないという思惑もあり、ここで中国は相反する矛盾に陥る。なにせ、本当に軍事衝突を起こしてしまうと、アメリカは本土攻撃は免れるが、中国は本土から近すぎるため一定の被害が生じることが予想される。

もし中国本土が攻撃されたとなれば、それは中国共産党のメンツにかかわる大問題となる。終身国家主席という前代未聞の地位獲得を目指す習近平政権にとっては大きな痛手となるだろう。

現在、中国は大量の鉄を備蓄しており、間もなく備蓄が完了する見込みだ。戦争には大量の鉄が必要ということを考えると、これは軍事侵攻開始の予兆だともいえる。

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【日米安全保障条約第5条

2010年、中国の漁船と日本の海上保安庁の巡視船に衝突し、日本では大きなニュースになった。たしかこの事件が、「尖閣」という領土問題を日本人が意識し始めるきっかけになったと記憶している。



日本政府は尖閣諸島を日本固有の領土であると主張している。



中国政府は尖閣諸島を中国固有の領土であると主張している。



私はアメリカと中国をなるべく中立的な立場で比較しているので、政治的な論争には加わらない方針だ。ただし、日本人の立場でいえば、尖閣は当然日本の領土であってほしいと願っている

とはいえ、尖閣諸島は現在無人島であり、日本政府は本気で尖閣諸島を守る気があるのかと疑問ではある。国際社会の常識から考えれば、領有権を主張している無人島があったとして、公務員を済ませたり行政の標識を掲げたりしていないとなると、それはどう考えても実質支配する気がないとみなされるだろう。

私がたまたま知らずにその島を見つけたら、すぐに誰かを移住させ、家や標識を建ててあっという間に実行支配してしまうかもしれない。

(私は海外在住者のため、長いこと日本に住んでいないが)日本人である私がそう思っているくらいだから、アメリカなどの諸外国も同じように、日本政府は一体何を考えているのか不思議でしょうがないだろう。まさに日本の常識は世界の非常識である。

さて、日本から見ればこの家(いちおう日本政府の領土と仮定して)は保険契約に加盟しているらしい。保険の特約(日米安保条約)を見る限り、施政権による実行支配がないと、安全保障サービスの適用対象外になるようだ。施政権とは信託統治において、立法・司法・行政の三権を行使する権限のことをいう。

第五条

 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

外務省の解釈には以下のように書いてある。

第5条

 第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である。

 この条文は、日米両国が、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」としており、我が国の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃を含め、我が国の施政の下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合には、両国が共同して日本防衛に当たる旨規定している。

 第5条後段の国連安全保障理事会との関係を定めた規定は、国連憲章上、加盟国による自衛権の行使は、同理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの暫定的な性格のものであり、自衛権の行使に当たって加盟国がとった措置は、直ちに同理事会に報告しなければならないこと(憲章第51条)を念頭に置いたものである。

外務省ウェブサイト「日米安全保障条約(主要規定の解説)」より

赤い部分が保険契約の特例を意味していて、「我が国の施政の下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合には」というのがアメリカ軍が介入するための条件となっているらしい。

その家(尖閣)の玄関には鍵をかけず、いやむしろドアが開けっぱなしの状態であって、その家には表札もかかっていないし、侵入者を守る防衛柵も設置していない、立ち入り禁止という看板もない。一見すれば簡単に家の中に入れそうではあるが、どう考えてもそんなはずはない。

中国は中国で違った意味で日本を恐れているに違いない。例えが適切かどうかはさておき、隙あらばと狙っている泥棒が家主の様子を伺っている場合を想像してみてほしい。本当に平和ボケして無警戒なのか、もしくは何かの戦術(トラップ)なのか判断ができないからだ。

*

有事の際にアメリカ軍は本当に介入するのか?

中国はいざとなったらアメリカが出てくると面倒くさいので、どうするか様子見をしながら併合の機会をうかがっている(さっさと海洋ルートを完成させて気兼ねなく貿易商売をやりたい)。

台湾は親日国家であり、いざとなったらオトモダチの日本が台湾と一緒に戦ってくれると思っているらしい(ボクたちはとても仲の良いオトモダチだから)。

日本は親米国家であり、いざとなったらオトモダチのアメリカが日本の代わりに戦ってくれると思っているらしい(高い保険料を支払っているのだから特約を使う時がきた)。

アメリカは保険会社であり、いざとなったらさすがに自分たちの領土は自分たちで守るに違いないと思っているらしい(保険料を払ってもらってはいるが、さすがに自分の家が火事になったらそりゃあ自分で消火器を使って何とかするだろう)。

イギリスやフランスなどの同盟国は日本と同様、アメリカに高い保険料を支払っており、いざとなったらアメリカは特約に基づいて本当に軍事介入するのかを疑っているらしい(このまま高い保険料を支払い続けてもよいものか様子を見よう)。

アメリカの言い分はこうだ、「日本が台湾を守らない=アメリカが日本を守らないのと同じことである」。

バイデン大統領が就任早々に対面の首脳会談で日本を選んだのは言うまでもなく対中戦略を見据えたものであり、東アジアは日本が中心になって守れ、という強いメッセージであることは間違いないだろう。

(ウリアゲハホシイケドケイヒハハライタクナイ、ダッテマルゴトリエキニナルンダカラネ)

もっともアメリカが台湾や尖閣に介入せずに見捨ててしまうと、今度は他の同盟国との信頼にかかわることになる。アメリカはアメリカで立場が非常に難しく、最前線には出ずに後方支援くらいをするにとどめるのではないだろうか。

いずれにせよ、シグナルを発し続けなければ中国の進行は止められない。

日本はかつてロシアに北方領土を占領され、韓国には竹島を実行支配され、何もできずにいる。また、アメリカは現在のところ、これらについて何のアクションも起こしていない。

そう考えると、尖閣有事が発生しても結局は実行支配されて終わってしまう気がするのは私だけだろうか?

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民主主義の逆用 

中国としてはなるべく武力を行使せずに穏便に「④台湾」と「⑤尖閣」を手中に収めたいと考えている。結局のところ、戦わずして敵に勝つことが最もコストパフォーマンスが良いのだから。

私はいずれ台湾・尖閣が占領されてしまうと考えているが、当面の間はソフトパワーによる軍事侵攻が続くと予想している。それはすなわちサイバー攻撃だ。

21世紀を迎え、世界がグローバルする中で先進国どおしが武力衝突することはイメージしにくい。そうなると、陸・海・空よりも近代的な戦争はサイバー空間が主戦場となるだろう。

たとえばロシアが2004年のソチオリンピック終了直後にクリミア併合に向けて行動を開始したことは記憶に新しい。

ロシアはクリミアを併合するにあたり、選挙という民主主義の仕組みをうまく使った。民主主義は住民選挙によって過半数を取得すれば民意を持って政治を動かすことが可能となる制度だ。ロシアは事前にロシアに投票する住民をクリミアに集結させ、その上で住民投票を行った。ウクライナとロシアどちらにつくのがよいか?という選挙で親ロシアが過半数を取れば、それはすなわち民意によって軍事侵攻せずともクリミアを併合できることになる。

おそらく中国はこの手法を相当研究していると思われる。たとえば沖縄の選挙で圧倒的多数の尖閣放棄を主張する住民を終結させ、その上で住民投票を行ったら、尖閣は軍事侵攻せずに民主主義のルールに基づいて中国領土に併合することができてしまうことになる。

ちなみに中国は台湾に対してこの方法を試したが、自由を奪われた香港のニュースを見た台湾の人たちは当然ながら民主主義を支持する政権を支持し、結果として中国の挑戦は失敗に終わった。中国はサイバー能力のレベルが格段に上がり、その能力は今やアメリカを凌ぐとも言われている。仮に選挙結果をサイバー攻撃で中国有利に書き換えることができたら、と想像するとなんとも恐ろしいことが起こりそうだ。

東京オリンピックが無事に終わり、現在開催中のパラリンピックもまもなく閉会式を迎える。来年2月には北京での冬季オリンピックが控えている。冬季オリンピックが終わった後の中国は何を考えているのだろうか?そして冬季オリンピックは西側諸国のボイコットや中国国内のデルタ株(変異型コロナウィルス)の蔓延で中止が危ぶまれてもいる。冬季オリンピックが中止になった場合、その導火線はさらに短くなるのかもしれない。

中国は核心的利益である「①ウイグル」に対して、「同化政策」「大量虐殺」を行い、「②南シナ海」に対しては「人工島の建設」「フィリピンやベトナムとの衝突」を行い、「③香港」に対してはイギリスの作った「選挙制の形骸化」を行った。残る「④台湾」と「⑤尖閣」に対してはどのような手段で取りにくるのだろうか?

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【令和の役、尖閣防衛にカミカゼは吹くか】

アメリカ軍のシミュレーションによれば、東シナ海有事(令和の役と名付けた)が発生した場合、台湾・尖閣いずれも防衛に失敗するという結果が出ているらしい。世界最強のアメリカ軍でさえ、敵国本土を目の前にした局地戦には戦力的には不利、という結論なのだろう。

(チュウゴクガキケンダトイワナイト、ボウエイヨサンガモラエナインダモン)

日本の歴史を見る限り、国土の西側から大規模な侵略を受けたのはおそらく元(当時の中国)との戦争が初めてのことだろう。元寇と呼ばれるこの出来事は「文永の役」「弘安の役」という二度の襲撃に対し、日本にはカミカゼが吹いて日本が防衛に成功したと伝えられている。

元は三度目の襲来を計画したものの、中国大陸南部での反乱などがあり、日本への襲来は延期となり、さらに総帥であったフビライの関心が国内の平定やベトナム遠征へと関心が大きく変わり、そのうちフビライの死を以て、この計画は完遂せずに終わったという。

カミカゼとはたまたま発生した暴風雨や台風のことを神聖化した表現であり、(時の執権・北条時宗の指揮能力の高さ、鎌倉武士たちの必死の防衛があったことは言うまでもないが)それは外部要因によって日本は救われたとも考えられている。

興味深いのは、当時のフビライが日本侵略と同時に国内での反乱を鎮圧するのにも苦慮していた状況が現在と重なるところだ、もしかしたら国外進出どころではなくなってしまったのかもしれない。現在の中国共産党も、東シナ海への海洋進出を図ると同時に、国内に反乱分子が多すぎて、とうとう第二次文化大革命に乗り出したことからも、当時と状況が重なっているようにも見える。

中国では最近、中国を侮辱する書籍などの出版禁止、台湾歌手の歌を禁止、教科書を改訂し習主席の思想などを取り入れた教育制度への改革など、中国共産党を内部から壊そうとする勢力に対して警戒していると思われる政策を矢継ぎ早に実行している。



真の敵は内側にありということか、社会主義や共産主義の宿命はいつも外からの攻撃ではなく、内側からの裏切りによって終焉する。今回はどういう結末になるのだろうか?

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アメリカが選択した究極の丁半博打

中国は現在、中国人民元の巨大経済圏を作るべく、一帯一路構想を急ピッチで進めている。そんな中、アメリカが一帯(陸のシルクロード)の要所であるアフガニスタンからの撤退を表明、中国は待ってましたと、ここぞとばかりにアフガニスタンの支援にまわった。

なお、アフガニスタンはイギリス統治、旧ソ連の統治を得てアメリカが統治。誰が試してもうまく統治できない特殊な地域だ。アメリカはこの面倒な地域を中国に押し付けたとも考えられる。

中国は外交慣例上、反政府勢力を認めない方針であり、一方でアフガニスタンを陥落させたタリバン政権は共産主義を認めない方針を取っている。両者が協力関係を築いたのは何とも不思議なめぐり合わせだ。

どう考えても両者のイデオロギーは矛盾に満ちている、どこかで何かが起こりそうな嫌な予感がする。


中国は一帯一路の要所であるアフガニスタンを何とか平和に維持したい思惑があり、タリバン政権をうまいこと内陸部の国境警備隊にしたいと考えているようだ。中国にとってみれば過激派のタリバン政権と敵対するよりも支援にまわったほうが、内陸(一帯)国境付近の治安が維持でき、心置きなく海洋進出(一路)に集中できるからだ。

一方でタリバン政権にとってみれば、支援金という名目で中国からお金がどんどん入ってくるのだから大歓迎というわけだ。万が一、中国に反発する国家があろうものなら直ちに中国はタリバンに警備を外注化し、反発する国家にテロリストを送り込むことだってできるだろう。考えただけでも恐ろしいシナリオだ。

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出典:Wikipedia「アフガニスタン=中国国境」より

しかしその一方で、中国にはタリバンを絶対に敵に回したくないという思惑も見え隠れする。アフガニスタンの北東部(ワハーン回廊)は中国とわずかに国境を接しており、中国側の国境は新疆ウイグルにつながっている。ここはかねてからウイグルへの密輸ルートとして使われているのではないか、という懸念も出ている場所だ。

なお、中国が弾圧している「ウイグル」はイスラム教を信仰しており、タリバン政権も言うまでもなくイスラム教原理主義者の集まりだ。イスラム勢力がこのルートを使って各種の情報交換、物資の密輸などをしていてもおかしくはない。

中国はチャンスと思ってアフガン支援に回っているのか、ピンチと思ってアフガン支援に回っているのかは不明である。中国にとっての最大の恐怖はタリバンが反中勢力にまわってしまうことだ。ウイグル人を弾圧した中国にとって外部からのイスラム過激派の流入は何としても防がなければならない。

ある日突然、タリバンが迫害・弾圧・同化政策に苦しむ同胞(ウイグル民族=イスラム教徒)を救出すべく、ウイグル解放に向けて宣戦布告(ジハード)をしようものなら、中国には西側からイスラム過激派のテロリストたちがウイグルを経由してどんどん国内に流入することになる。中国にとって、この最悪の事態は何としても避けなければならない。

EkSYv-xU0AENMsQ
ツイッターで#中国分裂を調べたところ、すでに削除済だが、何とも物騒な画像が出てきた。。。

もしこんな事態が本当に起きてしまうと、ウイグルは独立を宣言する。そうなると、待ってましたとばかりにチベットにも飛び火し、香港にも飛び火して国内動乱で手が付けられなくなるだろう。これでは1991年のソ連崩壊と同じ運命を辿ることになる。



そうなると中国にとっては内陸部の鎮圧で海洋進出(台湾・尖閣問題)どころではなくなってしまう。このタイミングでバイデン政権が批判を覚悟でアフガニスタンから撤退したのは何故か?と考えるとある仮説が浮かび上がる。

アメリカにとってはタリバン(イスラム過激派)と中国がお互いをつぶし合うのはメリットがある。一方で、情勢を読み間違えれば反中国で協力している同盟国には警備員として多数のイスラム過激派が流入し、同盟国の治安悪化を招いてしまうリスクがある。

アメリカ軍は意図的なのか、それとも撤退を急いでいたために時間がなかったのか、アフガニスタンに大量の最新兵器を残してきており、それらは当然ながらタリバンの手に渡っている。これは諸刃の剣、アメリカにとっては究極の賭けだといえる。

このように、アメリカとタリバンの間に何かの密約があるとすれば、東アジアに位置する日本にとっては、中国の内陸問題が発生すると戦わずして尖閣の防衛ができる。ただし、それはまた別の地域の多大な犠牲の上に成り立つことでもあるのだ。

現在、アメリカ軍のアフガニスタン撤退は不自然なほどに急ピッチで進められている。それは裏を返せば、「それ以外のどこかの地域」に兵力を集中させなければならない事態が水面下で起こっている、ということのシグナルかもしれない。

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究極の経済制裁・ドル決済の停止

もし、アメリカが中国を本気で潰そうとした場合、最後の最後に行使する切り札はドル決済の停止だろう。これは極めて有効な作用がある一方で、強烈な副作用も生じるため、いわば経済の核兵器ともいえる。ちなみにソ連はこれをやられたことで息の根を止められ、崩壊に至ったと言われている。

例えばA国とB国が貿易取引をする場合、必然的に国際決済通貨を介して行われる。いうまでもなく、現在の世界の基軸通貨はアメリカドルである。言い換えれば、「国際決済の大部分はアメリカ国内で、アメリカドル建て」で行われている。

このような国際決済を各国が自国通貨で交換しようとすると、膨大な組み合わせの為替交換が発生し、コストが膨らんでしまう。それは文字通り費用面の手数料でもあり、事務処理の手間でもあり、何しろ交換相手を探すのにも時間がかかる。A国からB国の通貨を直接交換するということは、B国からA国の通貨に同じ金額を交換する相手を探さなければならず、金額が大きな取引をしたい場合、なかなか大変な作業だ。

一方で、基軸通貨の発行国であるアメリカは、すべて自国通貨建てで簡単に実施できる。なぜなら自国通貨がアメリカドル(米ドル)なのだから笑。これは自国通貨が基軸通貨となっているアメリカだけに与えられた特権だ。

どういうことかというと、基軸通貨を使うことを前提とすれば、それぞれの取引で基軸通貨と自国通貨の間の交換を行うだけで済むことになる。

A国の会社からB国の会社への支払いが米ドルで決済される場合、代金は最初にA国の通貨から米ドルに交換された後、今度はA国の取引先銀行からB国の取引先銀行へと支払われる。その際、決済を行う銀行同士が、通常は決済通貨の発行国の銀行口座を介して決済資金の付け替えを行う(これをカバー取引という。当たり前だが、まさか膨大な紙幣をA国からB国に物理的に送りつけるわけではない笑。銀行の決済は電子上のデータでプラスマイナスを調整するだけで完結する)。

つまり、「A国の取引先銀行がアメリカに持っている銀行口座」から「B国の取引先銀行がアメリカに持っている銀行口座」に資金が支払われることで取引が成立する(この役目を果たす銀行をコルレスバンク=中継銀行という)。簡単に言えばA国とB国の取引はアメリカにある銀行内で完結するということだ。

コルレス
出典:Dijima~出島~「海外送金の方法と手数料の比較 | 国際送金の基本的な仕組みを解説」より

このように多くの国際決済は実は米ドルを介して行われている、だからアメリカは基軸通貨であるドルの地位を守るために、そう簡単には覇権を中国に引き渡すことはしたくないのだ。

米ドルを中心とする現在の外国為替市場では毎日相当額の取引が行われているため、取引の板が厚い。「A国の通貨⇒米ドル」「米ドル⇒B国の通貨」、A国とB国の取引は米ドルとの交換相手を見つけるだけでいいため、取引相手を探すのが非常に簡単だ。

アメリカ政府は、アメリカ国内の銀行やその他金融機関の取引情報を厳しく管理している。つまり米ドルを介した国際決済は国内の決済システムを通じて、すべて米国政府に把握されているのだ。つまりドル決済の禁止とは事実上「貿易決済の禁止」と同じ意味を持つことになり、これをやられた瞬間に中国の一帯一路計画は頓挫し、そもそも中国の国内経済と一帯一路経済圏が一瞬で崩壊する。

現在、中国で米ドルに交換できる唯一の場所は香港である。だからこそ、先日の香港基本法の付属文書である半外国制裁法の改正を見送ったのだろう。中国共産党はある致命的な問題を見落としていた。中国人民元は米ドルのペッグ通貨(連動通貨)であり、人民元の信用の屋台骨が米ドルである、ということを。米ドルにとってみれば、人民元はいわばこども銀行券のようなものなのだ。



先日、中国がタリバン政権を支援することを発表したまではいいが、タリバン政権はそもそも国連の経済制裁の対象となっている。万が一、中国の銀行がタリバン政権に支援金を送金をしようものなら、中国の銀行は制裁リストに基づき、ドル決済が禁止されることになるだろう。中国は送金が完了した瞬間に経済制裁を受け、タリバン政権は中国からの支援金を受け取った後、ウイグル解放の資金として活用する。アメリカはここまでのシナリオをセットにしたうえでアフガニスタンからの撤退を決めたのだと思う。これでアメリカにとっては海と陸からの中国挟み撃ち準備が完了する。

なお、中国が一帯一路を急ピッチで西へ西へと進める最大の理由は、中国が独自の経済圏を持っていないことへの焦りでもあるだろう。中国の通貨である人民元は中国共産党によって為替が管理されているため、人民元は国際的な信用がなく、人民元で取引をしたい人よりも米ドルで取引をしたい人のほうが圧倒的に多い。だからといって人民元の管理をやめてしまうと中国はその瞬間に資本主義経済に変わってしまい、中国共産党は存続危機に陥るという二律背反のジレンマに苦しむことになる。

もっとも、アメリカが中国に対して本当にドル決済の禁止をやってしまったら(トランプ政権は実施する準備をしていたらしい)中国崩壊という作用をもたらす一方で副作用が甚大になるだろう。報復として今度は中国が保有している大量のアメリカ国債を売却すれば、金融市場が大混乱に陥り、世界恐慌に発展しかねないからである。そうなると、日本も尖閣どころの話ではなくなる。

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アメリカや日本から見れば、傍若無人に振る舞う中国は何としても弱体化させる必要があると考えている。しかし、その一方で何としても崩壊させないようにする必要があると考えている。中国が強くなりすぎても問題だし、弱くなりすぎてもそれはそれで別の問題を抱えることになる。

世界がグローバル化して経済が密接にリンクしてしまった以上、中国崩壊のシナリオは、当時のソ連のような副作用では済まないだろう。これまで起きたチャイナショックの事例は、比較的小規模なものであったが、それでも世界が風邪をひいたくらいの影響を及ぼした。

ソ連が崩壊した後、覇権争いをしていたライバルのアメリカもどんどん弱体化していった。万が一、中国が崩れるとアメリカや日本も連鎖的に崩れる危険があるということだ。そう考えると、競争には良くも悪くもライバルの存在が必要不可欠ということなのかもしれない。

そうなれば、次に覇権を狙うのは中国を南北から挟み込むロシアかインドか、もしくは、、、かつての覇権国イギリスにとっては思いがけないチャンスが巡ってくることになるかもしれない。

さて、カミカゼはどこに吹くのだろうか?

米中新冷戦の行方②~東シナ海の不沈空母、台湾へ~


中国は来たる2027年に人民解放軍創設100周年を迎える。中国はそれまでに核心的利益をすべて手に入れ、次の世界覇権の地位を確立しようとしている、と言われている。

中国の主張する核心的利益とは全部で5つあり、それは「ウイグル」、「南シナ海」、「香港」、「台湾」、そして「尖閣」だ。現在、香港の陥落が間近に迫っており、まもなく5つのうち、3つは作業完了(ミッション・コンプリート)となる見込みだ。

中国は「香港」を陥落させたら、次はいよいよ残る2つ「台湾」と「尖閣」の奪取に向けて本格的に舵を切るだろう。

 

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【2022年10月に迫る共産党大会】

来年2022年には共産党大会が開催され、このままいけば習近平国家主席は3期目に入る予定だ。

中国共産党は憲法を書き換え、国家主席の任期2期10年を撤廃、さらに国家主席には「七上八下」の不文律があり、68才以上なら退くのが慣例となっている。これらの問題を本当にクリアできてしまうと、習近平氏はいよいよ「終身国家主席」という前代未聞の独裁権力を手に入れることになる。

先日、中国は第二次文化大革命を発動した。これは中国を侮辱する書籍などの出版禁止、台湾歌手の歌を禁止、教科書を改訂し習主席の思想などを取り入れた教育制度への改革など、中国共産党を内部から壊そうとする勢力に対して警戒していると思われる政策を矢継ぎ早に実行している(中国では9月から開始される予定の外国人学校が再開できずに、多くの外国人教師が失業し、社会問題となっていると聞く)。

ここで問題となるのが、終身国家主席に就任するために政治的正当性、つまり圧倒的な実績が必要になる。

来年2022年の2月には北京での冬季オリンピックの開催が予定されているが、これは中国共産党のメンツにかけて必ず成功させてくるだろう。もっとも、新型コロナウィルスのデルタ株が蔓延する中国国内で本当に開催できるかは疑問である。中国はおそらく東京オリンピックが無開催で実施できたことについて、相当オペレーションの研究をしている頃だろう。現に、開催半年前にも関わらず、まだチケットの販売が行われていないことからも明らかだ。

また外部的要因として国外に目を向ければ、アメリカはウイグル自治区での同化政策や大量虐殺を理由に中国をジェノサイド認定しているため、参加をボイコットする可能性が高く、そうなると当然ながらヨーロッパも人権の話になるため、同じく参加をボイコットする可能性が高く、参加国が集まらないという外部的要因で開催ができない可能性が生じる(日本はどうするのだろうか?)※

※ 北京冬季オリンピックが開催できないとなると、次の開催地はアジアの代替候補を探さざるを得なくなる。そうなると、アジアで冬季オリンピックが開催できる国は思いつくかぎり2つしかない。ひとつは韓国の平昌、もうひとつは日本の札幌のどちらかだ(札幌は2030年の開催候補地でもある)。

もし上記のとおり、北京で冬季オリンピックが開催できないとなると、これは中国共産党にとっては大きな打撃を受けることになり、必然的に手柄を確保するためには国外に目を向けざるを得ず、そうなると、残っている最後の切り札(解決策)は「台湾併合」しかないことになる。



ここでもし、台湾併合に成功したら習近平氏は毛沢東や鄧小平を超える終身国家主席にふさわしい人物ということになるだろう。毛沢東は中華人民共和国を建設した際に台湾問題(2つの中国問題、中華人民共和国と中華民国がそれぞれ自分たちが政党な中国であると主張している状態)を解決しないまま中途半端に建国したわけであり、圧倒的な手柄と実績をもとに終身国家主席の座に就くためのお膳立てが整うことになる。

「台湾併合」、それは偉大なる建国の父である毛沢東でさえ成し得なかった前代未聞の快挙となる。



独裁主義は政権内部に独裁者を脅かすだけの対抗勢力が存在しないかぎり、政権はかなり安定することになるが、一方で独裁者個人が死亡した場合はすべてが終了する。 一党独裁制は、その歴史を見る限り、最後には必ず崩壊の道を辿っている。果たして今回はどうだろうか?

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【2022年11月に迫るアメリカの中間選挙】


昨年の大統領選挙で民主党のジョー・バイデン氏が勝利、共和党のトランプ大統領から政権交代が起こった。

アメリカのメディアがトランプ降ろしを必死に画策し、民主党有利に世論を誘導した最大の原因は思うに、トランプ氏が4年間で一度も公共事業をしなかったからではないかと考えている。アメリカの公共事業とは、もちろん戦争だ。巨大な軍事・防衛産業を擁するアメリカは定期的に戦争を起こし、戦闘機やミサイルを世界に売り捌かないと輸出産業が潤わないという、何とも表現しがたい構造的な問題がある。

9.11以降、アメリカはテロとの戦いにシフトしていったことからも明確であるが、21世紀のグローバル化の進展とともにアメリカは”国家”VS”国家”の戦争をすでにやめている。しかし、”国家”VS”テロリスト”の戦いは勝敗がつかないことから、戦争が長引くほど消耗戦に突入し、アメリカ自身の国力がどんどん削がれていくことに気づき始めている。アメリカはもはや世界の警察ではなく、不毛な戦いはしないのだ。

なぜならば勝敗のつかないテロとの戦いに勝利したところで賠償金や領土などの戦利品を受け取れず、経済的メリットがないからだ。そこでアメリカはここ数年間の軍事戦略を見る限り、それは曖昧な仮想敵ではなく、明確に国家との戦いにシフトしてきている。明確な敵国とはもちろん覇権を争う中国に他ならない。

先日、アメリカ軍はアフガニスタンからの撤退を正式に決定した。常駐するアメリカ軍、政府への支援などでこれまでに延べ2兆ドル(≒220兆円)以上にも及ぶ莫大な税金が使われていたと試算されており、「そんな他国を援助する資金があるなら国内問題の解決に使え!」というアメリカ国内の不満が高まっているためだという。撤退まであと1か月に迫った米軍が手薄状態の中、過激派組織タリバン派が一気に巻き返しを図り、政権を奪還したことは、ここ数日のニュース報道でも流れているとおりだ。

台湾は(正式には国家承認はしていないものの)西側諸国と価値観を同じくする民主的な地域である。また、台湾は先進国の基幹産業を支える精密な半導体の世界トップレベルの供給地でもあり、万が一台湾防衛に失敗するとなると、それはアメリカのみならず、ひいては同盟国の基幹産業が一斉にストップしてしまいかねない産業リスクを抱えている。

精密な半導体は世界でも2か国しか供給できないと言われており、いずれも東シナ海周辺に位置している。ひとつは「台湾」、そしてもうひとつは「韓国」である。これら2か国は中国の近隣に位置しており、アメリカにとっては半導体の供給安定の観点からも地政学上、防衛する必要がある地域でもある。

このように台湾問題の本質は、民主主義の防衛であると同時に、半導体集積地としての防衛戦略でもある。これはアメリカの同盟国との信頼関係にも関わる非常に大きな問題である。



台湾は地政学上、島全体そのものが巨大な空母の役割を果たし、東シナ海の防衛の観点から、アメリカにとっては最前線に位置する軍事拠点であることは言うまでもない。この巨大な空母(台湾島)を中国に奪われてしまった場合、アメリカは東シナ海における軍事的支配力を失い、これまでのパワーバランスが崩れることを意味する。それはアメリカにとって二流国への転落の始まりを意味し、世界覇権がアメリカから中国へと移行する歴史的な転換点となることを意味している。

もっともアメリカは地理的に台湾から遠く離れており、アメリカだけでは戦うことは不可能だ。したがって、当然ながら台湾防衛には同盟国のサポートが必要不可欠となる。そこで最重要パートナーとなる同盟国が、いったいどこの国であるかは地図を眺めながら想像してみてほしい。

現在、民主党バイデン政権の支持率は低下傾向にあり、このまま何の実績も上げられないとなると来年2022年11月に実施される中間選挙で負けてしまう可能性も取り沙汰されている。そうなると仮想敵国を設定し、国内の不満を国外に背けなければならないという戦略にシフトせざるを得ないだろう。仮想敵国とはもちろんアメリカの世界覇権を脅かす中国である。

アメリカ民主党は圧倒的な手柄と実績をもとに次の中間選挙に備えなければならないという、引くに引けない内政事情があるのだ。

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【海のシルクロードのボトルネックとなるもの】


中国は三国志の時代からその史実を読むとわかるとおり、大陸内部からの外敵とのせめぎ合いを繰り返してきた歴史がある。地政学ではこれを大陸国家(ランドパワー)と呼んでいる。

海からの侵略があった初めてのケースは、1839年のアヘン戦争だ。この戦争に敗北した清国(中国)はその結果、香港島、そして対岸にある九龍半島も大英帝国(イギリス)の植民地として割譲させられた。

その後、1894年に起きた朝鮮半島の覇権をめぐる日本との日清戦争にも敗れ、台湾を日本に割譲した。中国側の視点に立てば、尖閣もこの時までは中国の領土だったのだから、さっさと返還せよということなのだろう。

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出典:東洋経済ONLINE「「逆さ地図」で見る、中国にとって邪魔な日本」より(一部画像修正)

上記は逆さ地図と呼ばれるもので、中国側から海洋方向を見た視点である。これを見るかぎり、中国から見た海域は海洋航路を完成させるためには非常に障害物が多く存在していることがわかる。これらの周辺諸国や小さな島々は中国にとってみれば邪魔な存在だ(黄色は中国の主張する核心的利益、赤線は中国の主張する第一次列島線と呼ばれる軍事防衛ライン)。

地図の左側からぐるっと右側まで見渡すと、左から朝鮮半島、その上に日本列島、手前には沖縄から続く尖閣諸島があり、最前線には台湾があり、右上には南シナ海の対岸にフィリピン、そして右端にはベトナムの領土があるため、想像以上に太平洋の大海原に進出が困難なことがよくわかる。

台湾と尖閣は目と鼻の先にあり、何としてでも自国の領土にしないと自由な航行が不可能である。思うに連日のように中国漁船が尖閣周辺の海域に領海侵入をしているのは軍事基地を作られないように妨害している、とみることもできる。

アメリカの視点で見ると、台湾と尖閣はそれ自体が空母の役割を果たし、中国の海洋進出への動きを封じ込めることが可能となる。地理的に遠く離れたアメリカにとっては本土から軍を派遣することが難しいため、必然的に空母打撃群を派遣し、そこを拠点化する必要が生じる。アメリカは台湾に大使館のような施設を設置していること(国交がないため大使館のようなものであり、それは写真で見る限りどうみても軍事基地のようである)、尖閣に軍事基地を作るという計画も出ていることから、本格的に中国の動きを封じ込めに着手していることが見て取れる。

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【中国包囲網】


すでに述べたとおり、中国の主張する核心的利益とは全部で5つあり、それは「ウイグル」、「南シナ海」、「香港」、「台湾」、そして「尖閣」だ。

先ほどの逆さ地図を見ると、なぜこの順番どおりに中国が核心的利益と呼ばれる地域を制圧しているのかがよくわかる。それは周辺国との領土問題が関係している。

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<ロシア>

ロシアは石油・天然ガスの取引先

中国の急激な経済発展に伴い、ロシアにとって中国は現在、最大の石油・天然ガスの買い手である。しかし、中国にとってはロシア一国に資源輸入を依存したくないこともあり、輸入先はイランなどにも分散し、供給リスクの管理を行っている。またロシアから資源の輸出を突然止められたら一巻の終わりとなる中国にとって輸入先の分散は合理的な戦略といえる。

北極海利権をめぐる争い

ロシアは北極海に面する世界最大の国土面積を有する国家である。近年の温暖化の影響によって永久凍土が溶け始めたことにより、北極海隣接国はこの地域に開発を進めようとしている。なお中国は自国も北極海隣接国であることを主張しているもののアメリカとロシアはこれを認めていない。

仮にこの一件で紛争となった場合、ロシアと中国の間には軋轢が生じるものと思われ、そうなるとロシアは反中勢力としてアメリカ側にまわる可能性も考えられる。仮に中国の軍隊を沿岸部に集中させてしまうと北側国境付近の防衛が手薄になり、バックアタックでロシアが侵攻してくるリスクは十分にあり得る。

ロシアと中国は何かと反米勢力とみられがちだが、それはあくまでも敵の見方は敵という論理であって、しょせんは表面上の仮面フレンドにすぎない。そもそも両国は総延長4,200kmにも及ぶ国境線で接しており、遠く離れたアメリカよりも実は中国にとってはロシアのほうがよほど軍事的脅威を感じているだろう。

中国の核心利益である「ウイグル」はこうして考えてみると、実はロシアに対する緩衝地帯という見方ができる。これによって、ロシアの北側からの侵攻を食い止められることになるのだから。



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<インド>

中国との国境線をめぐる軍事衝突

インドと中国との間には、4,000km以上に及ぶ未確定の国境線をめぐる緊張状態が続いている。45年ぶりに死者を出した2020年6月の軍事衝突で再燃した両国の国境問題は、依然として火種はくすぶり続けている状態だ。

インドは隣国パキスタンとの間で発生したカシミール紛争によって対立(現在は休戦中)、パキスタンはインドへの脅威から核開発へと至った。インドはパキスタンへの脅威からその後、核開発へと至っており、現在は核保有国である。

インドの政府高官と話した際、皮肉にもパキスタンのおかげで核保有国となったと聞いたことがある。もちろん、核ミサイルはパキスタン側に「も」向いているようだ。果たしてインドの核ミサイルの多くはどちらの方向を向いてるのだろうか?



もっとも、インドは地政学上、中国との間で深刻な水資源問題を抱えており、外交上非常に不利な立場にある。インドはその他の東南アジア、南アジア諸国と同様、中国が実行支配するチベットを水源とした国際河川に水資源を依存しているため、文字通り蛇口を閉められたら干上がってしまうからだ。

この問題は領土問題にとどまらず、直接人間の生存に関わる問題だけに非常に深刻である。インドや南アジア諸国が中国に対して本気で武力を行使する時は、おそらくこれらの国際河川をめぐる水資源が紛争の火種になるだろう。



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<フィリピン>

アメリカ軍は軍事防衛ラインをフィリピンのルソン島まで南下

台湾を安全保障の傘下に収めるには、フィリピンにあるスービック旧米軍基地を完全復帰させる必要が生じる。スービック基地は1991年11月にアメリカ軍が撤収し、フィリピンに返還された。現在はフィリピン海軍の基地である。

アメリカはこの基地の使用許可を得ることによって、南シナ海における防衛ラインを台湾海峡周辺からフィリピンまで南下させた。台湾はバシー海峡の対岸に位置しており、アメリカにとっては軍事防衛ラインをこの地点まで南下させても、台湾が十分に防衛可能範囲に収まるという判断なのかもしれない。

アメリカとしては空母打撃群を長期間にわたって海上に待機させておくよりも、陸上にあるスービック基地を軍事拠点化したほうが兵士の食料やエネルギーを補給する上で極めて効率的な戦略となる。

マニラタイペイ

フィリピンのドゥテルテ大統領は当然ながら、アメリカが南シナ海の覇権を巡って中国と戦争を開始した場合、フィリピンも米中戦争に引きずりこまれるであろう、と懸念し反発を招いている状況だ。

中国の核心利益である「南シナ海」はこうして考えてみると、アメリカ軍の第一列島線の侵入を事前に防御するために行われていた、という見方ができる。これによって、アメリカの南側からの侵攻を食い止められることになる。



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<南朝鮮(韓国)>

孤立化する韓国

2019年、アメリカはファーウェイ(Huawei)問題を通じて、同盟国に対してアメリカ側と中国側のどちらに着くのかの最終決断を迫った。日本は同社製品を排除することを決定した一方で、韓国はすでに設備を導入済という理由でこれを撤去しない方針を固めた。

ファーウェイ製品はすべての通信データが中国側に漏洩していることが懸念されており、アメリカが中国に貿易戦争による経済制裁を課したのも無理はない。つまり韓国はNATOのデータリンクから切り離され、軍事情報の連携ができないことを意味する。

現在、世界でも超精密レベルの半導体を作れるのは韓国と台湾のみだ。中国は台湾のTSMC社からの半導体輸入が制裁によって禁止されてしまったため、自国での生産を急いでいるが、現在の半導体自給率は16%程度と言われている。そうなると、中国は韓国を取り込むべく行動する可能性があることから、もしかしたら最終的にはアメリカ側からは外されてしまうかもしれない。これは韓国自身の曖昧な姿勢が招いてしまった結果でもある。

韓国は早かれ遅かれ、米中の板挟みで孤立化してしまう可能性が高い。

ソウルから消えたアメリカ軍

2019年6月にソウルのアメリカンスクールが閉鎖された。つまり、そこで暮らしていた在韓米軍及びその家族はすでにソウルから撤退したことを意味する。

現在、在韓米軍はどこにいるかというと、ソウルの南方60kmの地点にある西沢(ピョンテク)という街にいる。ソウルの緑化政策を推進するため、激しい住民運動によって韓国政府は在韓米軍をソウル郊外へ追い払ったと住民たちは喜んでいるようだ。

もっともアメリカ側の視点に立てば、ソウルを見捨てたという見方もできる。これは北朝鮮との間に位置する38度線の防衛ラインを南側に60km引き下げたとも考えることができ、半導体をめぐる供給元としてアメリカは非友好的な韓国を見捨て、友好的な台湾を選んだというだろう。

先日のニュースにあったように、アメリカ軍はアフガニスタンからの撤退を正式に決定し、手薄になったところをタリバンの武装勢力に一瞬で制圧されてしまった。常駐するアメリカ軍が完全撤退を決めた場合、韓国は自国のみで北朝鮮からの脅威に対抗できるのだろうか?



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<北朝鮮>

北朝鮮にとってみればアメリカも中国もロシアも韓国も仮想敵国である。北朝鮮にしてみれば、遠く離れたアメリカよりも隣接しているこれらの仮想敵国のほうがよほど脅威に違いない。

万が一、アメリカが韓国を見捨て孤立させようと計画した場合、アメリカは韓国(南朝鮮)ではなく、北朝鮮を選択する可能性もゼロではない(可能性は限りない低いと思うが)。

一方、中国にしてみれば緩衝地帯がなくなってしまうので、陸続きにアメリカ軍が常駐していることになる。これは北朝鮮を緩衝地帯としてみている中国やロシアにとっては恐怖以外の何物でもないだろう。

38度線以北に位置する北朝鮮がアメリカ側についた(あるいは混乱に乗じて中国に宣戦布告した場合)と仮定した場合、結果としてはアメリカとは敵の敵は味方理論が成立し、韓国は半島の先端部として取り残され、やはり孤立を招くことになる。

トランプ前大統領と金正恩委員長の間で実現した米朝首脳会談では交渉は失敗に終わったものの、アメリカは北朝鮮については経済制裁のみに留め、いまだに北朝鮮は中距離ミサイルの発射実験を繰り返している。バイデン政権に変わった今、アメリカはいつまでこのような過激な挑発行動を容認しているだろうか?



北朝鮮の中距離弾道ミサイルは発射実験のたびに精度を上げ、間もなく現在の600kmから800kmまで到達する。もっとも、この距離では日本の東京までは届かない距離だ。

平壌東京

一方で、北京は間もなく射程範囲に入りつつある。この距離では東京までは届かないが、北京までは届く、ということである。

平壌北京

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今月初旬、東京オリンピックが開催されていた裏側では、イギリス空母が東シナ海入りをし、日米とともに日本の南方海域で合同軍事演習が行われていた。

イギリスはブレグジットによって欧州連合(EU)から離脱、アメリカとの関係強化に急いでいる。また、またUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組み、通称ファイブアイズに日本を同盟国として招き入れようとしている。



イギリスはかつてのアジアの拠点であった香港を失ったことで、もう一度アジアの覇権を取り戻したいと考えている。中国との軍事衝突によってイギリスが香港防衛に専守した場合、アメリカは台湾へ向かうだろう。

HK TW
出典:Slide Share「Comparative education hongkong and taiwan」より

2021年1月、アメリカは共和党のトランプ政権から、民主党のバイデン政権に引き継がれた。バイデン政権発足後、東アジアの防衛力強化のために首脳会談ではじめに指名した同盟国、それは日本だった。

(つづく)


米中新冷戦の行方①~香港の終焉と1国2制度の形骸化~


去る8月17日から20日まで開催されていた、中国全人代の常務委員会の会議が終わった。

今回は香港の憲法に当たる「香港基本法」の付属文書について、中国本土の法律を付け加える審議がなされたものの、適用対象となった「反外国制裁法」の採択が見送りとなった。とりあえず香港は当面の間、延命措置が取られることになる。

反外国制裁法とは、人権問題などで制裁を強化する欧米諸国に対抗した法律で、本土では今年6月に施行した。その主旨は、中国の領土内外を問わず、外国の組織や個人が中国を抑圧するために制裁や内政干渉を行った場合、中国側は対抗措置を講ずる権利を持つというものだ。つまり、この法律の適用範囲が「中国(香港を含まない)」から「中国(香港を含む)」に切り替わった瞬間、外資系企業や個人が中国にとって好ましくない発言をしてしまうと、ただちに香港の銀行口座の凍結リスクを負うこととなる。

香港は言うまでもなく、中国にとっては核心的利益となる重要拠点であり、西側諸国の金融機関にとっては中国本土にアクセスするための玄関口の役割を果たす重要拠点である。仮に香港でこの法律が施行された場合、それはアジアの国際金融センター(オフショア金融センター)としての地位を失うことを意味し、香港の存在意義は消滅することになる。

台湾問題
画像引用元:「台湾确是我核心利益,统一却非“燃眉之急”!

今回、採用が見送られた経緯については、香港の金融センターとしての役割に影響が出ないか懸念の声が上がったこと、また中国側がさらなる意見の聴取を希望するなどの理由が報道された。

(ホントハチュウゴクノガイカジュンビキンガフソクシテイルノヲホテンスルタメニ、ホンコンカラドルヲブンドッテ、カイケイチョウボヲガッサンシヨウトシテイタナンテ、イエルワケガナイジャナイカ)

このニュースは、アジア・太平洋地域で事業活動を行うビジネスパーソンにとっては極めて重要なイベントであったに違いない。多くの人たちがお茶の間で東京オリンピックの視聴を楽しんでいる間、その裏ではとんでもない法律が施行されようとしていたのである。私も実に経営リソースの80%以上もこのリスク管理に奪われ、通常業務が大混乱に陥ったことは言うまでもない(1か月に取り扱った金額は数百億円にのぼる、これは私の人生でも5本の指に入る月間取引規模だ)。

もっとも、香港が国際金融センターの地位を失うのは、もはや時間の問題だ。なぜなら中国にはすでに香港に取って代わる、アフリカという新たなオフショア金融センターの稼働準備が整いつつあるのだから。

(ソレガツカイモノニナルカハ、マタベツモンダイダケドネ)

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【香港問題】

香港が世界史の表舞台に登場するのは、おそらく1839年のアヘン戦争からだろう。

当時アジアで勢力を拡大していたイギリスが、陶磁器、絹、茶葉による対清貿易赤字を解消するため、植民地であったインドで栽培したアヘンを、香港に密輸することによる売上で赤字を相殺しようともくろんだものの、これに反発する当時の清政府はこれを拒否、それに端を発し、アヘン戦争が勃発した。

これに勝利したイギリスは1842年に締結された南京条約により、香港島を永久割譲され、最終的に1898年に、深圳以南の、現在の香港全土にあたる地域を99年にわたって租借することとなった。

イギリスの植民地支配は日本と異なり、現地に社会基盤を整備しないスタンスだったため、香港は、当初は売春、疫病などで混乱を極めたものの、その後は病院や学校などの公共施設が整えられていくこととなった。これ以降、香港はイギリスの社会制度、文化が色濃く反映されていく地域となった。

時は流れ、1984年に当時のイギリス首相サッチャーと中華人民共和国の趙紫陽首相が香港返還を定めた「中英共同声明」に署名、1997年に香港が中国に返還された。

その後はご存知のとおりだ、中国の経済発展に伴いつつ急激に成長するものの、内政的には中国本土との政治制度の問題が表面化し、今日に至っている。


香港は1997年の返還から50年間、1国2制度を維持するとしてきたが、中国はその約束を反故にし、実質的に高度な自治権を認めずに本土に引き入れるような動きをしていることを、今や世界中が認識している。これは事実上、香港が中国の法体系に組み込まれることを意味し、結果として1国2制度が形骸化する。

こうした中国に対する最初の本格的な反発が2014年に起こった雨傘運動だった。この運動は失敗に終わったが、香港の人たちの火種はその後も残り続け、2019年の逃亡犯条例改正案の成立を阻止すべく若者を中心に反対運動が起こった。



2019年に起こったデモの特徴は、雨傘運動とは性質が異なるPeer to Peer型のデモだった(Peer=対等という意味)。つまりリーダー不在で行われたデモのため、中国政府は交渉相手が特定できないことから、鎮圧までに非常に手を焼いたようだ。このデモは2010年に中東で起きた民主化運動、SNSであるフェイスブックの呼びかけにより、どこからともなく始まったアラブの春を想起させる出来事だった。

もともと、逃亡犯条例改正のきっかけになった出来事は『「①香港人が台湾領土内で」、「②香港人の交際相手を殺害し」、「③香港領土内に戻ってきた」事件』が発端となっている。中国政府にしてみれば、「香港も台湾も中国の領土内なのだから、裁判権は中国にある」という主張だ。つまりこの改正案が認められるということは、香港で民主活動を行う政治活動家はすべて中国本土に引き渡しをされ、裁判にかけられることになってしまうのだ。

現在、香港周辺には、アメリカ軍をはじめイギリス軍、フランス軍、オーストラリア軍などが展開し、中国の動きにプレッシャーをかけ続けている。1国2制度によって高度な民主化を維持すると約束したうえで返還した側のイギリスとしては、さぞや怒り心頭だろう。

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【一帯一路(現代版シルクロード)構想】

中国ではスローガンである「一帯一路(1Road, 1 Belt)」の構想を完成させるべく、急ピッチで経済政策を進めている最中だ。

一帯一路とは、中国を基点とした陸(一帯)と海(一路)の交通ルートをそれぞれ開通させ、西アジアから、果てはアフリカまでを統合した超巨大経済圏を作り出す計画であり、地域の安定と経済的発展に貢献するという壮大な構想のようだ。

この構想は2049年までに完成するらしい。習近平国家主席が1953年生まれなので2049年には96歳になる計算だ。



かつてのシルクロードを復興させるべく、現代版シルクロードとも言われている。そうなると当時のラクダの役割は、現代では長距離トラックに取って代わることになる。

中国がこの一大プロジェクトを突き進める原動力の根底にあるのは、かつての1800年代のような繁栄と威光ある超大国・中国を取り戻すことに他ならない(中華思想とは本来的に、その根底にあるのは中国中心主義だ)。 

この時代の中国は周辺諸国の小国をうまく取り込むことで大国の威信を示し、また同時に周辺の大国であるロシアや日本とも仲が良かった。ところが、その秩序の安定を一気に崩壊させたのは先述したアヘン戦争である。

一方的にモノを売りつけられてばかりの大英帝国(現在のイギリス)は貿易赤字がどんどん溜まり、その不満からアヘンを売りつけることで貿易赤字を相殺することを試みるも清国(中国)側はこれを拒否、アヘン戦争が勃発。この敗北によって中国は長い暗黒時代へ突入していく。

領土の割譲と巨額の賠償金に加え、他の西欧列強も中国は思っていたほど強くない、という事が明るみになったことで次々に領土を割譲、国内が次第に貧困化していった。

国内では貧困にあえぐ庶民たちによる政府への反乱が相次ぎ、国外では朝鮮半島をめぐる日清戦争で大日本帝国(日本)に敗れ、その後、資源をめぐって対立した日中戦争は泥沼化していった。国内は内戦で疲弊、国外も消耗戦で泥沼化するという二重苦を経験することになる。

このような悲惨な状況にあった国家を建て直したのが現在の中国共産党だった。現在の中国、中華人民共和国は(※1つだけ非常に重要な国内問題が未解決な状態のまま)1949年に毛沢東によって建国された。※後述する。

現在も、中国共産党のスローガンは建国以来引き継がれる「勿忘国恥(ぶつぼうこくち)」を掲げている。これは「西洋列強に蹂躙された屈辱の歴史を忘れるな!」、という意味だ。 

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その後、中国は世界経済の発展の流れに乗り、世界の工場となることによって大きく経済を成長させていくことになる。2008年には念願の北京オリンピックが成功し、間もなくGDPではアメリカに次ぐ世界第二位の日本を追い抜く射程圏内まで迫りつつあった。

しかし、このタイミングで未曾有の経済危機が発生する。北京オリンピック開催直後の2008年9月にアメリカのサブプライムローンにより端を発したリーマンショックが発生してしまう。その影響は一気に世界中に波及し、中国も巻き込まれることになる。モノを売る先の先進国が不況でモノを買ってくれない以上、世界の工場は出荷先がなくなり、作っても大量の在庫だけが残ることになる。

そこで、中国は思い切った景気刺激策を実施することによって公共政策を行い、高速道路や高速鉄道、公共住宅などの建設ラッシュによって一気にV字回復を果たしていった。これは他の国が経済不況から立ち直れない中、極めて速い回復スピードであったと記憶している。

しかし、よく考えてみればこれらの経済回復を果たすことができたのは、未熟なインフラ整備による国内経済の成長が最大の要因だった。そうなると、ハードウェア(道路や建物)がいったん完成してしまうと、今度は鉄やコンクリートなどの資源が国内に大量の在庫の山を抱えることになる。

そこで考えたのが、国内で消費できないのであれば、生産余剰分は国外に売ればいいという発想の転換だ。さて、どこに売ろうか。

世界地図を開いてみると太平洋に出ると東にはアメリカがいる、その手前には日本がいる。中国の視点から考えれば、チョッカイを出されるとなかなか面倒くさいことになりそうな国たちだ。

そうなると、西へ、西へと商売を進めていくしかない。中国から西のアジア、アフリカ方面だ。

こうして中国は一帯一路計画のスタート地点に立つことになる。

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【債務のワナ】


中国はこうしてアジアの周辺諸国やアフリカ諸国に対して、経済発展に貢献することで経済的利益、地域の一体化を営業トークとして販売ルートを確保、政府間交渉(営業活動)に奔走することになる。 

経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないため、中国の営業は功を奏し、前向きに受け入れる方向で進んでいった。アジア、アフリカ地域における経済発展に注力、経済格差の是正を目指す一帯一路の販売ルートは順調に拡大していった。

経済発展のための資金まで貸し付けてくれ、ともに発展しようという提案は新興国にとってはこの上ないほど良い条件だ。当然ながら、余剰在庫の処分をする中国にとっても、開発や資金提供まで代わりにやってくれる国々にとってもWin-Winな関係なのだから。

しかし、世の中にそんなうまい話はないもので、後にこれは債務のワナと呼ばれる問題に発展する。

まず、中国は自国通貨である人民元建て(RMB)で貸し付けを行い、自国から資源と労働者を提供することで相手国の公共事業を進めていった。そうなると、現地の資源が使われず、雇用創出もできず、現地にお金が落ちないという問題が発生した。

次に、中国は当然ながら信用のない相手にお金を貸すことになるので、金利は高めに設定することになる。これは金融取引の基本だ。ここで金利及び原本の返済は米ドル(USD)で行ってもらうよう契約書に明記した。

最後に、中国は自国資源を使った完成物を現地に残し、労働者は自国に帰還させ、相手国の外貨準備金である米ドルを返済+金利として受け取るスキームを完成させた。

これは銀行と消費者金融を例に考えればわかりやすい。

銀行は担保を取ってお金を貸す。返済できるような信用力の高い借り手は破産リスクが低いので、金利が低くても安心して貸し出すことができる。万が一返済ができなくなった最悪の場合でも、担保を現金化して回収できるので貸し手にとっては金利が低いとリターンは少ないが回収リスクは低い。

一方で、消費者金融は担保を取らずにお金を貸すことになる。返済できないかもしれない信用力の低い借り手は破産リスクが高く、金利が高くないと貸し出すことができない。万が一返済ができなくなった場合には、担保がないので貸し手にとっては回収リスクが高く、金利を多めにとることによってリターンを増やす必要がある。

中国がやっている政策は本質的に消費者金融の高利貸しと同じメカニズムだ。

至極当たり前の話だが、経済的に貧しい周辺国やアフリカ諸国にとっては投資やインフラ整備に使うお金がないわけだから、中国が立て替えをするという契約になっている。当然担保の提供もできない。

そもそも論として、これらの債務返済はどう考えても超絶無理ゲ―であって、お金がない人(企業や国家)に高い金利で貸し付けるということは、当然ながら貸す側も返ってくる可能性は非常に低い事実を受け入れないと契約書には署名をしないだろう。

当然ながら返済は焦げ付き、融資を受けて借りたお金が返済できない国が頻発することになる。その他、港湾整備や鉄道運営の管理にも維持費がかかることになる。返済ができないのに加えて、さらに毎月定額の使用量がサブスク課金(継続課金)されていくので、電車の運賃や港湾の使用量だけでは、どう考えてもとうてい無理な返済プランだ。

それに施設の管理・運営技術を持たない諸外国が自国の技術者で管理・運営できる能力があるわけがない、なぜなら「それら」は今まさに中国が作ったものなのだから。

さて、契約書に署名をして作ってしまった以上、港湾設備や道路を壊すこともできないし、お金も返すことができなくなった。そうなると貸し手である中国にとっては担保に変わる「何か」で辻褄を合わせるしかなくなる。

中国は貧しい諸外国にこう提案する、「担保はあるじゃないですか、うちが作った施設を使わせてくれればいい。その代わり、管理権という名目で超長期契約を締結して相殺しましょう」。

こうして中国は巧みな営業により、国外領土の獲得に成功していった。 気づいた時は後の祭り、新興国は強引な統一計画ではないか?との懸念を持ったときには、時すでに遅し。中国の新植民地戦略のワナにハマってしまったことになる。

現在は事態を重く見たIMF(国際通貨基金)が救済に乗り出し、無担保・低金利での借り替え営業を行うようになって来ていると聞いている。結果として新興国が借り換えによって得た資金はドル建てで中国に流れるので、外貨獲得戦略も大成功に終わったことになる。自国の紙幣はただ同然で印刷して変わりに米ドルと海外領土が手に入るのだから、明らかに中国が一枚も二枚も外交戦略が上手だ。



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【パックスチャイナ~中国を中心とする新世界秩序の実現へ向けて~】

現代のオフショア金融の起源は、1945年に発足したブレトンウッズ体制を機に、イギリスが表向きの世界覇権をアメリカに譲ったところから始まる。

これは世界覇権がパックスブリタニカ(イギリスによる覇権主義)からパックスアメリカーナ(アメリカによる覇権主義)へ移転した象徴的な出来事だった(この時から、世界の基軸通貨はポンドからアメリカドルに切り替わった)。

第2次世界大戦後、アメリカの主導のもと、国際通貨を安定させる試みが開始されたものの、各種の規制を嫌う金融資本が逃避を図ることになった。

この機に乗じ、世界覇権を取り戻そうとしたのがイギリスだった。軍事力ではすでにアメリカには到底及ばないことは明らかだったため、代わりにイギリスが目をつけたのが、経済主導による世界覇権を奪還することに他ならない。

そのためには、イギリスはどうしても世界中の資産を一か所に集中して集める必要があった。すでに金融センターとしての地位を確立していたロンドンのシティに資金を集めるべく、大幅に規制を緩和し、アメリカから逃亡を図る金融資本の受け入れを進めていった。

それだけではなく、影響力の及ぶかつての植民地の国家・地域にも同じ法体系(コモンロー)を適用させ、旧英国連邦を形成した。ヨーロッパに位置する王室属領(マン島、ガーンジー島など)はヨーロッパとアフリカから、カリブ海の海外領土(ケイマン、バミューダ、BVIなど)はアメリカ本土から、アジアの旧植民地(香港、シンガポール、マレーシア連邦領ラブアンなど)はアジアから、イギリスのシティに資産を集めるべく、営業部隊(フロントデスク)の役割を果たすことになった。

営業部隊である旧植民地の国・地域に課されたミッションはただひとつ、合法・違法を問わず、あらゆる種類の資金を受け入れ、少しでも多くの資金を本陣であるロンドン・シティに集約させること、ただ唯一この目的のための業務遂行である。

一方で、アメリカもこのまま資産の海外流出を黙って見過ごすわけには行かない。アメリカもアメリカで金融の規制緩和、上記のオフショア国への政治的な圧力、国際社会を巻き込んだ規制強化を矢継ぎ早に実行に移していった。

顧客保護を盾に取って情報開示を拒む営業部隊、秘密主義を悪用して行われる脱税や粉飾決算、それらをアメリカが覇権国という大義名分のもとに取り締まりや摘発を行い、その成果を世界中にアピールするのは、自国から資本流出、租税流出という防衛措置であったことは言うまでもない。

上記のアメリカの行いは一定の効果を奏し、いくつかのオフショア地域はその機能を形骸化されてしまった。しかし、イギリスがこのまま引き下がるわけはない。

こうして起きたのが世界を巻き込んだ、2016年から始まった法人税率の引き下げ競争だった。イギリスは本陣であるイギリス本国の税収を引き下げなければならないほど、覇権争いが熾烈になってきた、ともいえる。

特に非居住者法人(オフショア法人)に対する規制を緩和、イギリスの本陣であるシティが法人税率を一気に引き下げたことを発端として、主要先進国がどんどん実効税率を下げていき、結果として各国の税収がどんどん下がるという負のスパイラルを生み出していった。

さすがにこんな不毛な戦いがいつまでも続くわけがなく、昨今のG7(主要7か国会議)の協議によって法人税率の各国引き下げ競争は終わりを迎えようとしている。最終的には世界の統一税制は15%以下に引き下げられないように、落としどころを探っている状態が続いている。

ここに来て登場してきたのが、中国だ。中国は今、世界覇権をアメリカから奪うべく、パックスアメリカーナ(アメリカによる覇権主義)を終焉させ、それに代わるパックスチャイナ(中国による覇権主義)を確立しようとしている。

興味深いのが、イギリスが旧植民地国の国や地域にタックスヘイブン(オフショア金融)の活用法を教え、一定の利益を共有したのに対し、中国はアフリカ開発で潤う中国人が資本をアフリカから本国に持ち出すために、自分たちが使いやすいアフリカのオフショア域を構築している点にある。この現象は中国の非常にユニークな特徴であるといえる。

オフショア金融市場とは本来的な役割として、国内市場と切り離した形の自由金融市場を拠点として、国外からの外貨資金を有利な条件で取り込み、運用する国際金融業務の一連の流れのことをいう。

現在の中国のオフショア金融センターの役割を果たしているのは、いうまでもなく香港である。中国によるオフショア金融のアフリカシフトが鮮明になった時、香港はその役割を終えるのかもしれない。

近い将来、アフリカ諸国の低税率化、外貨規制の大幅緩和といった条件に魅力を感じ、外資系金融機関が次々とアフリカでオフショア法人を設立、中国はそれらを新植民地による新たな外貨獲得戦略と位置付けてくる日も近いかもしれない。

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中国は来たる2027年に人民解放軍創設100周年を迎える。中国はそれまでに核心的利益をすべて手に入れ、次の世界覇権の地位を確立しようとしている、と言われている。

中国の主張する核心的利益とは全部で5つあり、それは「ウイグル」、「南シナ海」、「香港」、「台湾」、そして「尖閣」だ。現在、香港の陥落が間近に迫っており、まもなく5つのうち、3つは作業完了(ミッション・コンプリート)となる見込みだ。

中国は「香港」を陥落させたら、次はいよいよ残る2つ「台湾」と「尖閣」の奪取に向けて本格的に舵を切るだろう。

しかし、ここでプロジェクト計画の遂行を邪魔する国が現れた。

そう、アメリカ合衆国だ。

(続く)


東京オリンピック2020

 

西暦20217月、夏の東京。コロナウィルスの影響によって1年間延期された東京コロリン...、ゲホンゲホン、東京オリンピック2020が無事に開幕されたようだ。あらゆる事が異例尽くしの、良くも悪くも記憶に残る前代未聞のオリンピックになったに違いない。



アスリートたちが生み出す興奮と感動、筋書きのないドラマは見ていて純粋に私たちを楽しませてくれる。これは、映画やフィクションドラマなど、作られた世界のものとは違ったリアリティがある。

(ほぼハイライトしか見ていないが...笑)

しかしその一方で、近代オリンピックは商業的な目的のために開催されているという側面もある。私はニュースやネット記事を読みながら、この華やかな舞台裏で繰り広げられている政治的で人間臭い駆け引きに、またひと味違った面白さを大いに楽しませてもらった。

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去る
2019年末、中国の武漢を起源とした正体不明のウィルス性肺炎(後に新型コロナウィルス(Covid-19)と呼ばれることになる)の症状を確認、世界中に蔓延し、ニュースで報道され始めたのは今からおよそ1年半ほど前、2020年初頭のことだった。

地球:「少し前に猿から進化したらしい人類というタチの悪いウィルスが地球環境を破壊しまくっているようだ。46億年前に比べてだいぶ環境破壊がひどくなったな。しょうがないなぁ、このウィルスを退治するために我々はワクチンを作ろう。


私はいまだにわからないことがある。コロナが変異を続けるウィルスで、それに対して、我々人類がワクチンによって抗体を獲得しつつある、という理解が正しいのか?

それとも、コロナが地球を守るためのワクチンで、実は我々人類のほうがウィルスで、ワクチンによって抗体を獲得していく度に人類のほうが変異している、という理解が正しいのか?

新型コロナ:「人類は私たちを失礼にもウィルスと呼んでいるらしい。人類とはなんと自分本位の身勝手な生き物なのだろうか!?」

だいぶ笑えないブラックジョークだが、明らかに地球環境にとっては我々人類のほうが害が大きいことを考えると、実は後者が正解かもしれない。

物事というのは常に二つの側面があり、それは「メタ思考」、すなわち物事を遠くから眺めることで客観的な視点を持って冷静に考えることができる。

一方があれば、他方がある。この世界のあらゆる事象は物事を見る人の主観によって決定するものであって、絶対の正解など存在しないのだ。

だからこそ、いつの時代も争いは絶えない。そういう意味では、オリンピックというのはある種の緩衝材の役割を果たすために必要な存在なのかもしれない。

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【賛否両論の無観客開催】

(最大限の皮肉と賞賛を込めて)結論から言えば、今回のオリンピックは大成功だったと言えるだろう。

その理由は、極めてミンシュテキであり、賛否両論がキレイに分かれたイベントだったからだ。一般的にバズる(認知力が上がる)コンテンツというのは賛成派が半分、反対派が半分くらいの比率で分布していることが望ましいと言われる。

オリンピック賛成派:「コロナウィルスが発生してから1年、今もなお感染者が増えて感染拡大が止められない状況だ。しかし、こんな状況だからこそ、我々は力を合わせてコロナに打ち勝つのだ!だからその証としてオリンピックを何としても開催し成功させなければならない!」

オリンピック反対派:「こんなに感染拡大が止められない状況でオリンピックを開催するなんて言語道断だ。抑え込みに失敗している今の状況で海外からたくさん人が来たらさらに状況が悪化してしまうではないか!」

バズるコンテンツ作りというのは、賛否両論あるテーマに落とし込むことが望ましい。全員一致で賛成となると、たちまち私たち人類は進化を失い、文明は崩壊する。一方で、全員が反対となると、私たちはその根本にある問題を一緒に考える機会を得ることができる。

賛成でも反対でも、そのコンテンツを使って何等かの興味付けはできる。これは少なくとも無関心ではないため、広告・宣伝効果を十分に得やすい。

オリンピック賛成派:「コロナに打ち勝つために我々人類はワクチンを開発し抗体を手に入れた。これを打てば感染拡大はともかく重症化は防げるだろう。さぁアスリートたちよ、東京へ集合だ!」

オリンピック反対派:「今もコロナに苦しんでいる人たちがいる中で平和の祭典など不謹慎である、そもそもオリンピックにまわす膨大な予算があるなら医療費にまわすべきだ!」」

双方ともに言ってることはごもっともだし、どちらの言い分も正しい。だから、興味・関心を惹きつけたという意味においては今回のオリンピックは大成功だったと思う。

地球:「人類がどうやら抗体を獲得して、我々のワクチン(コロナ)が効かないように変異しているようだ。これから日本の東京に集まって大きな運動会をやるらしい。とりあえず様子を見よう。。。」

とりあえず開催は決まったものの、さすがに自由民主党の支持基盤であるナントカ医師会から「観客を入れると感染が拡大するから無観客でやれ」という圧力、ではなく強い要請がアッタトカナカッタトカ、晴れて異例の無観客試合となったようだ。


反対派が神宮外苑の国立競技場前で拡声器を使ってデモを行っても警察が取り締まりをしなかったところを見ると、とりあえず日本という国はいちおう言論の自由が保障された民主的な国家なのだなぁと感じた。


これが全体主義の国家だったらたちまちゴム鉄砲や催涙弾が飛んできてデモ隊は粛清されていたことだろう。

そういう意味で、オリンピックのような国際的なイベントの開催は、実はみんなで話し合う民主主義国家よりもあらゆる決定がトップダウンで実施される全体主義国家のほうが相性が良いのかもしれない。どんな状況でも強硬開催できるのだから。

どうでもいいが、オリンピックが開催されたのに、音楽の祭典であるフェスが同時期に中止に追い込まれたのはダブルスタンダードすぎてマジで意味がわからない。

フェスが中止になったのは「感染対策が十分でないため開催できないという判断に至った」ことが理由のようだが、それを言い出したら、山手線がぎゅうぎゅう詰めで平常運行しているのはどう説明するんだろうか笑

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【壮大なる矛盾と自己欺瞞】

さて、多くの日本国内に住む日本人にとって、自分を「日本人」と意識する瞬間はどんな時だろう?

せいぜいワールドカップやオリンピック、あるいは国境問題のニュースを見たときくらいではないだろうか。普段日本で生活をしていて、自分を日本人と意識することは実はあまり多くないだろう。

その意味で「日本人」というのは絶対的な概念ではなくて、他の国と比較したときにはじめて私たちには「日本人である」という相対概念が生まれるのだろう。すなわち「日本人以外」という比較対象があってはじめて、私たちは「日本人」になるのだ。

私たちは子どもの頃に学校や家庭での教育を通して「みんなで仲良くしよう」とか「他人に迷惑をかけてはいけない」など、道徳教育を通して一定水準の倫理観を育んでいった。たぶん、どこの国でも同じような教育がされていると信じたい。

しかしどうだろう、世の中には国境線をめぐって紛争になっている国や地域、政治的・宗教的な対立から国家が分断したり、21世紀になった今でも、世界平和が実現できたとはいいがたい状況である。国のトップである政治家や官僚たちも昔はみんな子どもだった、にも関わらずだ。

オリンピックは平和の祭典であるから、国どおしがどんなに悪い状況であっても、仲良くして一緒に平和を願いましょう、という壮大なる忖度を求められている砂上の楼閣のようなものだ。

企業の目的が利潤を追求するのと同様に、主権を有する国家が自国の利益を最大限に追求することが正義だとするならば、そもそも国家どおしが心から仲良くすることは本質的に不可能だ。それは地球という限られた環境から領土や資源を奪い合うための壮大な椅子取りゲームであって、相手に簡単に座席を渡すことはできないからだ。

しかし、その一方で世界はひとつであって私たちはお互いを尊重し、ともにこの美しい地球を持続可能に、平和に維持するために手を取り合うことが求められてもいる。

これらは本質的に対立する概念であり、早かれ遅かれ必ずどこかで矛盾が生じる。

集団の規律性と個性の尊重、多様性と調和、利他主義と利己主義、といった相対立する概念を同時に内在させることはバランス調整が極めて難しい。世界は4年に一度、表面上の平和を半ば強制的に演出し、壮大なる矛盾と自己欺瞞の上に紳士淑女的に振る舞うことが求められているようだ。

ちなみに、ここまであーだこーだと考えた結果、私は開会式のセレモニーはあまりに恐ろしい光景を想像してしまい、終わった後に見ようと友人に録画をお願いして、いつもどおりパソコンの前で事務作業をしていた。

しかし結局、「日本人である私」は、日本人ではない人たちによって一定時間拘束させられるハメになったのだ笑

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【グローバリズムとナショナリズムの均衡バランス】

開会式が始まる時間が近づくと世界各国で暮らす友人たちからグループチャットとリンクが届いた。

友人たち:「オリンピック始まったよ。日本の東京で開催だね。なかなかクールだぜぃ、早く来てくれ!」

私:「怖くて見れないよ。考えてみろよ、アメリカと中国が並んで、中国と台湾が並んで、イスラエルとパレスチナが並んで、、、平和に終わったことをみんなから報告受けたら、後でゆっくり落ち着いて見てみるよ」

結局、半強制的に見せられたまではいいものの、こんなに脳疲労を起こすことになるとは想像していなかった。

個人的に最も感動したのは、ミュンヘンオリンピックでパレスチナ武装グループ「黒い9月」のテロ行為によって11人の犠牲者を出したイスラエル選手団に対して、初めて黙祷が捧げられたことだ。



私は今回のオリンピック開催を必ずしも望んでいたわけではないが、これだけでもオリンピックをやる意味があったのかもしれないなぁと感じた瞬間だ。一方でパレスチナ選手団はどういう気持ちで式典を見ていたのかなぁとも、何とも複雑な気分でもあった。

この場面を客観的な視点で切り取って見ると、なんともバランス感覚の置きどころが難しいコンテンツでもある。

東京上空に輝く丸くてキレイな地球、ドローンの演出も本当にキレイだった。なんてキレイな光景だろうと見入っていたがここで若干の邪念が。。。ドローンって、軍事技術のはず。

ここで軍事技術を使うのはありなのかなーとふと思ったり、と。まぁ、それを言い出すとインターネットも海底ケーブルも元々は軍事技術から転用した技術なので平和利用という理解で消化した。個人的にはドローンがテロの標的にならないかが気がかりではあったが、あの時地上の様子がどうなっていたのかが気になるところだ。。。

しかし、世界というのは本当にいびつな形をしているものだなぁとつくづく思う。このドローンのようにパズルピースがキレイにハマれば全ての問題が丸く収まるだろうと考えてはみるものの、現実社会はみんながパズルピースを都合よく変えてしまうので、このドローンのようには上手くハマらないものだ。


ふと違和感を感じたのは、この場面でジョンレノンのイマジンが歌われていたことだ。

自称リベラルの私にとっては国家もない、宗教もない、所有権を放棄。。。いつ聞いてもいい曲だ、最高のアナーキズム(無政府主義)をこじらせた超極左的世界観ではないか笑


2012年のロンドンオリンピックでも歌われたが、普段は日本国籍のパスポートよりもAppleGoogleID・パスワードを厳重に保管しているような超ノンポリ(政治的無関心)の私でさえ、この場面で使って本当に大丈夫なのか?と脳が一瞬フリーズしたことは言うまでもない、一部歌詞を見てみよう。

Imagine there's no countries(想像してごらん 国なんて無いんだと)

国なんていらなーい!→国家の否定

And no religion too(そして宗教も無い)

宗教なんていらなーい!→宗教の否定

Imagine no possessions(想像してごらん 何も所有しないって)

何もいらなーい!→私的所有権の放棄、資本主義の否定

各国の国家首脳の前で、あらゆる対立概念を全力否定wwwww

国家や宗教という対立の根本原因となる枠組みをいったんすべて外して、今ここにいる私たちは誰もが純粋な一人の人間としてあってほしい、という主催者側からの意思表示なのだろうか?笑

そうだったとしたら、あまりにも崇高すぎて私の幼稚な知性ではとうてい理解できなかったのも無理はない。

これはイデオロギーの両極端の対立というか、各国選手入場前にグローバリズムとナショナリズムが同じ場所と時間にシンクロしながら究極のバランスを取っているという、なんとも消化不能な状況に陥ったことは言うまでもない。

そして、グローバリズムが行き届いたところで選手入場、さてナショナリズムの台頭だ。


入場曲がゲーム音楽という、前代未聞の国家主導による厨二病全快のフルナインラップはマジでニコ生のコメント欄のごとくテンションが上がり、フリーズ寸前の脳のHP(ヒットポイント)がベホマで完全回復したことは言うまでもない(ドラクエの回復魔法ね。。。)。

賛成派:「やっぱりゲームは日本が誇る最高のコンテンツだ、ゲームオタ歓喜。これは最高のオタリンピックだ、万歳万歳(/ω)/(/ω)/(/ω)/

反対派:「国際イベントの歴史的大舞台でサブカル音楽を使うとはけしからん、あーあ、厨二病コジらせやがって。こういう厳粛な舞台ではどこの国でも著名な作曲家が曲を担当するものだ。日本には世界に誇れる作曲家がいないとはなんと情けない」

当然ながら賛否両論あるわけだが、こういうのは日本らしいなぁと思う。他の国だったらここまで全力で振り切れないだろう笑

個人的には、あの頃ドラクエやファイナルファンタジーを楽しんだ30代・40代が成長して大人になり、今こうしてこの舞台の運営をしているのだなぁと、それはそれで同世代として嬉しいかぎりだ。

(私はロクな大人にならなかったが笑)


さて、ゲーム音楽に合わせた入場行進がアルファベット順ではなくあいうえお順だったことでみんな完全に混乱していたようだった。

1. ギリシャ(発祥の地として慣習的にはじめに入場) 2. 難民選手団 3 ROC(アールオーシー=ロシアオリンピック委員会) 4 アイスランド 5 アイルランド 6 アゼルバイジャン...

グループチャット全員:「は?なにこれ?どういう順番なの?」

私:「ああ、わかったわかった!これはあいうえお順といって日本語の順番だね。ア、イ、ウ、エ、オ、だからアメリカとかイギリス、イスラエルはもうちょいで出るね。オでオランダが来て、その後はカ行だから韓国が来るよ。」

フランス人:「入場曲がドラクエとかマジで最高すぎるw」

イスラエル人:「イスラエルとイランはいつも順番が近いね」

イラン人:「さすがに平和に終わると思うよ、日本で衝突したら国際問題どころじゃ済まないだろ笑」

イギリス人:「あれ?イギリスが飛ばされたぞ」

私:「うーん、おかしいな。」

場内アナウンス:「英国(えいこく)!」

私:「...

韓国人:「韓国来たー、とりあえず開会式だけは余計なことしないで欲しい」

ロシア人:「いや、たぶん韓国は選手うんぬんではなくてマスコミが1テンポ遅れで何か言って炎上しそうな気がする」(←当たってしまったw)

ちなみにアメリカはスポンサーである某大手テレビ局の影響で最後から3番目にされたとか(最後から開催国の日本、次の開催国のフランス、その次の開催国のアメリカというパワープレイが成立)。自国の選手が先に出てしまうと、みんながチャンネルを変えてしまうという大人の事情によるものだったらしい。

ア、カ、サ、、、まぁこの辺まではいいわ。問題は「タ行」が近づくにつれてチャット内になんともいえぬ緊張感が。。。

(なんで私がグループチャット内でバックオフィス業務をやらされているんだろうか笑)

台湾人:「台湾はチャイ―ニーズタイペイの表記だからチでしょ、中国と並ぶのか。。。

中国人:「わー、嫌な予感がする。これどういう絵になるんだろうね。。。



場内アナウンス:「チャイニーズタイペイ!」(タ行で呼ばれた)

NHKの女子アナウンサー:「台湾です!」 

グループチャット全員:「わーーーーーー言っちゃった笑笑笑笑笑」

後で中国の友人に聞いた話だが、中国の国営メディアではこの瞬間にチャンネルが別の報道に切り替えられてしまって、肝心の中国チームの入場がリアルタイムで見れなかったとかなんとか(私たちはYoutube配信を見ていたので流れていたが)。

アメリカ人:「ふぅ~、とりあえず中国が真ん中とアメリカは最後のほうだから、この場所で変な衝突は起きなそうだなw」

私:「みんな大人の振る舞いで、さすがに何も起きないだろうと思ってたけど、この映像は国際情勢を知っている人が見たら心臓に悪いよ笑」

20218月現在、日本列島の西側にある南シナ海周辺では中国による台湾進攻の懸念から、軍事的緊張が高まっており、アメリカやイギリスの空母打撃群が周辺海域で中国の動きを監視している状況だ。平和の祭典が行われている裏側では、平和を脅かすような緊張状態が迫りつつある。

さらに近現代史を見るかぎり、歴史の表舞台に大英帝国が出てくるとロクなことが起こらない。


何だかんだ言っても政府には政府の事情があるのかもしれないが、少なくとも私たち民間人にとっては国籍も人種も生い立ちも関係なく、普通に国際交流が成り立っているわけで。

このようなオリンピックの裏側で行われていたグループチャットでは極めて健全なやり取りが行われていたことにも言及しておきたい。少なくとも、私のまわりの友人はいたってまともな国際感覚を持ち合わせているようで何よりだ。

かつて青春時代を一緒に過ごし、友情を育んできた大切な仲間たち。それぞれが政治的理由で敵どおしになるような事があってほしくない。そう強く感じた瞬間でもあった。

それはきっと、、、みんな同じ気持ちだったはずだ。

***

【ポリティカル・コレクトネス】

今世紀初頭、
2,000年代の前半くらいからだったと思う。世界が急速にリベラル化に向かう流れの中で、人種、民族、性別、生い立ち、さらには性的指向など、「個人の能力では変えることのできない属性」を理由とした差別は世界的に絶対に許されないという風潮が高まりつつある。

私が大学生の頃、英語の授業ではじめてPCリティカル・コレクトネス)について学ぶ機会があった。

先生の説明によれば、それはリベラルな文脈の中でその規範にのっとり、政治的正しさ、公平さ-それはすなわち表現や行動、振る舞いなど-、をマナーとして身につけることが今後、グローバルスタンダードになっていくだろうということだった。

まっ興味がなかったオリンピックだったが、ふとしたことがきっかけで半ば強制的に開会式を見る羽目になってしまい笑、この2週間くらい東京オリンピックは何が言いたいのか、何を伝えようとしているのか自分なりに考えながら週末にじっくりと見返してみた。

実際に、日本のネットニュースや討論番組を見てみても「連続性がなくてテーマがよくわからない」「安ぽっくてみっともない」という否定的な意見が多かったように思う。

正直なところ、今回のテーマは相当の前提知識がないと、一連の流れの中で起こっていた出来事を体系的に理解するのは非常に難しいのではないかと思う。私は先週の閉会式を見てようやく全体像が理解できた気がする。



閉会式のエンディングで流れた曲はエルトン・ジョンの「Chosen Family」で、この曲はLGBTQ(性的少数者)の人たちにささげる歌だという。

そして国歌斉唱には宝塚歌劇団が選ばれた、ご存知のとおり未婚女性のみで構成され、男性役も女性役もすべて女性が演じる
劇団だ。



今回のオリンピックはPCリティカル・コレクトネス)を前面に打ち出したものであり、全員が自己ベスト」・「多様性と調和」・「未来への継承」といったような何ともふわ~っとした世界観がテーマだったようだ。

ここまで読んでいただいた方は、「あーなるほど、そしたらやっぱりPCがテーマで政治的中立性に基づいて公平に進行が行われていたんだね」、と思ったかもしれない。

いやいや笑、私は構造そのものが真逆だと思っていて、
「オリンピックという箱の中にPCが入っていた」のではなく、「PCという大きな箱の中にオリンピックというイベントが入っていた」、、、少なくとも私にはそのように感じた。

上記は似て非なるもので、主従関係が逆だ。それはオリンピック前の一連の騒動を見ればよくわかる。

森喜朗前会長の「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」という女性蔑視発言が炎上したことによる辞任、その後、橋本聖子氏が委員会の会長に抜擢された(あえてここでは「女史」という表現は使わない)。

その後はご存じの通り、音楽担当のアーティスト小山田圭吾氏が学生時代のいじめ体験を語った雑誌のインタビューが炎上したことで辞任に追い込まれ、次いで開幕式の前日には、演出担当をしていた元お笑い芸人の小林賢太郎氏が過去にホロコーストを揶揄するコント(※これは背景を調べたが、解釈が間違って伝わっていると感じた)を題材にしたとして解任される出来事があった。

まさに聖火が点灯する前にネット上で盛大に炎上したことでバタバタと五輪ドミノ花火大会がスタートしてしまい、開幕直前にすでにフライングで別のストーリーが同時進行で始まっていたともいえる。

これらに共通する騒動の根底にあったものは、性差別、迫害、人種・民族的な要素が含まれており、PCのイデオロギーに反した「個人の能力では変えることのできない属性」という共通項が浮かび上がる。

近年、欧米を中心に社会問題になっているキャンセルカルチャーという新たなムーブメントは、PCのイデオロギー反した者を、容赦なく社会的地位から引きづり降ろすといった、ネット民による大衆運動で、上記の一連の流れは皮肉にも、日本で起こったキャンセルカルチャーの本格的な事例となった。

今回のオリンピックが「実はここまでが事前に台本に含まれていた」としたらなかなか笑えない話だな、とも考えてしまった。

また、東京大会では初の試みとして、男性から女性に性別変更したトランスジェンダーの選手が女子競技に出場したようだ。

この選択を支持する声が上がる一方で、「男性の体なので女子スポーツに参加するのは不公平だ」といった否定的な意見、「女性が本来獲得できるはずのメダルが獲れないことから逆差別だ」という意見もあったようだ。

一方を擁護すると、他方を否定することにもなりかねないこうした問題はバランス調整(落としどころ)が非常に難しい。

私は個人としてはグローバルな環境で仕事をしているので、こういった話題には非常に敏感だし、デリカシーを持って非常に気を使っているほうだと思う。そうしないとたちまち軽い失言が国際問題に発展してしまいかねないからだ。

しかしその一方で、これはさすがにやり過ぎではないかという極端な場面もあった。どこまでがOKでどこからがNGなのか、という明確な定義が決まっていない概念なので、普及するまではあまり余計なことは言わないほうがいいだろう、ということだけは改めて理解できた。

また、キャンセルカルチャーについていえば、行き過ぎた大衆による過激な晒し刑はネット民の暴徒化にもなりかねず、特定の人物を匿名集団が「錦の御旗(正義)」の名のもとに行う集団リンチ(私刑)にも発展しかねない。

そうなってしまうと、その背景にある「なぜそういう発言に至ったのか?」という根本の問題を十分に検証する時間がなく、感情論で炎上騒ぎが始まってしまうため、冷静に議論することができなくなってしまう。

賛成か反対か、擁護か批判かといった二元論で考えるとき、私たちは必然的に「自分たち」と「それ以外」に分かれる。それは一方で良くも悪くも多様性を生み出し、しかしそれは他方で調和が果てしなく難しい。調和を図ろうと思ったら全員が忖度し、今度は多様性が失われることになる。

現代のように多くの人たちが共存・共生するグローバル社会では、私たちは日々多くの情報や出来事に触れ、それらを短時間で情報処理する必要があるため、思考を最適化するために一定のパターン認識を行い、特定の型(ステレオタイプ)に当てはまめながら物事を判断する必要に迫られることが多くある。

そうなると、世界中で親しまれている国民・民族などをステレオタイプ化したお国柄ジョークなどは個人の能力では変えることのできない属性」という差別問題というレッテルを貼られ、PCのイデオロギーに反してしまうことになる。

常識というのは、いつの時代も少しずつ姿・形を変えながら進化し、普及し、それがやがてそれらが人々に共通認識として受け入れられるようになっていく。

このように、「定義が定まっておらず、答えのない問いに向き合うきっかけを提供した」という点においては、東京オリンピックは開催した一定の意義があったのではなかろうか?

次の開催地は「自由」・「平等」・「博愛」の理念でフランス革命を成し遂げた、パリで開催されるらしい。

「自由」を求めると「平等」が失われ、「博愛」によって「調和」を図ると「多様性」がなくなる。なかなかバランス調整が難しい対立概念が並んでいるようだ。

また機会があればリベラルの都パリで、、、その後を検証してみよう...。




See you in Paris ...

アフターコロナの世界を考える②~民主主義のコストと自由をめぐる争い~


日本人は同調圧力に弱く、他人と同じ行動を取りたがると言われる。このように多数派にまわり、少数派を集中攻撃するという集団心理は、多くの強迫性障害者を生み出し、やがて全体主義の土壌を育んだ。

私はこうした文化的背景には、小学生時代の体育の授業でやった長縄跳びに原因があるのではないかと思っている。はっきり言おう、あれは文部科学省から派遣された体育教師によるファシズムだ。今すぐやめたほうがいい笑

長縄跳びの終わりは実に切ないものだ。必ずクラスメイトの誰かが足を引っかけてゲームが終わる。子どもたち全員がうまく跳べないと先生は気が済まないので、失敗したら初めからやり直しをさせられる。長縄をまわす2人のクラスメイトは段々イライラしてきて、その空気はクラス全体に波及する。私たちは連帯責任のもとに、周囲を暴れまわる恐怖の縄から抜け出すことは許されないのだ。

(アレアレアレ、イマナワニヒッカカッタヤツハダレダ?)

やがて子どもたちの精神は殺伐としていき、縄を踏んでしまったクラスメイトは誰なのか犯人捜しが始まる。失敗してしまったクラスメイトには「ドンマイ、もう1回だ。次はがんばろうぜ」と言いながら、心の中では無言の集団ヒステリーが増幅し、うまく跳べなかった子は無言のプレッシャーにさらされ、精神的に追い詰められていく。

(オイ、ワカッテルヨナ、ツギハミンナニメイワクカケルナヨ)

長縄跳びの本質は誰かが犠牲にならないと終わらない残酷なゲームだ。私たちの誰もが縄に引っかからないように細心の注意を払い、自分以外の誰かが引っかかると、心のどこかで安心感を覚える。自分が犯人にならずに済んだからだ。私たちは長縄跳びの授業を通して人間の心に内在する二面性を学ぶことになる。

こうして日本人は子どもの頃から全体主義の精神を無意識に刷り込まれ、失敗した人間に怒りの矛先を集中的に向けさせる攻撃技術の英才教育を受ける。そして子どもたちは精神障害を抱えたまま、やがて大人になり、社会に放り出されていくのだ。

(シッパイスルトミットモナイカラリスクヲトルノハヤメトコウ)

長縄跳びはまさに日本社会の縮図そのものだ、不届き者は制裁される運命にある。

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・人生初のロックダウン(国境封鎖)を経験、移動制限令により強制自宅待機

3月16日の夕方、秘書からグループチャットにメッセージが飛んできた。

「先ほどマレーシアではロックダウン(国境封鎖)が決定しました、明後日18日から国境が封鎖され、同時に国内でもMCO(Movement Control Order=移動制限令)が発動されます。期限は月末までの2週間、食べ物と飲み物を今から十分に買って、しばらく家から出ないでください。不要不急の外出により移動制限命令に従わないことが判明した場合、「最大6ヶ月の禁固刑」、「1,000リンギット(≒226米ドル)の罰金、またはその両方のペナルティが課されます、わかった?そんじゃ、がんばってね!」

おいおい、ちょっと待て。あと1日と数時間しかないぞ 

マレーシアという国はとりあえず何事もやってみて、全体のバランスを見ながら軌道修正とリバランス(バランス調整)をしていく国なので、マレーシア国民、この国に滞在する外国人はいつも政府に振り回されながら強い心を育んでいく。慣れとは怖いもので、私もすっかりこの国の文化に対する免疫ができてしまったようだ。私は急いでコンドミニアムを出てカップラーメンとスナック菓子を大量に買い込んで自宅待機に備えた。

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3月17日、ロックダウンが数時間後に迫るクアラルンプール。ほとんど食糧がない棚の様子。

当初、3月18日から3月31日までと言われた移動制限命令はその後2週間の延長が決まり、4月14日まで延長された。マレーシア政府はそこから2週間の延長を決定し、4月28日で終了予定となった。その後、さらに2週間の期限延長がなされ、5月9日まで当該規制が適用されることが決まり、さらには5月10日から6月9日まで1か月の期限延長が決まった。

一体いつになったら終わるんだよ  

当初MCO期間: 3月18日から3月31日まで
MCO延長期間: 4月1日から4月14日まで(※3月25日政府発表)
MCO再延長期間:4月15日から4月28日まで(※4月10日政府発表、市街地にマレーシア軍投入)
MCO再々延長期間:4月29日から5月10日まで(※4月25日政府発表)
MCO再々々延長期間:5月11日から6月9日まで(※5月9日政府発表、一部業種の営業再開へ緩和措置)

なお、最初の2週間で命令に従わない「不届き者」のマレーシア人があまりにも多かったため、2回目の延長期間中からマレーシア軍が街中にバリケードを設置し、物理的な強硬手段に出た。余談だが、この命令を無視して逮捕された人数は4月末までに18,000人に上るという。おいおい笑

本来、経済が瀕死状態のマレーシアでは、MCOの解除は5月10日を以て終了するはずだった。しかし、MCOの延長を望んだのは政府ではなく、今度はマレーシア国民のほうだった。

5月に入り、SNS上では「なぜ今このタイミングで緩和をするのか?」「経済活動を再開させたら、あっという間に第二波が来るのではないか?」と言った非難の声が殺到し、市民の声は政府が想定していた以上に強く、期限延長を強く望むオンライン署名はわずか数日で45万人以上に達したという。

これを受けてムヒディン首相は5月10日、「マレーシア連邦はこのままでは建国以来、最大の経済危機を迎える。ただちに経済活動を再開させないと国家そのものが死んでしまう。しかし、国民の皆さんが政府に合理的な措置を執り続けることを望んでいることもよくわかった」と述べ、MCOを大幅に緩和し1カ月の延長を決定、6月9日までMCOを延長することを正式に発表した(※現在は条件付移動制限令であるCMCO=Conditional Movement Control Orderを実施している)。



マレーシアの首都クアラルンプールでは現在、明らかに実体経済が疲弊していて、瀕死の状態だ。決して裕福とは言えない小さな商店を営む自営業者たちは、必死で生き延びているだろうことが想像できる。渋滞が風物詩と自虐ネタにされているクアラルンプールの幹線道路は、現在ほとんど車が走っていない状況だ、いかにヒトの移動が減っているかがよくわかる。

なお、この状況下でも、テーブルを並べて営業する店はむしろ少数派で、ほとんどの店は持ち帰りか配達サービス(東南アジアではGrab Food、Food Pandaというサービスが普及している)の対応に留め、自粛を継続している飲食店が圧倒的に多い印象だ。私も少しでも店が潰れないように万遍なく配達注文をし、僅かながら経済に貢献している(つもりだ)。



このように、マレーシアでは政府が国家権力を発動し、領土内に生活する私たちは問答無用で移動制限を受け、自宅待機を強制されることになった。そして、政府は経済状況が悪くなると経済活動の再開を打診したが、今度は国民が反対して政府は半自粛を提案、自粛派と緩和派の折衷案を採用していったん落ち着きを見せた。

人間の行動心理というのは、どうやら身の危険を感じると、お金よりも安全を最優先する生き物らしい。

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・民主主義のコストとは?

ヒトが動けば感染者が増える、ヒトが動かなければ経済が死ぬ。このトレードオフ(利益相反)の均衡点を模索しながら、どこの国の政府もコロナウィルスの対応策に手を焼いているようだ。

3月中旬あたりからアメリカやヨーロッパ諸国では軒並みロックダウンを開始、国境を封鎖し外国人の入国を禁止、領土内にいる国民には自宅待機を強制し、集団感染の封じ込めを行った。

3月24日の夜、日本政府は7月24日から開催予定だった東京オリンピックの1年延期を正式決定した。なるほど、この最終決定を待っていたために日本の対策が後手後手に回ってしまったのか。

しかし、この時点で日本政府は何も動かず。

そうなると、次に考えられる理由は経団連からの強い圧力だったのだろうか。日本の企業は3月31日が期末の会社が大半となっているため、期末決算が大幅にマイナス方向に下振れすることを懸念、4月以降にズレこむのだろうと思っていた。

しかし、、、。

日本政府が外出自粛要請を出したのは、それから1週間が経過した4月7日だった。日本は法制度で私権の制限を認めていないため、ロックダウン(国土封鎖)や国民の移動制限を実施できず、法的拘束力を持たない「外出自粛要請」というよくわからない形で実施された。決定の理由は「国民の皆様からの強い要望があり、政府としても感染拡大を防ぐ必要があると判断したため」だという。

もっとも、国民の要望で自粛したとなると、後から日本国民が高い道徳性のもとに勝手にやったことにされてしまいそうだが...。

物事を善悪や白黒で判断する二元論は、時として悲劇的な集団ヒステリーのトリガーを引いてしまう。

この外出自粛要請はコロナウイルス感染拡大防止のために、外出や営業の「自粛」が広く要請されるようになり、感染者や医療従事者への嫌がらせや、営業を続けるライブハウスや飲食店に苦情の電話を入れたり張り紙を貼るなど、いわゆる「自粛警察」といわれる歪んだ正義のもとに同調圧力を求める自警団を誕生させた。

自粛警察を生み出した原因は、日本人の潜在意識に備わったゼロリスク症候群だろう、長縄跳びのように縄の中の掟から逸脱した「身勝手な」振る舞いは問答無用で集団的制裁のターゲットにされてしまうのだ。これは決して偶発的な現象ではない、本来私たちのDNAに備わっていた歪んだ正義感が一気に表面化してしまっただけのことだ。

ここからわかる客観的事実は、-日本人はあまりにも極端な例だが-、人間の行動心理というのは、どうやら身の危険を感じると、お金よりも安全を最優先する生き物らしい。多くの人が経済活動を止めてでも自粛をするように政府に強権の発動を求めた。しかし、これはよくよく考えてみればおかしな話だ。だってこれは本来独裁主義の考え方なのだから。

2010年から2012年にかけて中東でアラブの春(独裁主義体制への反政府デモを起こし、民主化を求める機運が高まった運動)が起こった時に、私たちの多くはニュース報道を見ながら歓喜したはずだ。私たちが歓喜した理由は、潜在意識の中にどこか「民主主義:善 VS 独裁主義:悪」という二元論の構図があるからだろう。

今はどこの国も強いリーダーのもと、独裁的な雰囲気が求められているように思う。ただし、民主国家からは強いリーダーは制度上誕生することはできない。民主主義国家の最大の欠点は選挙によってリーダーが決まるため、2つの異なる意見が存在する場合、どちらかに偏った政策をしてしまうと次の選挙で支持者の半分が減ってしまうリスクがある。したがって、どちらの意見もバランスよく取り、双方に忖度しながら国家運営を行っていかざるを得ない運命にあるのだ。

このように民主主義は実は非常にコスト(維持費用)がかかる制度だということがわかる。それは仕組みを維持するための費用と、物事を決定するまでの時間(タイムコスト)だ。これとは反対に独裁主義はトップリーダーである独裁者の言うことが絶対の正義であり、物事を決定してから実施するまでの時間はトップダウンであっという間に実現できる。

もちろん、どちらにも一長一短がある。民主主義は相対的正義に基づいて決定がなされるため、少数派が牽制効果を持ち、結果として大きな失敗をするリスクは少ない。その一方、独裁主義は絶対的正義に基づいて決定がなされるため、トップリーダーの方向性が間違っていた場合、全員が道連れにされる運命にある。ようはリスク・リターンのボラティリティ(変動率)の問題だ。ケースバイケースではあるが、前者(民主主義)は相対的にローリスク・ローリターンな制度であり、後者(独裁主義)は相対的にハイリスク・ハイリターンな制度ということになる。

これまで民主主義国家と言われた多くの国でも、感染予防や治安維持という名のもとに、国家が私権を制限するケースが多く見られ、結果として市民はそれを受け入れているようだ。しかし、「国家による私権制限の必要性」と、「民主主義という観点から見た私権保護の必要性」、これらの両立は極めて難しいバランスの上に成り立っており、二元論で白黒つけることはできない問題だと思う。

a. 国家が私権を制限し、人々の移動制限を行い、人々の行動を監視し、伝染病に対応する社会
b. 民主主義が私権を保護し、人々は誰からも強制されることはなく、移動の自由が保障される社会

さて、果たしてどっちがいいのだろうか。

当たり前だが、世の中に絶対の正解は存在しない。

「自由の不確実性は、独裁的統治による強制された予測可能性への逆行の理由にはなりえない。前にある道のりには困難もあろう。しかし別の道を歩むことは、弾圧のまん延する恐ろしい未来に国家全体を委ねることを意味する。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチ代表 ケネス・ロス(アラブの春の際の発言)
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・自由をめぐる究極のせめぎ合い

「非常事態」という言葉は本来の意味では「問答無用で私権を制限しなければならない状況」のことをいう。だからアメリカやヨーロッパでは早急に国境を封鎖し外国人の入国を禁止し、自国民の国内移動を制限することができた。その意味では、日本は実は非常事態宣言はしていないと見ることができる。

日本のニュースを見ていたら、自粛要請に応じないパチンコ店の名前が公表されるようだと報道された。法的拘束力を持たないただの「お願いレベル」で自粛を強要する行為が、憲法で保障された基本的人権を侵害しているのは明らかだ。また、店舗の営業者に対して自粛を要請する行為は私権の制限となり、財産権を侵害することになる。

日本国憲法第3章 国民の権利及び義務
第29条 【財産権】

第1項 財産権は、これを侵してはならない。

双方の言い分はこうだ。

パチンコ店の言い分: 「営業を自粛してしまうと、本来営業して得られるはずの利益が機会損失になる。これは営業の自由であり、私権の制限(ここでは財産権)は憲法によって認められていない。したがって営業は続ける。営業自粛を強要するなら不利益を保障してくれ。」

パチンコ嫌いの言い分: 「今は社会全体の利益を優先し、人の移動は制限するべきだ。人が密集し、閉ざされた空間の中で集団感染したらどうするんだ?営業を自粛しない店舗(不届き者)は晒して見せしめにすべきだ

休業要請に応じないパチンコ店の言い分は、国による保障は十分かどうかを考慮した結果、営業を続けたほうが経済合理的という判断だ。したがって、パチンコ店は営業を続けた。損得勘定でいえば、自粛に協力してわずかなお金をもらうよりも営業を続けたほうが経済合理的であり、感染対策は自分で取っているから問題ないのだという。たしかに「三密でない限りにおいては」と行政ははっきりと言っているので、ルールを守っている以上営業自体を禁止することはできない。

一方、行政側も市民の声がエスカレートしているので放っておくわけにはいかず、店名公表という晒し刑を執行した。その結果、店名公表ゆえに開店情報を無料で宣伝する結果となり、他県からも越境してパチンコ好きが訪れ、さらに来店者が増えることになったという。これでは何だか本末転倒ではないか?

その後、自粛要請に応じない店舗は自粛警察によって、脅迫電話や張り紙が増えたのだという...。

この理屈を当てはめて考えると、通勤電車やバスなどの交通インフラも人が密集する空間になるため、自粛せざるを得ない状況になる。つまりこれをやってしまうと、電力や水道などのインフラ、スーパーの店員さん、インターネットなどの通信インフラを担うサーバー管理者、経済の血液をコントロールする金融機関のスタッフなど、社会インフラを担う人たちの移動が大幅に制限されてしまい、インフラという最も重要な社会基盤を失うことになるからだ(*今、多くの人たちがテレワークでZOOMなどを使って遠隔業務をしているが、そこにはITインフラを担う人たちがいて始めて成立することを忘れてはならない。ヒトの移動をせずに社会を回すことは不可能で、必ず物理的に移動しなければならない人たちも一定数いるのだ。だから、外出する人々を無差別に攻撃する行為は慎んだほうがいい)。

さすがに政府も交通インフラを止めるわけにはいかず、交通インフラを止めずにパチンコ店の営業自粛を強制してしまうと、今度は民主主義の基本的理念である平等性が損なわれることになる。

なお、交通インフラを止めるわけにいかないということは、そこには一定数の不要不急の移動者も紛れ込むことになる。どんな社会でも逸脱する人は一定数必ず存在する。今回の件でいえば、旅行者やゴルフに行く人たち、河原でバーベキューをする人たちが該当することになるだろうか。

この私権の制限は非常にナイーブで難しい問題だ、ここに民主主義の限界と苦悩が見て取れる。なお、パチンコについてはうるさいという理由で私は感情的に好きではないが、自粛の強要はさすがにやりすぎだと思う。物事は常に相対的であり、絶対の正義は存在しない。物事は感情論ではなく、常に冷静に論理的かつ客観的な視野から俯瞰的に本質を考える必要がある。

では平行線をたどる両者を調和させることは可能なのだろうか?

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・ハームリダクション戦略で半自粛(能動的自粛)が最も現実的ではないか

世の中は理想主義に溢れている。「この黄色い財布を買えばあなたはお金持ちになれますよ~」、「この投資ソフトを使ったらあっという間に億万長者になれますよ~」、「このサプリメントを飲めば運動しなくてもダイエットができますよ~」、「この教材を買えば聞き流すだけで簡単に英語が話せるようになりますよ~」、こういう類の話はネット広告でもよく目にする。

人間は本能的に理想主義者だ。

なんとな~く効果がありそうだけど、それを試して効果が出た人は果たしてどのくらいいるのだろうか?何だかよくわからないものに手を出すよりも、私たちは今、冷静になって柔軟に考え、社会全体の妥協点を探っていく方がより現実的であるように思う。

上記のツイートにあるとおり、京都大学の藤井教授がツイートしたコロナ感染のヒストグラムは、オーバーシュートした自粛要請に疑問を投げかけたものだろう。

この図から読み取れる客観的事実は以下のとおりだ。

死亡者数: 60代~80代に多く、50代以下はほとんどいない
重傷者数: 60代~70代に多く、50代以下はほとんどいない、30代以下はほぼいない
軽症者数: 20代~50代に多く、10代以下はほとんどいない、60代~80代は20代~50代の半分程度

藤井先生は自身の見解を述べていないが、「50代以下はほとんど影響がないので、外出して経済を回し、60代以上は極力外出を控えていれば、実はコロナウィルスは言うほど怖くないんじゃないのか?」ということだろう。もちろん、ウィルスを正しく恐れることは大事だ。

ただ、、、1人の感染者も出ないように自粛するのは理想的だが現実的ではないだろう。こんな事をマジで続けていたら、コロナウィルスで死ぬ前に、多くの失業者が街にあふれて経済的に死んでしまう人の数のほうが増えてしまう。

今後予想される第二波、第三波が来るたびに自粛を断続的に行うことは現実的ではないだろう。

上記の藤井先生の「半自粛」の内容を詳しく読んだわけではないが、おそらくハームリダクションの考え方をベースにしていると考えられる。

ハームリダクション(Harm Reduction)とは有害なもの(Harm)を軽減する(Reduction)という意味の言葉で、主に薬物療法に使われる言葉だ。この考え方の基盤となる思想は「有害となる問題を完全に解決させることを最初から期待するよりも、その行為を止めることができないのであれば社会全体で毒性を弱めよう」というリベラルな考え方に基づく。

私は10代の一時期をヨーロッパで過ごしたが、それはそれは想像を絶するような文化に放り込まれたことを覚えている。私はスイス、フランス、オランダに滞在したが、ここで大きなカルチャーショックを覚えた。

例えば、フランスの学校では授業が終われば先生は必要に応じて生徒たちにコンドームを配布する。思春期の子どもたちにセックスをするなと言っても、どうせ行為自体を止めることはできないからだ。それならば、個人の自由意思を尊重し、せめて望まれない妊娠を予防したり、性病が社会全体に蔓延しないように教育したほうが現実的だという考え方に基づく。なお、路上売春者に国がコンドームを配布して「適切な」予防策を採用している国もある。以外と思うかもしれないがアジアではシンガポールが国家規模で管理売春をして性病の感染防止に努めている。

また、オランダの学校では授業が終われば先生は必要に応じて生徒たちに注射針を配布する。ドラッグが好きな子どもたちに薬物をやるなと言っても、どうせ行為自体を止めることはできないからだ。それならば、個人の自由意思を尊重し、体育館の裏でまわし打ちをしてHIVが社会全体に蔓延しないように教育したほうが現実的だという考え方に基づく。なお、隣国スイスではヘロインさえも合法化されており、現在は街を歩いても麻薬中毒者を見かけることはなくなった。薬物医療センターにいけば、保険が適用され、「適切な」用法容量を調整してもらいながら心置きなくキメられるのだから。

私が日本で「普通の」学生生活に戻った時、今度は逆カルチャーショックに悩まされた。大人たちは言う、「未成年で責任を取れない年齢なのにセックスをしてはいけない」「ドラッグは人間をダメにするし、法律で禁止されているから手を出してはいけない」と。私が感じた大人たちに対する違和感の正体とは「それらを子どもの本能をコントロールさせるための十分な理由にはなっていなかった」ということだった。ようはリスクは自己責任でコントロールするものではなく、リスク自体を全否定して禁止するのが日本人らしい。不届き者を受け入れて共存するという意識はなく、問答無用で制裁されてしまうのだ。

この経験で私が学んだことは、「日本人というのは問答無用でリスクに対して過剰に反応する強迫性障害の資質を兼ね備えた人々」であるということだ。

そりゃそうだよね、だって大人たちは子どもの頃、ナガナワトビヲヤッテソダッタンダカラ。

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上記は多くの人にとっては非常に過激に感じる実例かもしれないが、こういうケースは私たちの身の周りにもたくさんある。

例えば、私たちは車を運転するときには保険に入るし、運転席にはエアバッグを取りつける。自動車保険に入るのは事故に遭った際や誰かを巻き込んでしまった時のリスクを最小化するための手段、運転席にエアバッグをつけてシートベルトを締めるのは、万が一事故に遭ってしまった時に死亡リスクを最小化するための手段だ(※もっとも、保険に入ったから事故を起こすことを正当化してよいことにはならないし、薬物が合法化されているから依存症そのものが肯定されるわけではない)。事故に遭うのが怖いからといって車を運転するのをやめることはできない、それならばリスクを最小限にとどめながら運転しようという考え方のほうが現実的だ。

まさか皆さんは、飛行機が落ちてくるのが怖いから、外に出ないでシェルターに籠って暮らそうということにはならないだろうと思う。だけど、なぜかコロナ問題についてはゼロリスク症候群がオーバーシュートして(過剰に行き過ぎて)しまい、自粛警察を生み出す源泉になってしまったことは言うまでもない。

少し落ち着いて考えてみてはどうだろう?マスクをつけない人を不届き者と定義するならば、マスクをつけない人に感染させないために私たちはマスクをつける。マスクをつけない人から感染しないために私たちはマスクをつける。どんな社会にも一定数ルールを逸脱する者はいる。だけど、それを無差別に攻撃するのではなく、不届き者を受け入れ、共存を目指せる豊かな社会であってほしいと願っている。

0か100、善か悪かを巡る二元論でこの問題の本質を解決しようとすることは、非常に危険だ。コロナ禍の外出制限は、自粛要請の圧力をかけると、それを破る人々がかえって地下に潜ってしまい、見えないところでより深刻な二次被害、三次被害を拡散させてしまいかねないからだ。

民主主義とは本来私たちを豊かにするためのイデオロギー(政治理念)であるはずだ。それは賛成派と反対派、多数派と少数派に常に意見が分かれ、絶対の正解が存在しない世界でもある。これが民主主義の最大のコストであり、自由をめぐるせめぎ合いは今日も続く。

おそらくコロナ禍がひと段落したずっと後に、私たちは社会全体でこの問題について議論する必要があると思う。

ただ、これを読んでいるあなたが自粛警察ならば、やみくもに歪んだ正義を振りかざす行為は控えてほしい。災いは巡ってやがて自分に跳ね返ってくる。

(ツギニナガナワニヒッカカッテシマウフトドキモノハアナタカモシレナイ)

井戸に唾を吐く者は、いつかその水を飲まなければならないのだから。

アフターコロナの世界を考える①~不景気の株高、二番底は来るのか~


子どもの頃、私が思い描いた2020年とは、それはそれは素敵な未来がやってきて、私たちの暮らしはさぞや快適になっているだろうとぼんやり考えたことがある。

しかし、残念ながら私の理想は見事に裏切られ、未来はそれとは真逆の物語を私たちの前に連れてきてしまったようだ。今年はいつになく、不穏な1年になりそうだ。

でもちょっと待った、、、悪いことの後には良いことがあると楽観的に考えるのも人間に与えられた才能かもしれない。リスクもリターンもその本質は「変化」や「変動」の中に生きているのだから。

penang
写真はコロナショック前の1月に行ったペナン島。コムタ最上階にあるレインボー・スカイウォークからの眺め、ガラスが割れたら二番底は地上だ

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私は今、このブログを現在の居住国であるマレーシアの首都クアラルンプールで書いている。

2019年12月31日、東京から遊びに来てくれた友人らと合流し、遅めの夜食をともにした。これから私たちはKLCC地区にあるペトロナスツインタワーの前で新年を迎えるのだ。街は2020の文字で埋め尽くされお祝いムード全開だ、私たちはあと数時間後には20年代という新たな時代を迎える。夜食を少し離れたブキビンタン地区・アロー通りの屋台でさっさと済ませると、私たちはペトロナスツインタワーへ向かって速足で歩き始めた。

歩きながら友人が言う。

友人:「ねぇ、ユーディー知ってる?中国の武漢で新種のウィルスが発見されてちょっとした騒ぎになってるみたい。どう思う?」

私:「最近香港で民主派のデモがあったでしょ、中国政府がネタで大げさに言ってるだけだろ?どうせすぐ終わるよ。それより急がないと日付変わっちゃうよ」

到着したツインタワーの前の広場はとんでもない人だかりで「足の踏み場もない」というのは正にこういう事を言うのだろうと思った。久しぶりに東京の通勤ラッシュ時の満員電車に乗った気分だ。笛を吹く人の音がうるさいわ、人は密集するわ、一度止まったら後ろから押されるわ、物好きというのはこんなに多いのかと驚いた。

私たちもその、、、物好きの一派なのだが...。

元日の夜空に向かって天高くそびえたつツインタワーはまさに産油国マレーシアの象徴と呼ぶにふさわしい圧巻の雄姿を見せる。東マレーシアの沖合に沈む海底油田、黒くて重い液体のゴールドは見事な鉄とセメントの塊を首都クアラルンプールのど真ん中に積み上げてみせたのだ。ツインタワーの間から打ちあがる花火を見ながら、私たちのテンションは最高潮に達した。

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年末年始の正月休みということもあり、友人たちはしばらくクアラルンプールに滞在した後日本に帰って行った。しかし、この時はまさか数か月後に世界全体がこんな状況になるなんて私たちの誰が予想しただろう?

今になって冷静に振り返ると、もしコロナウイルスがすでにマレーシアに侵入していて、無症状感染者が拡大していたとしたら、あの密集現場で強烈なアウトブレイク(感染拡大)が発生していたかもしれない。

人々は歓喜に沸き、店は朝まで大繁盛、不穏なニュースにも金融市場はわずかな下げ幅にとどまり、特段大きな反応は見られなかった。

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・壮大なるライヤーゲームとシーソーゲーム

金融市場の参加者は概して楽観的だ。そりゃあ上がる!上がる!と言い続けないと商売にならないからだ。

事実、コロナウィルスの震源地となった湖北省武漢が1月23日に都市封鎖(ロックダウン)されても、1月末から2月初旬にヨーロッパにパンデミックが波及して実体経済が麻痺してもなお、株式市場や為替市場には大きな影響は出なかった。むしろ2月12日のダウ工業平均は市場最高値29,568ドルをつけたほどだ。

WHOのテドロス事務局長が胡散臭い顔で「大したことはない!」と言っても、中国の習近平国家主席が「中国はコロナウィルスに勝利した!」と言っても(いや、誰がどうみても大したことになっていたはずだが)、ダウ工業平均や日経平均株価は緩やかに上がっていった。

これだけの壮大なライヤーゲームでさえ相手が人狼であると認識しながら、それでも意図的に株価を上げ続けなければならないのがアメリカ大統領の宿命だ。

それとも、実体経済と金融経済はだいぶ昔から主従関係が逆転してしまっているから、実体経済の悪影響はさほど金融経済に影響を与えないってこと?


えっ、えっ、そうなの...

ところが、2月20日を境に潮目が一気に変わった。それまでは相対的に円が売られドルが買われていたので、これは緩やかに回復を期待するリスクオン(まぁ、中国とヨーロッパなんか色々大変そうだけど、すぐに回復するっしょ)の流れだった(注:最近はドルがゼロ金利なので低金利の円をわざわざ借りてくる投資家は減ったのであまり当てはまらなくなってきた)。2月20日過ぎあたりからリスクオフのムードが漂い始めたのはアメリカ本土へとパンデミックが急激に拡大しつつあったからだ。

今回のパニックでひとつ勉強になったことは、アメリカが当事者(被害者)になるまでは、たとえヨーロッパでパンデミックが起こっても対岸の火事として認識され、アメリカ合衆国の基本的なスタンスとして、世界の深刻な問題としては取り扱わないらしいという事実だ。これは今後、パンデミックや戦争が起こった有事の際に参考になると思う。

私は正直、この地球全体を巻き込んだコロナウィルスという存在が金融経済にどんな影響を及ぼすのかとても興味深く眺めていた。というのも、私はこれまでサブプライムショック(2007年)やリーマンショック(2008年)を金融取引の現場で経験してきたが、いずれも金融経済がクラッシュしてから実体経済に波及し始めるのは9か月前後であることを経験則として持っているからだ。

つまり、株価大暴落が起きようとも、あの時、金融街のオフィスを一歩出れば人々は普通に生活をしていたし、会社やお店がバタバタと倒産し始めるまでには9か月間のタイムラグがあったからだ。2016年3月に石油価格が暴落した時も、マレーシアやインドネシア、アラブ湾岸諸国など産油国の実体経済に影響が出始めたのは、やはり9か月が経った頃だった。

ところが、今回のコロナショックは先の体験とは真逆の現象で、先に実体経済を直撃した。これは私にとっては初めての経験だ。サプライチェーン(供給の連鎖のこと。製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのことをいう)は強制的に分断され、国際線は運航休止に追い込まれ、国境が封鎖され、先に実体経済がやられた(ヒト・モノの移動制限、カネの移動だけはできるがそれだけでは経済を回せない)。

だからどこの国も「現在我が国は戦時下にある」という表現を使っているのだと思う。だって、私たち人類はここ70年以上、地球全体を巻き込んだ世界大戦など経験していないのだから、そういう表現にならざるを得ないんだろう。しかも、さらに厄介なのはウィルスという見えない敵が相手だということだ(当事者のウイルスたちに損害賠償できないから、アメリカやヨーロッパは中国に矛先を向けて「使用者責任」の間接適用を巡って躍起になっているようだ...)。


さて、金融マーケットはその後、約1か月間かけて坂道を転がり落ちて行った。

2月12日のダウ工業平均は市場最高値29,568ドルをつけた後、3月23日に18,213ドルまで急落。3月9日と12日の下げ幅が凄まじく、代表的な株式指数であるSP500の暴落を受けてサーキットブレーカーが発動、市場取引が一時停止した。この時点でSP500を基準に投資家の恐怖を指数化したVIX指数(恐怖指数)は3月18日のロンドン市場オープン直後に85.47という驚異的な数値をつけた(これはリーマンショックの2008年10月につけた史上最高値89.53に迫る数字だ。普段は14~22あたりを行ったり来たりする)。

日経平均株価は2月6日に23,995.37円の直近高値をつけた後、3月19日にかけて16,358.19まで急落。ちなみにこの時のドル円の為替の動きを調べると2月21日に1ドル112.186円をつけた後、3月10日に1ドル101.201円まで円が買われた。

ダウ工業平均株価: 
29,568ドル(2020年2月12日)→
18,213ドル(2020年3月23日)

日経平均株価: 
23,995.37円(2020年2月6日)→
16,358.19円(2020年3月19日)

ドル円: 
1ドル=
112.186円(2020年2月21日)→1ドル101.201(2020年3月10日)


VIX(恐怖)指数: 
14.17ドル(2020年2月17日)→
85.47ドル(2020年3月18日)

※上記は直近最安値と直近最高値を比較したもの、興味深いのはドル円と日経平均株価の転換点がずれて相関が崩れている点だ。

さすがにアメリカ政府もこの状況はマズいと思ったのか、3月25日、トランプ政権と議会側は新型コロナウイルスに対応するため、2兆ドル、日本円でおよそ220兆円の緊急経済対策法を成立させた。あまりにも早い決断だったと思う。

”ゼロ金利となった今、長年待っていたインフラ法案をやるときがきた。これは大きく大胆なものであるべきだ。220兆円相当で、雇用と合衆国のインフラを再構築するのだ!”

第45代アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ

つまり、3月25日の時点でアメリカでは金融緩和が行われることが決定したことになる。金融緩和とは簡単に言えば、お金をどんどん刷りまくって市中に流し、企業や個人の経済破綻を防ぐための刺激的な金融政策(劇薬)だ。

モノの価格は常に需要と供給によって決まる。

これはすなわち、市中に出回るお金の量が増えるわけだから、お金そのものの価値が下がることを意味する。カネの価値が下がるということは相対的にモノ(株式や不動産)の価値は上がることになる(もっと正確にいえば、カネの価値を無理やり下げたので、モノの価値が上がったように見せることができる)。結果としてその後、アメリカのダウ工業平均株価は反発して上がった。そして、アメリカドルの量が増えても日本円の量は変わらないので、日本円の価値も相対的に上がっていった。

これに追随して、日本でも安倍首相が4月7日に景気刺激策として108兆円の経済対策を発表し、日経平均株価は上がっていった(先述したが、上がったように見せた。現在、日本の年金運用機構GPIFのブレークイーブン(損益分岐点)は19,000円前後に位置しているという)。今度はアメリカドルの量に対して日本円の量が増えることが決まったので、日本円は売られ、ドルが上がっていった。

本質を考えれば、両国政府がやっていることは、シーソーにバケツを置いてお互いに水の量を増やしごっこしているだけなのだ。頭のいい大人たちもやっていることの本質は子供時代の遊びと何ら変わらない。

***

・まさかの石油価格史上初のマイナス決済

その後、4月20日のNY原油先物取引市場で史上初の緊急事態が発生した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物5月限(ぎり)は55.90ドル安のマイナス37.63ドルで取引が終了した。なんと一時マイナス40.32ドル!?にまで下落したのだ。


そもそもの下落要因として考えられるのは、パンデミックによる地球規模での経済活動の低下を受けて原油そのものの需要が大きく後退したためだろうが、原油そのものが供給過多となりつつあった状況に追い打ちをかけるように、飛行機は飛ばないわ、人は移動しなくなるわで、石油そのものの需要が大きく後退してしまい、先行きの需要が見込めなくなったことだろう。


この時、アメリカ国内ではすでに原油在庫が貯蔵施設の能力の限界に達するとの見方が強まった。ただでさえ、供給過多で原油在庫がパンパンになっていた上に、実需が一気に消えてしまい、しかしそれでも採掘を止められずに供給は続くことになるのだから、「もぅお金を払うので頼むから引き取ってください」という意味不明の事態になったわけだ。

WTI先物は先物取引のため「精算日」という概念が存在する。2020年5月限(ぎり)の精算日は4月25日となり、3営業日前となる日が取引最終日となる。つまり、5月限の取引最終日は4月21日となる。


原油先物取引の決済方法は反対売買によってゲームが終了する。取引最終日にポジションを保有していた場合、最終的には反対売買で強制決済される。それはそうだ、まさか一般の投資家や機関投資家が現物取引をするわけではないでしょ!?そうでないと配達員のお兄さんがインターホンを鳴らして原油を自宅や会社に持ってきてしまうことになる(どこに保管するんだよ笑)。私はこれまでガチの原油を買って、自宅で保管している投資家にはお会いしたことがない。

今回は取引最終日が明日に迫り、お金を払ってでも引き取ってくださいという事態になったのが、マイナスとなったパニック要因だと考えられている。

石油の供給者であるOPECプラスは5月1日から世界の原油供給の約1割に相当する日量970万バレルを削減する協調減産を開始し、現在の石油価格は落ち着きを取り戻しつつある。

オイルの実需を試算すると、コロナの影響で現在3,500万バレル/日の実需が消失したといわれている。OPECプラスが減産に合意した分が970万バレル/日。差分は2,530万バレル/日だから、この量を追加減産しないかぎり、価格がコロナ前の水準に戻ることはないだろう。

このまま需要環境が改善し、OPECプラスの協調減産が行われた場合、年内には今度は供給不足により供給<需要となり、過剰在庫の取り崩しが始まるかもしれない。ただしその間に原油価格が上昇してしまうと、今度は減産合意が破棄され、再度受給が崩れるシナリオも十分にあり得る。

ここでも大人たちのシーソーゲームは続く。

***

・コロナショックは何が着火点で誰が大やけどを負い、誰がケツを拭いたのか?

先物市場というのは世界中のどこかのマーケットで売買が常に行われていて、毎秒ごとに値段が上がったり下がったりする。すなわち相場は常に変動している。

価格が上がり過ぎればいったん下げて調整が入るし、下がり過ぎればいったん上げて調整が入るし、少しずつ高値と安値を切り上げ(切り下げ)、小さなレンジ相場を形成しながらやがてトレンドを形成してどちらかの方向に向かっていく。そりゃそうだ、市場取引は買い手と売り手がいて成り立つわけだから、少しでも高くなれば売り手は増えて買い手は減るし、少しでも安くなれば売り手は減って買い手は増えるわけだから、バランスを取りながら上下に変動を繰り返していく生き物だ。

少し難しい話になるが、相場は長期・中期・短期の3つの波で形成されると言われる(ダウ理論)。長期の波は中期の波の連続によって形成され、中期の波は短期の波の連続によって形成される。月足・週足・日足から4時間足、1時間足、15分足、5分足、1分足、ティックチャートまで縦に並べてみるとこの現象がよくわかる(いわゆるマルチタイムチャート)。

ところが、今回のように一気に着火点のトリガーが引かれると、小さな波の動きが早すぎて誰も手に負えなくなる(そんな状況でも3つの波の法則はしっかり当てはまっている。が、小さな波が大きすぎるゆえに1つ上の時間足がもはや津波級レベルになる)。例えるなら、この状況でトレードするということはサーファーが津波の上でサーフィンをやっているようなものだ。

ちなみに、、、私は6月限の原油で1,000ドルだけフルレバレッジでショートポジションを取ったが、数秒で津波にさらわれてしまった笑 火遊びはやるもんじゃないな笑笑笑


さて、本題。この暴落局面で超ド級の売りポジションを持ったのは、いや持たざるを得なかったのは誰だろうか?

結論先行でいえば、私は産油国の政府系ファンド(ソブリンファンド)とヘッジファンドや投資信託が主体だったのではないかと思っている。

先日、ノルウェーの政府系ファンドが4兆円の換金売りをするとのニュースを読んだ。ノルウェーは北海油田を擁する北欧最大の産油国だ。この国の政府系ファンドが金融マーケットに与える影響は極めて大きく、世界最大級の機関投資家として知られている。通常、産油国は1バレル数十ドルを想定して国家予算を組んでいるわけだから、原油価格が今回のレベルにまで暴落してしまうと金融資産を売って手元に現金を確保せざるを得なくなる。なるほどなるほど、ノルウェーでさえこの状況なのか...。

先月、大手格付機関であるS&P社は、産油国の債券格付けを軒並み段階的に引き下げた。国家の信用リスクが一斉に低下した格好だ。

私が今回、産油国の中で最も甚大な影響を受けた国は、サウジアラビアではないかと思っている。聞くところによればサウジアラビア政府は1バレル70~80ドル程度を想定して国家予算を組んでいたらしい。

サウジアラビアは若きプリンスであるムハンマド・ビン・サルマーン皇太子のもとで石油に依存する従来の経済構造から脱却し、新たな産業開発を多角的に進める計画(ビジョン2030)を急ピッチで進めている最中だ。それが突然のコロナショックという最悪のタイミングで航空機が飛ばずに石油の需要が激減、原油価格の暴落、さらにはメッカ巡礼の観光需要消滅というトリプルパンチで、相当手痛いダメージを受けているはずだ。ようは副業を増やして別の手段で儲けようと思っていた矢先、本業がピンチになってしまい、副業どころではなくなってしまった状態だ。

サウジアラビアは採掘した原油を輸出して外貨を稼ぐ収益モデルに特化した国であり、政府は国民の生活を保障することで治安を保っている。ゆえに、国民の70%は公務員ということになる。サウジアラビア政府は現行の5%の付加価値税(消費税)を7月から3倍の15%に引き上げることを問答無用で決定、さらにすべての公務員に対して給与引き下げという強硬策に出た。これ、普通に日本だったら暴動が起こるレベルだと思う。

上記から、産油国、とくにサウジアラビア政府の換金売り(金融資産を売ってドルを買う動き)が暴落の大きな原因だったと考えている。

もうひとつはヘッジファンドや投資信託の換金売りが原因だったのではないかと思う。ヘッジファンドは本来、「相場の上下変動(βリスクという)に左右されず、マーケットが上がっても下がっても絶対収益(αという)を獲得しますよ~」という謳い文句で投資家からお金を集め、適切なリスク・リターンのポジションを設計して運用を行っている(はずの)プライベートファンド形態の企業だ(ヘッジとは垣根という意味なので、本来リスクは限定されているはずだ)。ところがその実態は市場変動による利益を積極的に取りに行き、結果として失敗、最悪の場合破綻に追い込まれるケースが後を絶たない。ヘッジファンドは一般の投資信託と異なり、ショートポジション(売りから入るという意味)を持つことができるため、下落局面でも積極的にリスクを取りに行き、そこで勝った負けたのゲームをしているのが現状だ。

コロナショックが起こる前、ヘッジファンド勢の多くは間違いなくダウ工業平均株価の上昇による恩恵を受けていたはずだ。強いアメリカを目指したトランプ大統領、2016年秋の大統領選挙勝利時のダウ平均株価は19,827ドルだった。それが2020年2月12日には史上最高値を更新し続け、29,568ドルまで引き上げたのだ。つまり、一方通行の上昇トレンドが続いたわけだから、買いのポジションを持ってさえいればヘッジファンドは普通に利益が上がっていたことになる。

トランプ大統領のやった政策は非常にシンプルだった。彼の政策のもとで史上最高値を更新し続けることができた理由は、史上最高値を更新した直後に中国に追加制裁をかけて譲歩を引き出すというものだった。ぜひ確認してほしい、トランプ大統領が中国に追加制裁をかけるコメントをし、強いアメリカを演出したのは、いつも史上最高値を更新した直後だったことがおわかりいただけると思う。

そして間もなく念願の30,000ドルに到達する目前の2月上旬、不幸にもコロナウィルスのパンデミックがアメリカ国内で発生してしまった。3年かけて彼が築き上げた強いアメリカの株価水準は3年前の基準をわずか1か月で割り込んでしまった、そりゃあトランプさん激おこプンプンでガチギレするわな。

ダウ工業平均株価: 

19,827ドル(2017年1月20日)→29,568ドル(2020年2月12日)→18,213ドル(2020年3月23日)

DOW

今年2020年の秋には2期目の大統領選挙が控えている。コロナショックはトランプ政権に大きな悪影響を与えたことは間違いないだろう。ヘッジファンドや投資信託はプロップファーム(自己資金を運用する会社)や個人投資家と違い、含み損を抱えて投資家から解約を迫られてしまうと、相場の回復を待たずにポジションを決済しなければならない運命にある。株価が下がる→含み損を抱える→解約を迫られる→安値でポジションを決済する→また株価が下がる、という負のスパイラルに突入したメカニズムはまさにこれが原因だろう。つまり、トランプ政権はヘッジファンドや投資信託の連鎖倒産を防ぐために株価を上げる政策を速やかに実施する必要があった。

金融緩和の実施により大量のカネを市中にばらまいたのは、本当に失業者たちを守るためだったのか、それとも...?

これ以上の真実は私にはわからない...。


”合衆国は必要としている人々にお金を与えよ。そして速攻でやるんだ!”

第45代アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ


***


・半値戻しは全値戻し、二番底は来るのか?

ダウ工業平均株価や日経平均株価は3月下旬に直近最安値をつけた後、大きな波乱もなく、順調に上昇が続いてきた。世界景気が急激に悪化する中、いわゆる「不況下の株高」という不気味な状況が続いている。

まさに金融緩和という劇薬が功を奏した格好だ。実体経済が動いていないにも関わらず株価が上がっていくのだから、いかに現在のお金の価値が下がっているのかがわかるだろう。

最近、ZOOM飲み会が流行っているようで、機関投資家(いわゆるヘッジファンドや保険会社など)の運用担当者との会話で必ずと言っていいほどホットトピックに上がるのが「二番底は来るのか?」という話題だ。

これは強気派と弱気派に意見が真っ二つに分かれるが、通常シナリオはジリ上げで二番底は来ないだろうという意見が多い。私も来ないだろうと考えている(注:予想と希望は違う)。

その根拠は、実体経済が少しずつ回復基調にあること、ではなく、先述したとおり、お金の価値が極端に下がりすぎてしまっている状況なので、相対的に株価は下がりずらいという消極的な見方だ。だってバケツの中に水を入れて水面の位置が上がってしまったら、そこに浮かんでいたブイを水中にある元の位置に沈めるのは逆に難しくなってしまうわけだから。それでも、気になる点は(経験則になってしまうけど)、今まで二番底をつけずに元の価格まで回復したマーケットは見たことがない。この点は注意しておかないと。


これまで歴史が何度となく証明して来たように、相場が上か下に動くためには必ずそれ相応のエネルギーが必要になる。だから、どちらかの方向に動くためには、一度逆方向に引き付けて強烈なエネルギーをため込む必要がある(弓矢と一緒の原理)。

私たちが子供の頃、チョロQというゴムのゼンマイを後ろに引き付けてミニカーを走らせる超絶アナログ式のおもちゃがあった(今もあるのかな?)。このチョロQの原理はまさに弓矢の原理と一緒で、金融マーケットで格好良くいえば、「押し目(上昇局面の調整)」とか「戻り(下落局面の調整)」というやつだ。


元の価格に戻ろうとする力は3月下旬の金融緩和決定のニュースから一気に上方向に爆発し、現在は半値戻し(回復の道半ば)にある。ここから上がっていくには、おそらく一筋縄ではいかないだろう。上に突き上げ、下に戻されといった変動を繰り返しながら(いわゆるダマし上げ)、少しずつ売り板を崩し、薄くなったタイミングで高値を切り上げながら全値戻しをしていくのではないだろうか?

上がるか下がるか、それよりも投資は「いつ買うか・いつ売るか」のタイミングが難しい(私も金融緩和のニュースが流れた時に試し玉を入れたけど、一気に半値まで戻ってしまったのでこれ以上買うのをためらっている。もっと買っておけば良かった)。

以前もこのブログに書いたと思うんだけど、金融緩和が始まった時点では手元に現物のお金がない状態で株価だけが上がっていく。つまり、ここでは信用取引が行われたり先物取引が行われ、実体以上の数字だけがマーケットに入りこみ取引量を膨らませる現象が起こっている(モノを持たずに証拠金を積んでポジションだけ持たせてもらっている状態。値動きの部分だけを切り取った商品といえばわかりやすいと思う。ようは水は入っていないけど、水がある「テイ」で水面のブイだけが上がっていく。これがデリバティブという金融商品の本質だ)。

マーケットの共通ルールとして信用取引の決済期限は6か月と決まっており、先物取引でも大きな限月は3・6・9・12月と年4回に分かれる(メジャーSQという)。大口の投資家がマーケットで売買をするときはだいたいこのどっちかの商品でポジションを取ることが多い。

さて、証券会社のホームページを見るとざっくりと以下のようなルールがわかりやすく書いてある。

先物取引は、取引できる期間が決まっています。期日の前営業日を取引最終日として、それまで取引が行われます。期日当日は最終決済のみ行われます。これを限月取引(げんげつとりひき)といい、限月とは先物取引の最終決済月を指します。

例えば、日経225先物は、3月、9月のうち直近3限月と、6月、12月のうち直近16限月、日経225miniは3月、9月のうち直近3限月と、6月、12月のうち直近10限月およびそれ以外の月のうち最も近い3限月が取引所で取引されています。

先物取引(※)は、各限月の満期日(SQ日)である第2金曜日の前営業日が最終売買日となります。

※NYダウ先物は、原則、各限月の満期日(SQ日)である第3金曜日の前営業日が最終売買営業日となります。

松井証券ウェブサイトより

今回の戻り相場を形成させた商品は大きく3つにわかれ、それらは以下の商品が利用されたと推測する。

ダウ工業平均株価: 18,213ドル(2020年3月23日)

ダウ平均現物(信用取引)・・・2020年9月22日までに強制決済が必要(6か月で反対売買が必要)

2020年9月限のダウ先物・・・2020年9月18日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)

2020年12月限のダウ先物・・・2020年12月17日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)

いちおう日経平均も書いとこうか。

日経平均株価: 16,358.19円(2020年3月19日)

日経平均現物(信用取引)・・・2020年9月18日までに強制決済が必要(6か月で反対売買が必要)

2020年9月限のダウ先物・・・2020年9月10日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)

2020年12月限のダウ先物・・・2020年12月10日までに強制決済が必要(1か月前の25日の3営業日前)


上記のあたりで一度利確するかショートポジションを持てというわけではないけど、だいたい、どのあたりで大きな調整が入りそうかの判断材料にはなると思う。

参考:過去の結果

・安倍政権誕生(アベノミクス開始):2012月11月19日→2013年05月23日、日経平均株価が大幅調整(6か月と4日後)。


・日銀による異次元の質的・量的金融緩和発表:2014年10月31日→2015年3月21日、日経平均株価が大幅調整(
5か月と20日後

・トランプ政権誕生(トランプノミクス開始):2016年11月11日→2017年05月17日、ダウ平均株価が小幅調整(6か月と6日後)※この相場は前後に調整が入ったパターン。


相場は上がると思っているけど下がるほうにかける投資家の方はぜひ私の以下の記事を読んでみてほしい。この記事に出てくるナシーム・ニコラス・タレブ氏がアドバイザーを務めるテールリスク・ヘッジファンドは今回のコロナショックの中、3月の運用成績がプラス3,612%とのこと。ダウ工業平均が史上最高値をつける中、逆バリでショートポジション(もしくはプットオプション?)を積み上げ、含み損に耐えながら暴落を待っていたと推測できる。すげぇすげぇ!

http://yudypon.blog.jp/archives/20141116.html

以上、投資は自己責任で。

”強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく”


アメリカの著名投資家 ジョン・テンプルトン

※過去の景気後退

1987年: ブラックマンデー・・・G7によるルーブル合意の協調政策の破綻

1997年: アジア通貨危機・・・新興国通貨の急落と外貨建て借金の膨張と資金引き上げによる深刻な景気後退

1998年: LTCMショック・・・米大手ヘッジファンドの経営破綻

2007年: サブプライムショック(BNPパリバショック)・・・傘下のミューチュアルファンドの解約凍結による信用不安

2008年: リーマンショック(AIGショック)・・・米大手投資銀行の経営破綻

2017年: ←来なかった→

2018年: ←来なかった→

からの

2020年: コロナショック・・・疫病蔓延による実体経済の停止と実需消滅による石油価格暴落

↑今ここ

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国際分散投資⑤~リバランスとモニタリング~


ここまで主に投資初心者の方を対象に国際分散投資についてインデックスファンドを活用する投資方法を紹介してきたが、インデックスファンドは投資初心者から上級者まで幅広く応用できる優れた金融商品であるといえる。

インデックスファンドを活用することにより、投資家自身の運用目的や長期投資方針といった最重要課題にだけ専念すればよく、費用対効果が非常に優れているというのがその最大の理由だ。

このブログを読んでくださっている個人投資家の皆さんは、以下にご紹介するリバランス・モニタリングといったメンテナンス作業を定期的に実施していただくことを強くおすすめしたい。

国際分散投資⑦

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【リバランスとモニタリング】

投資を開始してから一定期間が経過すると、それぞれの商品が別々の値動きをし始め、当初設定したポートフォリオから構成比率が少しずつ変化していく。

このように運用資産の配分比率が、目標とする資産配分から乖離した分を一定の期間ごとに是正していく作業をリバランス(再調整)という。

リバランス1

リバランスは「相対的に高くなったアセットクラスを売り」、これとは逆に「相対的に安くなったアセットクラスを買う」作業となるため、いわゆる逆張り型の運用戦略となる。

上昇局面が続いた商品は実質価値より割高に評価されているため、いずれ価格が下落方向に転じ、
それとは反対に、下落局面が続いた商品は実質価値より割安に評価されているため、いずれ価格が上昇方向に転じることになる。

リバランスを実施する最大の理由は、多くの投資家が陥ってしまいがちな「割高な銘柄を買い、割安な銘柄を売る」といった、本来とは真逆の行動(最悪の行動)を取ってしまうことを防止することに他ならない。

リバランスを定期的に実施することにより、資産配分が当初の構成比率から誤差が生じた際、比率の大きなものを売却し、比率が低いものを組み入れることにより、理想的な配分比率に修正することが可能となるわけだ。

リバランスの役割

割高になった商品を売る(値上がりして最初の構成比率よりも大きくなったものを減らす)

割安になった商品を買う(値下がりして最初の構成比率よりも小さくなったものを増やす)

複利効果と時間的分散効果」の項目でも説明したが、長期にわたる運用を継続することができれば、ポートフォリオ全体のリターンは、時間の経過とともに平均収益率へと近づいていくことになる。

リバランス②

このような統計的優位性に加え、リバランスを定期的に実施していけば、平均収益率の変動(ブレ幅)は時間の経過とともに非常に高い精度で安定していくことになる。

割安な商品を買い、割高な商品を売る。リバランスは非常にシンプルで地味な作業ではあるが、運用の基本ルールが機械的に実行できることに加え、運用結果の実に
80%もの多大な影響を及ぼすことになるため必ず実施してほしい。

感情的な投資

・注目されている割高な銘柄を買い、結果として高値掴みをしてしまう

・下落相場に耐えられず損切りを実行したところ、再び上昇に転じた

機械的な投資

・運用比率を調整し、割高な銘柄を機械的に処分する(リバランス)

・運用比率を調整し、割安な銘柄を機械的に組み込む(リバランス)

ただし、リバランスは頻繁にやれば良いというわけではない。ポートフォリオの組み換えに伴う売買には、手数料などのコストがかかる点には注意が必要である。

その理由は、わずかな誤差の微調整を繰り返してしまうと、取引コストのほうがかえって高くついてしまう可能性があるからだ(頻繁に銘柄の組み換えを勧めてくる営業マンがいれば手数料稼ぎ以外の何者でもないだろう
...)。

過去データの検証によれば、年
1回程度のリバランスはリターンにプラスの作用をもたらすことがわかっている。運用を始めたばかりの方であれば、始めは3ヶ月ごとに、慣れてきたら半年ごとを目安にご自身の資産構成比率の変化をモニタリングし、初期の投資比率と現時点の構成比が23%程度ずれてきたときに、リバランスを実施すれば十分だろう。

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【インデックス投資のメリット】


最後に資産運用にインデックスを活用するメリットを再度掲載したい。

投資家の多くは目先の利益を追い求めた結果、「感情的に投資をしてしまい、高値掴みをしてしまった」、「高利回りの商品に飛びつき、投資詐欺に遭ってしまった」など、欲望をコントロールできずに資産を目減りさせてしまった方が数多く見受けられる。

しかし、このような投資方法では、資産運用は確実に失敗に終わる。確実に
...。

資産運用の本質高利回りで資産を殖やすこと → ×
資産を極力減らさないように、少しずつ安定して殖やすこと → 

すでに述べたとおり、資産運用において大切なことは、「資産を極力減らさないように、少しずつ安定して殖やすこと」であるといえる。そのためには、「市場の誘惑に惑わされず、機械的に運用を継続できるかどうか」に全てかかっているといっても過言ではない。

このブログを読んでいる皆さんが市場の誘惑に負けそうになった時、以下に記したインデックス投資の優位性を思い出していただき、長期に渡る資産運用を実現させてほしい。

① 相対的に高いリターンが得られる

長期的に見て、アクティブファンド全体の80%は市場平均に勝てず、どのアクティブファンドがトップ20%なのか事前に見極めることはほとんど不可能となっている。インデックスファンドを保有するだけで投資のプロの80%以上の成績を出すことができる。

② アクティブファンドに比べてコストが低い

インデックスファンドの運用報酬と管理費用は、年率で0.1%程度。一般のアクティブファンドでは12%程度となっている。さらにインデックスファンドは年間を通してポートフォリオの1割程度しか売買されないため、取引回数が少なく、結果として売買手数料が安く抑えられることになる。一方のアクティブファンドでは、毎年ポートフォリオ全体が入れ替わるため取引回数が多くなり、売買手数料が高くなる。また、インデックスファンドは複数銘柄の平均値(ベンチマーク)の取引であるため、値動きが小さく、実現損益も小さいため、結果として課税額も安く抑えられることになる(オープンエンド型=再投資型のバランスファンドを購入すれば、リバランスを自動的に実施してくれるため、利益を確定させるまで課税タイミングを先送りすることが可能となる)。

③ 無駄な労力をかけずに平均点が採れる

インデックスファンドは、あまり運用実績を管理する必要がない。インデックスファンドは無駄な労力をかけずに市場の平均点を取っていく投資方法であるといえる。

④ 相場動向や投資戦略を考える必要がない

インデックスファンドはアクティブファンドのように運用機関を選択する必要がなく、どのファンドを選択してもインデックス指数にほぼ連動するように商品が設計されている。そのため、値動きの異なるインデックス商品を複数保有することで、相場動向や投資戦略を考える必要がなくなる。さらにはインデックスファンド自体が、複数の商品に分散された商品であるため、特定個別銘柄・地域への投資割合も低く、株式であれば倒産リスク、債券(国債・社債)であれば国家破綻リスクや特定の会社の倒産リスクを低く抑えることができる。

*****

以上、長々と5回に渡って国際分散投資についてまとめたが、投資の本体の目的とは世界の経済成長の恩恵を受けながら少しずつ資産を殖やしていくプラスサムのゲームだと思っている。

以前、「集中と分散」でも書いたが、私自身は集中投資に向かない性格のため、分散投資の道を選んだ。

もちろん集中投資と分散投資、どちらにも優位性と欠点がある。

集中投資が得意な方はそもそもこのブログを読んでいないだろうし、集中投資をすればいい。

集中投資が苦手な方はトレードなんぞ止めてしまって、のんびりと分散投資をすればいい。

ご自身のお金を使って投資をされている個人投資家の皆さんを、私は心から尊敬している。

ただ、お金はしょせん手段にすぎず、目的にはなりえない。

お金とは経済の血液であって、誰かで止めてしまってはいけない。

だから皆さんが利益を出すことができたならば、その一部でいいから世界を良くするために使ってほしい。

それでは、また!

*****

(参考:カン・チュンド
 忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)  

国際分散投資④~アセットアロケーション~


人類は歴史上、同じような過ちを何度も繰り返してきた。

投資の世界でも同様に、これまでに何度となくバブルや暴落を繰り返してきていることは周知のとおりだろう。実際に大暴落が起こるたびに、マーケットから退場していく投資家があとを立たない。

資産運用においてもっとも重要なことは、「
市場の誘惑に惑わされず、機械的に運用を継続する」ことにある。市場の誘惑に惑わされないためには、まず、運用の基本方針と目標を決めることである。

そのためには、「
どれくらいの期間で、最終的にどれくらいの資産を確保したいのか」を明確に設定しておく必要があるだろう。

アセットアロケーションの検討項目・現在の年齢
・運用の目的(何のために運用するのか)
・運用期間(いつまで運用するのか)
・リスク許容度(どの程度のリスクが取れるのか)

ここでは、運用成績に最も影響を与えるアセットアロケーションについて説明して行きたい。

*****

【アセットアロケーション】

資産運用の結果を決める要因は主に以下の
3点に集約される。

1.銘柄選択どの商品を買うのか
2.投資タイミングいつ買うのか
3.アセットアロケーション資産をどのように配分するのか

米国バンガード社が2003年に発表した「5年以上の運用実績を持つ420本のアクティブ運用バランス型ファンドを1962年~2001年(40年)の過去データをもとに分析した研究」によれば、「アセットアロケーションの違いが月次リターンの77%の差異を決める」という大変興味深い調査結果が出ている。

つまり、この調査結果によれば、ポートフォリオが投資リターンに与える影響は非常に大きく、リターンの実に
80%はポートフォリオの内容で説明できるとしている[1]。

なお、多くの方が重視する投資タイミングはわずかに
8%程度、ポートフォリオをどのような個別銘柄で実現するかの銘柄選択はわずか6%程度しか投資リターンに影響を与えないことがわかっている。

投資リターンに及ぼす影響力
ポートフォリオの内容月次リターンの約77%
投資タイミング月次リターンの約8%
銘柄選択月次リターンの約6%

多くの投資家の方を見ていると、「どの商品を買うのか」「安く買える投資タイミングはいつか」に多くの時間を費やしているが、結果の出る運用を最優先に考えるのであれば、これからはアセットアロケーションに多くの時間を費やしたほうが合理的であると言えるのではなかろうか?

アセットアロケーションが「リターンへの影響度」を高めるためには、多くの銘柄に幅広く分散投資が行われていることが前提条件となる。つまり、少数の銘柄に集中投資を行った場合は、事業継続リスクが高まり、企業の倒産確率が上昇するなど、「銘柄選択の影響度」が高くなると考えられる。したがって、集中投資には上記の理論は適用されない。


*****

【資産配分を考える】

現在では、株式、債券、商品等、それぞれのアセットクラスに対応するインデックスファンドが存在しているため、それらを組み合わせることによって、誰でも簡単に運用を開始することができるようになった。

国際分散投資③

すでに、リスクとは投資の世界では「変動」を意味することは説明したが、それぞれの性質に合わせ、資産を地域や商品、時期を分散することにより、リスクを低減させる効果が期待できることになる。

さらに、値動きが異なる商品同士を組み合わせることにより、全体としての運用の安定性を確保することが可能となるわけだ。

もちろん、しっかりとアセットアロケーションを実行したとしても、短期間では価格は大きく上下に変動してしまうことは覚えておいてほしい。

確率統計上、どのような投資方法であれ運用開始直後の数年間はブレ幅が非常に大きく、利益や損失が予想以上に拡大してしまうこともあるだろう(「複利効果と時間的分散効果」の説明を思い出してほしい)。

図2

しかし、長期で継続していくことにより、年次リターンのブレ幅は次第に小さくなり、やがて平均収益率へ近づいていくため、資産運用は最低でも
10年は続けて行かなければ全く意味がない。その理由は統計的優位性を享受することができないためだ。

この先マーケットは上がるかもしれないし、下がるかもしれない。私たちに唯一わかることは、「
マーケットは常に変動する」ということだ。どのような商品であれ、上がったものはやがて下がり、下がったものはやがて上がる。

したがって、いつまでも暴落が続くことはなく、暴落の翌年には大きく上昇する傾向が高いということだ。長期で継続していけば年次リターンのバラツキは小さくなっていき、やがて平均収益率に近づいていくことになる。

このブログを読んでいる個人投資家の皆さんは、「長期」・「分散」・「積立」の
3点を軸として投資を継続的に実行し、定期的に保有比率を機械的に再調整(リバランス)することにより、「複利効果」と「時間的分散効果」を最大限に享受しながら、ご自身の資産を市場変動リスクから切り離すことが可能となる。

そのため少しでも長く、できるだけ長く投資を続けてほしい。

*****

【資産配分の例】

一般的に、ポートフォリオの構成比率の基本は、世界各国の国内総生産(
GDP)構成比率に準拠させることで各国の経済動向に連動させることができるため、こうした資産配分が理想的であると言われている。

また、インデックスを活用することはマクロレベルでポートフォリオを管理するのと同義なので、現在のマーケットで注目されている固有の銘柄などの影響を受けることがなくなること、さらには、分散比率を定期的に調整することにより、世界経済の成長によるリターンを享受できるようになると考えられる。

アセットアロケーションは特にこれが正解というものは存在しないが、一般的には「国・地域の分散」・「アセットクラスの分散」の
2点がバランス良く分散されていることが望ましいとされている。

なお、近年ではインデックスファンドだけではなく、
ETF(上場型投資信託)も普及したことにより、世界中の不動産を間接的に保有することも可能となったため、投資家の好みに合わせて組み込んでみるのも面白いかもしれない(※私は面倒くさいので株式と債券以外はやっていない)。

アセットアロケーション1

上記は大雑把な一例だが、すでに述べたように結果の出る運用を考えるのであれば、これからは細かな企業分析などよりもアセットアロケーションに多くの時間を割いていただくことをおすすめしたい。

アセットアロケーションは運用成績の実に
80%に影響を及ぼす非常に重要な作業となるため、ご自身での作業が難しいという方はバランス型ファンドの購入も検討されてみてはいかがだろうか?

バランス型ファンドはインデックスファンドや
ETFに比べ手数料は若干割高となるものの、現在ではほとんどがコンピューターの自動売買プログラムによって定期的に配分比率を自動調整してくれるため、ほとんど手間がかからずに投資を行うことが可能となっている(市場連動型の商品はほとんどが機械による自動売買を行っているため、信託手数料が非常に安く設定されている)。

*****

【コラム③:日本から投資する場合の為替リスクについて】

日本から海外投資を行う場合、日本の投資家は非常に不利な立場にあると考えられる。
その理由は日本という国は為替リスクが極めて特殊な環境に置かれている国だからだ。

国際分散投資⑥

現在、日本国内で流通している「日本円(
JPY)」という通貨は、ひとたび不景気や国際的な経済危機が起こると円高方向に振れるパターンが多く、それが国際分散投資によるリスク分散効果を相殺してしまうことになりかねない。

主なポイントは以下の
2点に集約できる。

1.
日本が経常黒字国(貿易黒字国)であること

ひとつは、日本が経常黒字国(貿易黒字国)であるために、企業は海外で獲得した外貨をそのまま海外投資に回さない限り、円転(円の買戻し)による経常的な円買い圧力に晒されることになる。

世界的に景気が良ければ日本の企業が稼いだ外貨はそのまま海外での取引や投資に使われるため、円買い圧力は弱まり、結果として円安になる。

しかし、経済危機などで世界的に景気が悪くなると、海外での取引や投資が減少し、資金を回収して円転を進めるために、円買い圧力が高まり、結果として円高になる
[2]

世界的な好景気 → 海外取引増加 → 海外で獲得した外貨をそのまま海外へ投資

→ 円安

世界的な不景気 → 海外取引減少 → 海外で獲得した外貨を回収して国内へ還流 

→ 円高

さらには、こうした現象は日本国外だけでなく、先の東日本大震災など日本国内で危機が起こったときにも生じる。

日本国内で危機が起こった場合、日本の企業はリスク回避のために海外投資を減らし、日本国内に戻すため、経常黒字から生じる円買い圧力が強まることになる。日本の投資家も国内での損失をカバーするために海外に投資した資金の回収を進めるため、やはり円が買われ、結果として円高になる。

国内での危機 → リスク回避のため海外投資を減らす → 資金を回収して国内へ還流 

→ 円高


2.
日本が世界最大の対外純債権国であること

もうひとつは、日本が対外純債権国であるため、世界中の国が円を調達し、それを売ってドルなどに交換して経済活動を行っているということだ。

ゆえに、世界的に景気が良いときには円売り圧力が高まることになるが、世界的な経済危機が起こってしまうと、この資金の動きが巻き戻されるために円買い圧力が高まることになり、結果として円高になる。

世界的な好景気 → 世界中の国が円を調達 → ドルなどに交換 → 海外で使う

→ 円安

世界的な不景気 → 調達した円を戻すため、資金をドルなどから円に交換

→ 円高

このとき、リスク回避のために円を買うのは日本の企業や投資家だ。

投資家や企業が避けたいのはあくまでも「為替リスク」であるため、為替先物で円のヘッジ買いをすることになる(実際に海外資産を売却することはない)。このように、実際の資本移転は行われなくとも、リスク回避のための円買いは発生することになる
[3]

上記のような国際的な資本フローの原則を理解すると、日本円を使って国際分散投資を行う際の最大の敵は為替リスクだということがよくおわかりいただけると思う。

日本から海外へ投資をする場合、世界的な不景気や経済危機が発生してしまうと、「
投資対象の価値の下落」とともに円高による「通貨価値の相対的下落」もダブルパンチで損失を喰らってしまうことになりかねない(つまり、資産防衛のために投資という名目で海外に資産を逃避させても、結果として資産価値が大幅に目減りしてしまうという皮肉な結果になる可能性もあるということ)。

本来は、「アメリカドル(
USD)」を基準に投資を行うことが望ましいと言えるが、日本から投資をする場合は、ある程度の「日本円(JPY)」もキャッシュポジションとしてアセットクラスに組み込まれることを強くおすすめしたい。その理由は、世界的な景気後退局面では強力なヘッジ効果が期待できる商品だからだ。

アセットアロケーション2

もっとも、今後は人口減少により内需が縮小することを考慮した場合、日本企業の多くは国内事業よりも海外事業を拡大させていくと考えられるため、外貨需要が高まり、日本の経常黒字は減少し、徐々に円買い圧力は弱まっていくと予想される。

したがって為替リスクを許容できる投資家の方であれば、今のうちから国際分散投資を実行することには一定の経済的合理性があると言えるのではないだろうか?

2 経済危機などで世界的に景気が悪くなると、必ずこんなことを言う人がいる。「円がものすごい勢いで買われている、その理由はリスクの逃避先として日本が安全性が高いと判断されているからだ」と。また、こんなことを言う人もいる。「なんでアメリカやヨーロッパで起こった経済危機が日本の経済まで波及するのか、日本には関係ないじゃないか」と。でも上記フローを理解された方はなぜ円高になるのかがお分かりいただけたと思う。日本の国債の格付けを見てみれば日本円が決してリスクの逃避先として買われているわけではないことは明らかだろう。

3 為替リスクを回避するためには、為替先物で円のヘッジ買いを行うのが手っ取り早い。これは日本からの投資を考えた場合、円建て商品を作るのと同じ仕組みとなる。A社とB社の株式を例に考えると、「A社:5,000USDの買いポジション」、「B社:5,000USDの売りポジション」、合計1USDのポジションを保有していたと仮定する。この時、1万米ドルの為替先物を同時にショート(売りポジションを持つ)し、日本円をロングする(買いポジションを持つ)ことによって為替変動によるβリスクを完全に排除することができる。この場合、ポジション設計は以下のようになる。

「①A 5,000USD買い(ロング)」+「②B  5,000USD売り(ショート)」+「③USD/JPY 10,000USD/JPY売り(ショート)」

意味が分からない方のために補足しておくと、「A社+B社のポジション合計x」は10,000USD/JPYの買いポジションを保有しているのと同じ状態なので、為替リスクをカバーするためには10,000USD/JPYの売りポジションを取る必要があるということ。これによって為替変動によるβ値リスクをニュートラル化(相殺)することができるわけだ。B社の株式をショートする時に必要な5,000USDは、日本から投資する場合、通貨としては5,000USD/JPYの買いポジションと同じ意味になるのでくれぐれも混乱しないように。円建ての商品を購入されるときは、誰も意識していないかもしれないが、実はマーケットニュートラルの考え方を組み込んだ商品をすでに保有していることになる。外貨建て商品に比べて円建て商品を選択すると利回りが落ちるのは、こういった中間処理の手間と手数料がかかる仕組みだということがおわかりいただけると思う。なお、(日本居住者から見て)外貨建てで取引したい場合は、上記③の円買いドル売り(USD/JPY)のポジションは不要となる。ここで注意しなければならない点はFXを使う場合、使い勝手が良い一方で、スワップ金利の問題が生じることだろう。日本は政策金利が低すぎるため、スワップ金利の影響をもろに受けてしまうことになるわけだから。はぁー、困ったもんだ。


国際分散投資⑤~リバランスとモニタリング~
へ続く


*****

(参考:カン・チュンド
 忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)
参考:佐々木融「弱い日本の強い円」日本経済新聞出版社、2011年) 

国際分散投資③~複利効果と時間的分散効果~


ここまで、リスクを最小化する方法として、「分散」・「積立」・「インデックス」を使った運用方法をご紹介してきたが、こうした運用方法を採用する最大の魅力は、何といっても「時間を味方にできること」にある。

リスクを極力抑えながら運用し、少しずつ資産を殖やしていくためには、「時間」は非常に有効な要素のひとつと成り得る。「複利」という言葉はすでに多くの方がご存知の通り、「
利息が利息を生む」という考え方のことだ。

資産運用は「正の複利効果」を生み出すことが期待できるため、「時間」+「金利」を味方にできる点が大きなメリットとなる。

これとは反対に、「負の複利効果」を生み出す借金は「時間」+「金利」を敵に回すことになってしまう(※資産運用が必ずしも「正の複利効果」を生み出すわけではないので注意のこと)。

*****

【複利効果と時間的分散】

資産運用の方針を考えるに当たり、「時間」という概念は良くも悪くもポートフォリオに多大な影響を及ぼすことになる。なぜなら、年々積み上がっていく運用成績は、時間の経過とともに平均収益率に近づき、収益率が発生する範囲は時間の影響に大きく左右されることになるからだ。

運用期間が長ければ長いほど、保有しているポートフォリオ全体の収益率は平均収益率に近づいていくため、収益率の変動幅が時間の経過とともに安定して行くことになる。さらには、投資家はポートフォリオのリバランス(組み換え作業)を定期的に実施することにより、銘柄の組み合わせを
最適な状態に持って行くことが可能となる。

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もし仮に、運用期間があまりにも短すぎた場合、非常にギャンブル性の高い運用方法となってしまう。
その理由は、運用年数があまりにも短すぎると良くも悪くも偶然の発生確率が上がってしまい、統計的優位性を享受することができなくなってしまうからだ。

その一方、十分な運用期間さえ確保することができれば、突然の暴落などに見舞われても、大きな不安を感じることなく運用を継続することが可能になるというわけだ。

*****

【積立てによる複利効果】

例として、元本ゼロで毎月
10,000円ずつ積み立てを行った場合、期間・利回り別の残高は以下のとおりとなる。

利回り期間
5年10年15年20年30年
元本(利回りゼロ)600,0001,200,0001,800,0002,400,0003,600,000
3%647,0001,397,0002,267,0003,276,0005,801,000
5%680,0001,549,0002,659,0004,074,0008,186,000

上図の「元本(利回りゼロ))」の数値は積み立てた元本額を示し、3%5%の利回りで運用した場合の期待収益率を示している。投資期間が長くなればなるほど、複利効果により、時間の経過とともに、資産が加速度的に増加していくことがおわかりいただけると思う。

なお、上図では
1年や2年といった短期間の利回りを掲載していないが、①「短期では複利効果の恩恵をほとんど享受できないため、資産の増加が期待できないこと」、②「どのような投資対象も短期的には価格変動リスクが大きく、期待収益率が安定しないこと」がその理由として挙げられる。

資産運用が全くの初心者の方であれば、年次リターンとしては年率
3%程度、多くても5%程度を目標にするのが理想的といえる。7%10%など、あまりにも高すぎる目標リターンを設定してしまうと、それだけリスクも高まり、変動幅(ボラティリティリスク)が大きくなりすぎてしまうためだ(※金融機関のトレーダーのパフォーマンスは、一般的に年利12%程度が契約更新の最低の目安とされている)。

こうして考えてみれば、年利
10%20%のリターン設定など、もはや論外だということがおわかりいただけると思う。著名な個人投資家であるウォーレン・バフェット氏でさえも年利22%程度なのだ。しかし、そのリターンを何十年も継続できているからこそ、彼は天才と呼ばれ、称賛されているのだから。逆に言えば、年利20%程度で運用し続ける投資家がたくさんいれば彼は凡人ということになり、これだけ称賛されることはなかったに違いない。それだけ、長期間に渡って利益を出し続けて行くというのは本当に難しいことなのだ。

投資を長く継続し、少しずつ超過リターンを確保していくためには、リスクを極力抑える運用方針を採用すべきだと考える。すでに述べたとおり、リターンの源泉がリスク(変動)である以上、高すぎる目標リターンを設定してしまうと、リスクも同様に上がってしまうからだ。

また、これとは逆に、
10年や20年と長期にわたって運用を継続することができれば、暴落などの急激な相場変動に見舞われたとしても、一定のリターンの確保が期待できるようになる。その理由は、資産を値動きが異なる複数の商品に分散して保有することにより、平均収益率が安定し、期待収益率に近づいていくためである[※1]。

図2

[※
1] 過去の暴落相場を検証してみると、ポートフォリオ全体は一時的に最大で「40%もの損失を被ることがわかっている。しかし、たとえば含み損が20%発生した場合、年利5%の配当益を確保していけば、この損失は4年で取り戻すことが可能となる。皆さんも投資信託のパンフレットに右肩上がりのグラフが掲載されているのを見たことがあるかもしれない。このグラフが右肩上がりになる理由は、配当益を再投資して積み上げていくため、ほとんどのパンフレットは右肩上がりになってしまうのだ。これは長期投資の複利効果が表れていることを示す一方で、アクティブファンドの運用成績が実はあまり大したことがないことを私たちに教えてくれる(これは完全なるデータのトリックである)。

*****

【残された時間はあと何年?】

ここでは、正の複利効果の例として「
毎月少額でも積立投資を行った場合」と「元本を貯金してから一括で投資した場合」を比較して検証してみたい。

グラフ1

上記は「元本ゼロで毎月
5万円ずつ年利5%25年間積み立て投資を行った場合」をグラフで示したものだ。時間の経過とともに複利効果が表れ、右肩上がりで運用額が積み上がっていく様子がお分かりいただけると思う。

これに対し、以下は「元本
1,000万円を貯金してから一括運用を開始した場合」をグラフで示したものだ。最大の致命点は1,000万円を貯めるまでに168ヶ月もかかってしまうため、複利効果の恩恵を十分に享受できず、元本をコツコツと積み立てて行った場合に比べて、資産の増加スピードが後半になってようやく加速し始めていく様子がお分かりいただけると思う。

るで「ウサギとカメ」の童話そのものだが、残念ながらウサギは複利の恩恵を受けるカメには絶対に敵わないのだ。

グラフ2

このように、積立投資は非常にシンプルな投資方法であるものの、毎月少額でも継続して投資し続けることのほうが、複利効果により一括で投資するよりも資産の増加スピードが加速していくことがおわかりいただけるかと思う。

たとえば、
65歳以後の老後のための資金を確保するためには、30歳の方であれば35年間、40歳の方であれば25年間もの時間的余裕があることになる。ゆえに、若ければ若いほど「時間」を味方にできるために、「資産運用は少しでも早いうちに始めた方が有利」となる。

その一方、
65歳での引退後の生活資金確保を運用の最終目標にした場合、50歳の方は15年間、60歳の方なら5年しか時間が残っていないため、時間的分散効果を享受できない点はデメリットでもある。

もっとも、
50代、60代の方々の中には、すでにある程度の金融資産をお持ちの方も多いと思うので、資産形成期とは異なり、資産を減らさない、守るという発想に切り替えて行く必要があるといえる。

このように、若年者向けの運用方法に対し、年齢が上がるにつれ、まとまった資産をお持ちの方も多くなっていることと思うが、こうした場合は、初期の元本を数回に分割しながら組み込んで行き、さらには複利の効果を活用することにより、インフレリスクを回避していく方法が有効となるだろう(※まとめて一括で元本を組み込むよりも、
3ヶ月に1度、6ヶ月に1度追加することで時間的分散効果が期待できるだろう)。

※資産運用には元本及び利息の保証がないため、必ずしも「正」の複利効果が得られるとは限らない。したがって、
2,3年といった短期の評価額は元本割れする可能性がある旨ご注意いただきたい。

*****

【コラム②:分配型ファンドは買ってはいけない】

一般的に、「元本再投資型」と呼ばれる投資信託は運用によって得た収益を元本に組み入れるため、複利効果により資産が雪だるま方式に膨らんでいく。

これに対して、分配金を毎月支払っている「毎月分配型投資信託」は運用によって得た収益から分配金の支払いを行うため、元本に組み込まれる金額が少なくなってしまう。

分配型ファンドは原則として毎月分配金の支払いを行い、基準価額を削って分配原資に充てる(「収益」でなく「元本」を分配する)ため、収益を上げられなかった場合には、元本を取り崩して分配金を支払うこともあり得る。

ここで、投資信託を活用して資産運用を開始するに当たり、最も注意しなくてはならないのが「分配金」の概念だ。

分配金という言葉のニュアンスは、どこか「元本」を運用したことによって獲得した「果実」を受け取っているかのように思ってしまいがちだが、証券用語で用いられる場合の「分配金」という言葉に関してはそのような意味は全くないので注意してほしい。

分配金は投資信託の「純資産」から支払われるため、ある期間の支払額よりも収益額が少なければ、その差額分だけ基準価格が下がる仕組みになっている(※預貯金の利子とは源泉が異なる点に注意)。

このように証券用語では、収益分配部分を「普通分配金」、元本取り崩し部分を「特別分配金」と、どちらにも分配金という名称を使うため、両者とも収益部分を源泉とした払い戻しと誤解してしまいがちだ。毎月分配型に魅力を感じて購入したものの、実際は投資家自身が支払った元本の取り崩しに過ぎないケースもあるため、分配型ファンドに投資するメリットは全くないと言っていいだろう。

こうした商品は特に引退世代の方が毎月の配当を年金とみなして購入するケースが多く見受けられるが、高い売買代金と信託手数料を取られた上、自分の元本を取り崩して配当にまわしているような商品を買うくらいであれば、普通預金を取り崩したほうがまだましである。

すでに説明した通り、投資の本質は、「なるべく長期間にわたって元本を取り崩さずに運用を継続し、複利の効果を享受することで、最終的に目標とするリターンを得ることである」といえる。

したがって、資産運用を開始される際には再投資型の信託を選択されることを強くおすすめしたい。

国際分散投資④~アセットアロケーション~
へ続く

*****

(参考:カン・チュンド
 忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)

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