人類は歴史上、同じような過ちを何度も繰り返してきた。

投資の世界でも同様に、これまでに何度となくバブルや暴落を繰り返してきていることは周知のとおりだろう。実際に大暴落が起こるたびに、マーケットから退場していく投資家があとを立たない。

資産運用においてもっとも重要なことは、「
市場の誘惑に惑わされず、機械的に運用を継続する」ことにある。市場の誘惑に惑わされないためには、まず、運用の基本方針と目標を決めることである。

そのためには、「
どれくらいの期間で、最終的にどれくらいの資産を確保したいのか」を明確に設定しておく必要があるだろう。

アセットアロケーションの検討項目・現在の年齢
・運用の目的(何のために運用するのか)
・運用期間(いつまで運用するのか)
・リスク許容度(どの程度のリスクが取れるのか)

ここでは、運用成績に最も影響を与えるアセットアロケーションについて説明して行きたい。

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【アセットアロケーション】

資産運用の結果を決める要因は主に以下の
3点に集約される。

1.銘柄選択どの商品を買うのか
2.投資タイミングいつ買うのか
3.アセットアロケーション資産をどのように配分するのか

米国バンガード社が2003年に発表した「5年以上の運用実績を持つ420本のアクティブ運用バランス型ファンドを1962年~2001年(40年)の過去データをもとに分析した研究」によれば、「アセットアロケーションの違いが月次リターンの77%の差異を決める」という大変興味深い調査結果が出ている。

つまり、この調査結果によれば、ポートフォリオが投資リターンに与える影響は非常に大きく、リターンの実に
80%はポートフォリオの内容で説明できるとしている[1]。

なお、多くの方が重視する投資タイミングはわずかに
8%程度、ポートフォリオをどのような個別銘柄で実現するかの銘柄選択はわずか6%程度しか投資リターンに影響を与えないことがわかっている。

投資リターンに及ぼす影響力
ポートフォリオの内容月次リターンの約77%
投資タイミング月次リターンの約8%
銘柄選択月次リターンの約6%

多くの投資家の方を見ていると、「どの商品を買うのか」「安く買える投資タイミングはいつか」に多くの時間を費やしているが、結果の出る運用を最優先に考えるのであれば、これからはアセットアロケーションに多くの時間を費やしたほうが合理的であると言えるのではなかろうか?

アセットアロケーションが「リターンへの影響度」を高めるためには、多くの銘柄に幅広く分散投資が行われていることが前提条件となる。つまり、少数の銘柄に集中投資を行った場合は、事業継続リスクが高まり、企業の倒産確率が上昇するなど、「銘柄選択の影響度」が高くなると考えられる。したがって、集中投資には上記の理論は適用されない。


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【資産配分を考える】

現在では、株式、債券、商品等、それぞれのアセットクラスに対応するインデックスファンドが存在しているため、それらを組み合わせることによって、誰でも簡単に運用を開始することができるようになった。

国際分散投資③

すでに、リスクとは投資の世界では「変動」を意味することは説明したが、それぞれの性質に合わせ、資産を地域や商品、時期を分散することにより、リスクを低減させる効果が期待できることになる。

さらに、値動きが異なる商品同士を組み合わせることにより、全体としての運用の安定性を確保することが可能となるわけだ。

もちろん、しっかりとアセットアロケーションを実行したとしても、短期間では価格は大きく上下に変動してしまうことは覚えておいてほしい。

確率統計上、どのような投資方法であれ運用開始直後の数年間はブレ幅が非常に大きく、利益や損失が予想以上に拡大してしまうこともあるだろう(「複利効果と時間的分散効果」の説明を思い出してほしい)。

図2

しかし、長期で継続していくことにより、年次リターンのブレ幅は次第に小さくなり、やがて平均収益率へ近づいていくため、資産運用は最低でも
10年は続けて行かなければ全く意味がない。その理由は統計的優位性を享受することができないためだ。

この先マーケットは上がるかもしれないし、下がるかもしれない。私たちに唯一わかることは、「
マーケットは常に変動する」ということだ。どのような商品であれ、上がったものはやがて下がり、下がったものはやがて上がる。

したがって、いつまでも暴落が続くことはなく、暴落の翌年には大きく上昇する傾向が高いということだ。長期で継続していけば年次リターンのバラツキは小さくなっていき、やがて平均収益率に近づいていくことになる。

このブログを読んでいる個人投資家の皆さんは、「長期」・「分散」・「積立」の
3点を軸として投資を継続的に実行し、定期的に保有比率を機械的に再調整(リバランス)することにより、「複利効果」と「時間的分散効果」を最大限に享受しながら、ご自身の資産を市場変動リスクから切り離すことが可能となる。

そのため少しでも長く、できるだけ長く投資を続けてほしい。

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【資産配分の例】

一般的に、ポートフォリオの構成比率の基本は、世界各国の国内総生産(
GDP)構成比率に準拠させることで各国の経済動向に連動させることができるため、こうした資産配分が理想的であると言われている。

また、インデックスを活用することはマクロレベルでポートフォリオを管理するのと同義なので、現在のマーケットで注目されている固有の銘柄などの影響を受けることがなくなること、さらには、分散比率を定期的に調整することにより、世界経済の成長によるリターンを享受できるようになると考えられる。

アセットアロケーションは特にこれが正解というものは存在しないが、一般的には「国・地域の分散」・「アセットクラスの分散」の
2点がバランス良く分散されていることが望ましいとされている。

なお、近年ではインデックスファンドだけではなく、
ETF(上場型投資信託)も普及したことにより、世界中の不動産を間接的に保有することも可能となったため、投資家の好みに合わせて組み込んでみるのも面白いかもしれない(※私は面倒くさいので株式と債券以外はやっていない)。

アセットアロケーション1

上記は大雑把な一例だが、すでに述べたように結果の出る運用を考えるのであれば、これからは細かな企業分析などよりもアセットアロケーションに多くの時間を割いていただくことをおすすめしたい。

アセットアロケーションは運用成績の実に
80%に影響を及ぼす非常に重要な作業となるため、ご自身での作業が難しいという方はバランス型ファンドの購入も検討されてみてはいかがだろうか?

バランス型ファンドはインデックスファンドや
ETFに比べ手数料は若干割高となるものの、現在ではほとんどがコンピューターの自動売買プログラムによって定期的に配分比率を自動調整してくれるため、ほとんど手間がかからずに投資を行うことが可能となっている(市場連動型の商品はほとんどが機械による自動売買を行っているため、信託手数料が非常に安く設定されている)。

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【コラム③:日本から投資する場合の為替リスクについて】

日本から海外投資を行う場合、日本の投資家は非常に不利な立場にあると考えられる。
その理由は日本という国は為替リスクが極めて特殊な環境に置かれている国だからだ。

国際分散投資⑥

現在、日本国内で流通している「日本円(
JPY)」という通貨は、ひとたび不景気や国際的な経済危機が起こると円高方向に振れるパターンが多く、それが国際分散投資によるリスク分散効果を相殺してしまうことになりかねない。

主なポイントは以下の
2点に集約できる。

1.
日本が経常黒字国(貿易黒字国)であること

ひとつは、日本が経常黒字国(貿易黒字国)であるために、企業は海外で獲得した外貨をそのまま海外投資に回さない限り、円転(円の買戻し)による経常的な円買い圧力に晒されることになる。

世界的に景気が良ければ日本の企業が稼いだ外貨はそのまま海外での取引や投資に使われるため、円買い圧力は弱まり、結果として円安になる。

しかし、経済危機などで世界的に景気が悪くなると、海外での取引や投資が減少し、資金を回収して円転を進めるために、円買い圧力が高まり、結果として円高になる
[2]

世界的な好景気 → 海外取引増加 → 海外で獲得した外貨をそのまま海外へ投資

→ 円安

世界的な不景気 → 海外取引減少 → 海外で獲得した外貨を回収して国内へ還流 

→ 円高

さらには、こうした現象は日本国外だけでなく、先の東日本大震災など日本国内で危機が起こったときにも生じる。

日本国内で危機が起こった場合、日本の企業はリスク回避のために海外投資を減らし、日本国内に戻すため、経常黒字から生じる円買い圧力が強まることになる。日本の投資家も国内での損失をカバーするために海外に投資した資金の回収を進めるため、やはり円が買われ、結果として円高になる。

国内での危機 → リスク回避のため海外投資を減らす → 資金を回収して国内へ還流 

→ 円高


2.
日本が世界最大の対外純債権国であること

もうひとつは、日本が対外純債権国であるため、世界中の国が円を調達し、それを売ってドルなどに交換して経済活動を行っているということだ。

ゆえに、世界的に景気が良いときには円売り圧力が高まることになるが、世界的な経済危機が起こってしまうと、この資金の動きが巻き戻されるために円買い圧力が高まることになり、結果として円高になる。

世界的な好景気 → 世界中の国が円を調達 → ドルなどに交換 → 海外で使う

→ 円安

世界的な不景気 → 調達した円を戻すため、資金をドルなどから円に交換

→ 円高

このとき、リスク回避のために円を買うのは日本の企業や投資家だ。

投資家や企業が避けたいのはあくまでも「為替リスク」であるため、為替先物で円のヘッジ買いをすることになる(実際に海外資産を売却することはない)。このように、実際の資本移転は行われなくとも、リスク回避のための円買いは発生することになる
[3]

上記のような国際的な資本フローの原則を理解すると、日本円を使って国際分散投資を行う際の最大の敵は為替リスクだということがよくおわかりいただけると思う。

日本から海外へ投資をする場合、世界的な不景気や経済危機が発生してしまうと、「
投資対象の価値の下落」とともに円高による「通貨価値の相対的下落」もダブルパンチで損失を喰らってしまうことになりかねない(つまり、資産防衛のために投資という名目で海外に資産を逃避させても、結果として資産価値が大幅に目減りしてしまうという皮肉な結果になる可能性もあるということ)。

本来は、「アメリカドル(
USD)」を基準に投資を行うことが望ましいと言えるが、日本から投資をする場合は、ある程度の「日本円(JPY)」もキャッシュポジションとしてアセットクラスに組み込まれることを強くおすすめしたい。その理由は、世界的な景気後退局面では強力なヘッジ効果が期待できる商品だからだ。

アセットアロケーション2

もっとも、今後は人口減少により内需が縮小することを考慮した場合、日本企業の多くは国内事業よりも海外事業を拡大させていくと考えられるため、外貨需要が高まり、日本の経常黒字は減少し、徐々に円買い圧力は弱まっていくと予想される。

したがって為替リスクを許容できる投資家の方であれば、今のうちから国際分散投資を実行することには一定の経済的合理性があると言えるのではないだろうか?

2 経済危機などで世界的に景気が悪くなると、必ずこんなことを言う人がいる。「円がものすごい勢いで買われている、その理由はリスクの逃避先として日本が安全性が高いと判断されているからだ」と。また、こんなことを言う人もいる。「なんでアメリカやヨーロッパで起こった経済危機が日本の経済まで波及するのか、日本には関係ないじゃないか」と。でも上記フローを理解された方はなぜ円高になるのかがお分かりいただけたと思う。日本の国債の格付けを見てみれば日本円が決してリスクの逃避先として買われているわけではないことは明らかだろう。

3 為替リスクを回避するためには、為替先物で円のヘッジ買いを行うのが手っ取り早い。これは日本からの投資を考えた場合、円建て商品を作るのと同じ仕組みとなる。A社とB社の株式を例に考えると、「A社:5,000USDの買いポジション」、「B社:5,000USDの売りポジション」、合計1USDのポジションを保有していたと仮定する。この時、1万米ドルの為替先物を同時にショート(売りポジションを持つ)し、日本円をロングする(買いポジションを持つ)ことによって為替変動によるβリスクを完全に排除することができる。この場合、ポジション設計は以下のようになる。

「①A 5,000USD買い(ロング)」+「②B  5,000USD売り(ショート)」+「③USD/JPY 10,000USD/JPY売り(ショート)」

意味が分からない方のために補足しておくと、「A社+B社のポジション合計x」は10,000USD/JPYの買いポジションを保有しているのと同じ状態なので、為替リスクをカバーするためには10,000USD/JPYの売りポジションを取る必要があるということ。これによって為替変動によるβ値リスクをニュートラル化(相殺)することができるわけだ。B社の株式をショートする時に必要な5,000USDは、日本から投資する場合、通貨としては5,000USD/JPYの買いポジションと同じ意味になるのでくれぐれも混乱しないように。円建ての商品を購入されるときは、誰も意識していないかもしれないが、実はマーケットニュートラルの考え方を組み込んだ商品をすでに保有していることになる。外貨建て商品に比べて円建て商品を選択すると利回りが落ちるのは、こういった中間処理の手間と手数料がかかる仕組みだということがおわかりいただけると思う。なお、(日本居住者から見て)外貨建てで取引したい場合は、上記③の円買いドル売り(USD/JPY)のポジションは不要となる。ここで注意しなければならない点はFXを使う場合、使い勝手が良い一方で、スワップ金利の問題が生じることだろう。日本は政策金利が低すぎるため、スワップ金利の影響をもろに受けてしまうことになるわけだから。はぁー、困ったもんだ。


国際分散投資⑤~リバランスとモニタリング~
へ続く


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(参考:カン・チュンド
 忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)
参考:佐々木融「弱い日本の強い円」日本経済新聞出版社、2011年)