ここまで、リスクを最小化する方法として、「分散」・「積立」・「インデックス」を使った運用方法をご紹介してきたが、こうした運用方法を採用する最大の魅力は、何といっても「時間を味方にできること」にある。

リスクを極力抑えながら運用し、少しずつ資産を殖やしていくためには、「時間」は非常に有効な要素のひとつと成り得る。「複利」という言葉はすでに多くの方がご存知の通り、「
利息が利息を生む」という考え方のことだ。

資産運用は「正の複利効果」を生み出すことが期待できるため、「時間」+「金利」を味方にできる点が大きなメリットとなる。

これとは反対に、「負の複利効果」を生み出す借金は「時間」+「金利」を敵に回すことになってしまう(※資産運用が必ずしも「正の複利効果」を生み出すわけではないので注意のこと)。

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【複利効果と時間的分散】

資産運用の方針を考えるに当たり、「時間」という概念は良くも悪くもポートフォリオに多大な影響を及ぼすことになる。なぜなら、年々積み上がっていく運用成績は、時間の経過とともに平均収益率に近づき、収益率が発生する範囲は時間の影響に大きく左右されることになるからだ。

運用期間が長ければ長いほど、保有しているポートフォリオ全体の収益率は平均収益率に近づいていくため、収益率の変動幅が時間の経過とともに安定して行くことになる。さらには、投資家はポートフォリオのリバランス(組み換え作業)を定期的に実施することにより、銘柄の組み合わせを
最適な状態に持って行くことが可能となる。

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もし仮に、運用期間があまりにも短すぎた場合、非常にギャンブル性の高い運用方法となってしまう。
その理由は、運用年数があまりにも短すぎると良くも悪くも偶然の発生確率が上がってしまい、統計的優位性を享受することができなくなってしまうからだ。

その一方、十分な運用期間さえ確保することができれば、突然の暴落などに見舞われても、大きな不安を感じることなく運用を継続することが可能になるというわけだ。

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【積立てによる複利効果】

例として、元本ゼロで毎月
10,000円ずつ積み立てを行った場合、期間・利回り別の残高は以下のとおりとなる。

利回り期間
5年10年15年20年30年
元本(利回りゼロ)600,0001,200,0001,800,0002,400,0003,600,000
3%647,0001,397,0002,267,0003,276,0005,801,000
5%680,0001,549,0002,659,0004,074,0008,186,000

上図の「元本(利回りゼロ))」の数値は積み立てた元本額を示し、3%5%の利回りで運用した場合の期待収益率を示している。投資期間が長くなればなるほど、複利効果により、時間の経過とともに、資産が加速度的に増加していくことがおわかりいただけると思う。

なお、上図では
1年や2年といった短期間の利回りを掲載していないが、①「短期では複利効果の恩恵をほとんど享受できないため、資産の増加が期待できないこと」、②「どのような投資対象も短期的には価格変動リスクが大きく、期待収益率が安定しないこと」がその理由として挙げられる。

資産運用が全くの初心者の方であれば、年次リターンとしては年率
3%程度、多くても5%程度を目標にするのが理想的といえる。7%10%など、あまりにも高すぎる目標リターンを設定してしまうと、それだけリスクも高まり、変動幅(ボラティリティリスク)が大きくなりすぎてしまうためだ(※金融機関のトレーダーのパフォーマンスは、一般的に年利12%程度が契約更新の最低の目安とされている)。

こうして考えてみれば、年利
10%20%のリターン設定など、もはや論外だということがおわかりいただけると思う。著名な個人投資家であるウォーレン・バフェット氏でさえも年利22%程度なのだ。しかし、そのリターンを何十年も継続できているからこそ、彼は天才と呼ばれ、称賛されているのだから。逆に言えば、年利20%程度で運用し続ける投資家がたくさんいれば彼は凡人ということになり、これだけ称賛されることはなかったに違いない。それだけ、長期間に渡って利益を出し続けて行くというのは本当に難しいことなのだ。

投資を長く継続し、少しずつ超過リターンを確保していくためには、リスクを極力抑える運用方針を採用すべきだと考える。すでに述べたとおり、リターンの源泉がリスク(変動)である以上、高すぎる目標リターンを設定してしまうと、リスクも同様に上がってしまうからだ。

また、これとは逆に、
10年や20年と長期にわたって運用を継続することができれば、暴落などの急激な相場変動に見舞われたとしても、一定のリターンの確保が期待できるようになる。その理由は、資産を値動きが異なる複数の商品に分散して保有することにより、平均収益率が安定し、期待収益率に近づいていくためである[※1]。

図2

[※
1] 過去の暴落相場を検証してみると、ポートフォリオ全体は一時的に最大で「40%もの損失を被ることがわかっている。しかし、たとえば含み損が20%発生した場合、年利5%の配当益を確保していけば、この損失は4年で取り戻すことが可能となる。皆さんも投資信託のパンフレットに右肩上がりのグラフが掲載されているのを見たことがあるかもしれない。このグラフが右肩上がりになる理由は、配当益を再投資して積み上げていくため、ほとんどのパンフレットは右肩上がりになってしまうのだ。これは長期投資の複利効果が表れていることを示す一方で、アクティブファンドの運用成績が実はあまり大したことがないことを私たちに教えてくれる(これは完全なるデータのトリックである)。

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【残された時間はあと何年?】

ここでは、正の複利効果の例として「
毎月少額でも積立投資を行った場合」と「元本を貯金してから一括で投資した場合」を比較して検証してみたい。

グラフ1

上記は「元本ゼロで毎月
5万円ずつ年利5%25年間積み立て投資を行った場合」をグラフで示したものだ。時間の経過とともに複利効果が表れ、右肩上がりで運用額が積み上がっていく様子がお分かりいただけると思う。

これに対し、以下は「元本
1,000万円を貯金してから一括運用を開始した場合」をグラフで示したものだ。最大の致命点は1,000万円を貯めるまでに168ヶ月もかかってしまうため、複利効果の恩恵を十分に享受できず、元本をコツコツと積み立てて行った場合に比べて、資産の増加スピードが後半になってようやく加速し始めていく様子がお分かりいただけると思う。

るで「ウサギとカメ」の童話そのものだが、残念ながらウサギは複利の恩恵を受けるカメには絶対に敵わないのだ。

グラフ2

このように、積立投資は非常にシンプルな投資方法であるものの、毎月少額でも継続して投資し続けることのほうが、複利効果により一括で投資するよりも資産の増加スピードが加速していくことがおわかりいただけるかと思う。

たとえば、
65歳以後の老後のための資金を確保するためには、30歳の方であれば35年間、40歳の方であれば25年間もの時間的余裕があることになる。ゆえに、若ければ若いほど「時間」を味方にできるために、「資産運用は少しでも早いうちに始めた方が有利」となる。

その一方、
65歳での引退後の生活資金確保を運用の最終目標にした場合、50歳の方は15年間、60歳の方なら5年しか時間が残っていないため、時間的分散効果を享受できない点はデメリットでもある。

もっとも、
50代、60代の方々の中には、すでにある程度の金融資産をお持ちの方も多いと思うので、資産形成期とは異なり、資産を減らさない、守るという発想に切り替えて行く必要があるといえる。

このように、若年者向けの運用方法に対し、年齢が上がるにつれ、まとまった資産をお持ちの方も多くなっていることと思うが、こうした場合は、初期の元本を数回に分割しながら組み込んで行き、さらには複利の効果を活用することにより、インフレリスクを回避していく方法が有効となるだろう(※まとめて一括で元本を組み込むよりも、
3ヶ月に1度、6ヶ月に1度追加することで時間的分散効果が期待できるだろう)。

※資産運用には元本及び利息の保証がないため、必ずしも「正」の複利効果が得られるとは限らない。したがって、
2,3年といった短期の評価額は元本割れする可能性がある旨ご注意いただきたい。

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【コラム②:分配型ファンドは買ってはいけない】

一般的に、「元本再投資型」と呼ばれる投資信託は運用によって得た収益を元本に組み入れるため、複利効果により資産が雪だるま方式に膨らんでいく。

これに対して、分配金を毎月支払っている「毎月分配型投資信託」は運用によって得た収益から分配金の支払いを行うため、元本に組み込まれる金額が少なくなってしまう。

分配型ファンドは原則として毎月分配金の支払いを行い、基準価額を削って分配原資に充てる(「収益」でなく「元本」を分配する)ため、収益を上げられなかった場合には、元本を取り崩して分配金を支払うこともあり得る。

ここで、投資信託を活用して資産運用を開始するに当たり、最も注意しなくてはならないのが「分配金」の概念だ。

分配金という言葉のニュアンスは、どこか「元本」を運用したことによって獲得した「果実」を受け取っているかのように思ってしまいがちだが、証券用語で用いられる場合の「分配金」という言葉に関してはそのような意味は全くないので注意してほしい。

分配金は投資信託の「純資産」から支払われるため、ある期間の支払額よりも収益額が少なければ、その差額分だけ基準価格が下がる仕組みになっている(※預貯金の利子とは源泉が異なる点に注意)。

このように証券用語では、収益分配部分を「普通分配金」、元本取り崩し部分を「特別分配金」と、どちらにも分配金という名称を使うため、両者とも収益部分を源泉とした払い戻しと誤解してしまいがちだ。毎月分配型に魅力を感じて購入したものの、実際は投資家自身が支払った元本の取り崩しに過ぎないケースもあるため、分配型ファンドに投資するメリットは全くないと言っていいだろう。

こうした商品は特に引退世代の方が毎月の配当を年金とみなして購入するケースが多く見受けられるが、高い売買代金と信託手数料を取られた上、自分の元本を取り崩して配当にまわしているような商品を買うくらいであれば、普通預金を取り崩したほうがまだましである。

すでに説明した通り、投資の本質は、「なるべく長期間にわたって元本を取り崩さずに運用を継続し、複利の効果を享受することで、最終的に目標とするリターンを得ることである」といえる。

したがって、資産運用を開始される際には再投資型の信託を選択されることを強くおすすめしたい。

国際分散投資④~アセットアロケーション~
へ続く

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(参考:カン・チュンド
 忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)