グローバル社会はヒト・モノ・カネ・情報が国境を越え、ボーダレスに移動する時代。

世界はひと昔前に比べればだいぶ身近なものになったし、
ITインフラが発達したおかげで、私たちの生活の多くは物理的な制約から解放され、国境を越えて地球上を自由に動き回ることができるようになった。

金融の世界でも同様に、海外に資産を持つ日本人の数は、ひと昔前に比べて増加傾向にあるという。その理由としては、お金が国境を越えて瞬時に移動するボーダレス経済のなかでは、自国のみで資産を運用するよりも、経済成長が見込める他国への投資を組み合わせたほうが、より多くの利益を得ることが期待できるからだろう。これは期待収益率の観点からは正しい考え方だといえる。

さらには、日本という国家自体の将来に対する危機感も、昨今の海外投資を大きく後押ししているといえる。現在、日本は
1,000兆円を超える膨大な額の借金を抱えており、恒常的な財政赤字に陥っていることは、皆さんもよくご存じのとおりだろう。私の周りでも国家破綻への警戒感から「資産防衛」を目的として、「投資」という名目で海外に財産を移転している富裕層の方も少なくない...。

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【日本人よ、世界に投資しよう!】

そもそも、世界的に見れば、富裕層と呼ばれる人たちが自国以外に財産を持つことは決して珍しいことではない。
世界の富裕層の多くは、今後起こりうる経済環境の急激な悪化や自国の財政危機などを想定し、自国もしくは主要国のみの偏った資産保有を避け、分散して資産を保有する傾向にある。さらには、値動きの異なる資産をバランス良く組み合わせることで、「長期」・「安定」・「分散」を基本とした資産運用を実現させている。 

国際分散投資①

たしかに、ひと昔前までは世界中に分散投資をするためには膨大な資金が必要とされていたため、国際分散投資のイメージはどこか世界的な大富豪のみが実践できる特別な投資方法のように思われるかもしれない。

しかし、今ではわずか数千円程度の少額資金からでも複数の先進国や新興国の主要な企業の株式に分散できる商品や、国債や社債などの海外債券に分散投資できる商品も幅広く販売されており、リスクを抑えながら安定した利回りを実現できる国際分散投資が、一般の個人投資家層にまで急速に普及することになった。

日本という国の将来を考える時、国内のマーケットは少しずつ縮小し、今までのような経済成長は残念ながら望むことはできないという意見が多い。私は、―決して偉そうに言える立場ではないが―、これからは日本という国自体のポジションを経営者から投資家へと収益モデルをシフトチェンジしていく必要があると思っている。

そのためには、まずは個人投資家が積極的に海外投資を実践することにより、日本そのものを投資国家に姿形を変えていく必要があるのではないか。これによって、長期的な観点から見ても、人口減少による致命的ないくつかの問題点を海外からの配当収益によってカバーすることができるのではないだろうか?

少子高齢化

投資はしっかりとした知識を身につけることで、大きな損失を出すリスクを減らし、安定したリターンを生み出す効果が期待できる。このブログを読んでくださっている個人投資家の皆さんには、ご自身の資産を世界に分散して投資することで、世界経済の成長に貢献していただければと思う。

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【インフレヘッジとしての国際分散投資】

国際分散投資により、複数の国や地域、商品に資産を分散して保有することはインフレ対策としても非常に有効な手段となる。

インフレ率(%)資産を半減させる年数(年)
236
324
514
711

インフレは一般的に過小評価されているけれども、年率2%程度のインフレが続くと仮定した場合、購買力は36年で半減する。仮に年率3%のインフレが続けば、購買力は24年以内に半減し、次の24年でさらに半減してしまう。

年率3%のインフレが続いた場合の購買力
現在の価値24年後48年後72年後
10,000円5,000円2,500円1,250円

厚生労働省の「平成27 簡易生命表」によれば、現在の日本人の平均寿命が男性:80.79歳、女性:87.05歳とされていることからも、これは明らかに重大な問題といえる。

なぜなら、額面上の資産が増加してもインフレにより物価が上昇し、実質の資産価値そのものが目減りしてしまえば、何の意味も成さないからだ。

さらに、何のインフレ対策も講じなければ、贈与や相続の際、承継できる資産価値が大幅に目減りしてしまうことになる。
日本人の多くは預貯金が大好きなことは重々承知しているが、これからは現金だけではなく、インフレに強い資産も積極的に組み合わせていく必要があると思う。

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【資産運用を始める前に】

資産運用と聞くと、高利回りで資産を殖やすことをイメージされる方が多いかもしれない。

しかし、資産運用において大切なことは、「
資産を極力減らさないように、少しずつ安定して殖やすこと」であるといえる。

資産運用の本質高利回りで資産を殖やすこと → ×
資産を極力減らさないように、少しずつ安定して殖やすこと → 

これから資産運用を開始される方は、まずはご自分が取れるリスクの限界の範囲内を定め、目的を達成するための長期的な投資計画を立案されることをおすすめしたい。

そのためには、資産配分方針を策定し、市場の変動に左右されず、機械的に自らが決めたルールを守っていくことが重要であり、具体的にどれくらいの期間で、どれくらいの資産を確保したいのかを投資を始める前に逆算し、明確に設定しておく必要がある。

・20
代、30代の方々の資産設計

20代、30代の方々は、これから資産をじっくり形成し、殖やしていく世代となる。この世代の方々は、老後の準備資金や子どもの教育資金など、具体的な目標を立てる必要がある。最終的に目標金額に到達すればいいわけだから、日々の価格の変動や市場の誘惑に一喜一憂する必要はない。決して目先の短期的なリターンを追いかけるのではなく、10年、20年といった長期に渡る投資計画を立て、積立によって少しずつ元本を追加しながら資産運用を継続できる仕組み作りが重要となる。

・40
代、50代の方々の資産設計

40代、50代の方々の中には、すでにある程度の金融資産をお持ちの方も多いことと思う。資産規模が大きくなり、年齢が高くなるにつれ、資産形成期とは異なった資産運用を検討する必要が出てくる。すなわち、若い世代と異なり、これからは資産を減らさない、守るという発想に切り替えて行く必要がある。人生において最も高いリスクのひとつは、将来働けなくなった時にインフレの打撃を受けて、生活資金が目減りしてしまうことではないだろうか?

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【リスクとリターン】

お金のことを考えるとき、最も基本となるのはリスクとリターンの関係だ。

図1

リターンというのは「投資したとき、どのくらい儲かるかという利益」のことをいう。

その一方、リスクとは「危険性」であると誤解している方もおられるが、投資の世界ではリスクとは「変動」のことをいう(
これは投資の世界では明確に定義されている)。言い換えれば、リスクが高いというのは「変動が大きい」状態のことをいい、リスクが低いというのは「変動が小さい」状態のことをいう。

リスクが大きい(ハイリスク)変動(値動きのブレ幅)が大きい
リスクが小さい(ローリスク)変動(値動きのブレ幅)が小さい

なお、リスクとリターンには、必ず以下の関係が成り立つ。

リスクとリターンハイリスクハイリターン
ローリスクローリターン

資産運用の本質とは、「リスクをどのようにしてどこまで取るのかを予め設定し、超過リターンを狙う行為」であるといえる。

リスクを取らなければリターンは得られない。リスクを取らずしてリターンだけ得ることは不可能だ。なぜなら、リターンの源泉がリスクである以上、リスクが小さい商品からは大きなリターンの源泉が生まれるはずがないからだ(厳密にいえば無リスク裁定という行為があるが難しいのでここでは書かない)。

もっとも、リスクを取っても必ずしもリターンがあるとは限らない点には注意が必要だ。あくまでもリスクを取ることによって、高いリターンが得られる可能性が高まるということ。

しかし、残念ながら、リスクを取れば必ずリターンが得られるという保証はどこにもないことは投資の難しいところでもあるのだが
...。

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【短期集中投資から長期分散投資へ】

金融市場は投資家にとっては誘惑が多いのも事実であり、投資家の多くは、注目を浴びている銘柄を買いたくなるものだし、あるいは保有している商品が値下がりすれば売りたくなってしまうものだろう。

本来であれば、世間から注目されているような割高な銘柄は売り、注目されていない割安な銘柄を買うべきなのだが、どういうわけか多くの投資家は割高な銘柄を買い、割安な銘柄を売るといった真逆の行動を取ってしまっているのが現状のようだ—―。

資産運用においてもっとも重要なことは、「市場の誘惑に惑わされず、機械的に運用を継続する」ことにある。市場の誘惑に惑わされないためには、まず、運用の基本方針と目標を決めること。そのためには、「どれくらいの期間で、最終的にどれくらいの資産を確保したいのか」を明確に設定しておく必要があるといえる。

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【投資のプロの
80%は市場平均に勝てない

資産運用には大きく分けて、アクティブ投資とインデックス投資の
2つの運用スタイルが存在している。

アクティブ投資市場平均よりも多くの利益を獲得するために銘柄を絞って集中的に投資を行い、市場平均を上回るように運用する投資方法
インデックス投資株価指数を構成する全ての銘柄に分散して投資し、市場平均と連動するように運用させる投資方法

アクティブ投資は一時的には大きく利益が出ることもあるが、その一方で予測が外れてしまった時の失敗も大きく、ハイリスク・ハイリターンな投資方法であるといえる。実際に、機関投資家が運用するアクティブファンドの80%は市場平均(インデックス指数)を下回っており、「投資のプロでさえも継続して市場平均を上回ることは難しくなっている」のが現状だ。

さらには、長期的に市場平均を上回った運用機関を絞り込むと、その数はさらに少なくなり、しかも投資家であるあなたがそれを事前に知ることは極めて難しいといえる(※ここでいう
80%とは投資のプロの全体の数値なので、個人投資家を含むと全体では95%以上が市場平均を下回っていると考えられる)。

もちろん、その中には市場平均を上回るトップ
20%のアクティブファンドも存在することは事実だが、それだけ優秀な運用機関があるとすれば、それはすでにマスコミや週刊誌で注目され、私たちも知っているはずだ。しかし、あなたにそれがわからないとすれば、やはりインデックスファンドに投資したほうが賢明な選択であるといえるのではなかろうか?

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【運用の基本はインデックスファンドを活用すべし】

インデックス投資は市場平均に連動する商品を保有するだけの非常にシンプルな投資方法のため、大きな成功は期待できない反面、長期的にみれば安定した収益を実現することが期待できるローリスク・ローリターンな投資方法であるといえる。

IMF(国際通貨基金)が予想する世界全体の平均年間GDP成長率は3%4%程度と言われているので、インデックスファンドを保有し、世界経済の成長率の波に連動させておけば、世界の経済成長率と同様のリターンが得られることになる。

国際分散投資④

世界の経済成長率の水準を遥かに上回る運用方法の先にあるのは奪い合いのゼロサムゲームの世界に他ならない。ここには、前提として、一部の勝者のために敗者が多数存在する必要がある。

安定した資産運用、資産保全のあるべき本来の姿とは世界経済の成長率を享受するプラスサムの世界であるといえるのではないだろうか?

これから資産運用を始められる皆さんは、インデックスファンドを活用することにより、「最小限の労力(費用対効果)で平均点を取ることが可能」となるため、積極的に活用されることをおすすめしたい。

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【コラム①:金融機関のトレーダーは何に投資しているのか?】

金融機関のトレーダーをしていた頃、クライアントによく聞かれる質問があった。

それは、「
あなたたちトレーダーは可処分所得を一体何に投資しているのか?」という質問だった。

個人投資家の多くは「
金融機関のトレーダーは投資のプロだから、家に帰ってもトレードに精を出しているに違いない」と思われているかもしれない。

しかし、その答えは
NOだ。そもそも、証券取引法ではフロントランニング(金融機関のトレーダーが業務でポジションを取る前に自己資金を投資して利益を得る行為)は厳格に禁止されているため、給料を自己のトレード資金に充てることはできない(一応そういうルールになっている...)。

というよりも、法律以前に金融機関のトレーダーはそもそも家に帰ってトレードをする時間が存在しない。トレーダーという職業にはそもそも残業という概念が存在しないので、起きている時間はすべて会社の利益に貢献すべく「現金製造機」になることが要求されているのだ。それができなければ翌朝出社したら、自分のデスクはなくなっているだろう。

私が知る限り、金融機関で働くトレーダーの多くは機械的に資本を積み立てながらコツコツと地味に投資をしている。なお、ここでいう投資とは一般的に言われている「
安く買って高く売る」という行為ではない(これは投機性収益の獲得を狙うトレード行為そのものに他ならない)。

何とも皮肉な話だが、金融機関のトレーダーの多くは「銘柄分析」もせず、「値動きのチェック」もせず、「売買」もせず皆さんの想像とは全く異なる投資を実践しているのだ。

これから数回にわたって国際分散投資を例に投資の超基本的な内容を書いていくが、ここでの内容は金融市場(マーケット)に対して常に中立的(ニュートラル)な立場を採用していくこととする。「どのタイミングで買うのか?」「どのタイミングで売るのか?」「何に投資したら儲かるのか?
といった内容に関しては一切触れないので、トレードがうまくなりたい方はあまり参考にはならないかもしれない。

私はトレードが趣味の方を否定はしないし、むしろ多くの日本人が積極的に金融市場に参加することは非常に好ましいことだと思っている。だけど、トレードがうまく行かない方はトレードそのものを辞めてしまったほうがいい。また、時間の無い方は平均点だけ狙って行けば十分だ。

金融市場は常に誰にでも開かれている。それは決して機関投資家だけのものではないし、フリーターの方、派遣社員の方、主婦の方、会社員の方。たとえお金がなくても、時間がなくても、投資は実践できるということを少しでも多くの方にお伝えできればと思う。

国際分散投資②~分散・積立・インデックス】へ続く

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(参考:カン・チュンド
忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術)アスカビジネス、2009
参考:山崎元、水瀬ケンイチ「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド朝日新書2015年)
(参考:内藤忍「内藤忍の資産設計塾【第3版】あなたとお金を結び人生の目標をかなえる法」自由国民社、2015年)
参考:チャールズ・エリス「敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか」日本経済新聞社、2003年)
参考:ハワード・マークス「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」日本経済新聞出版社、2012年)