昨年の秋から、同級生エンジニアのT君と一緒に株式シミュレーションソフトのwebプログラム開発を行っている。

Twebスクレイピングでデータを高速収集するところまでできたよ」

私「取り込んだデータをサーバー上で自動計算させておいて、計算結果を瞬時に返したい」

T「ひとつだけ確認なんだけど、これ業務で使うんじゃなくて外部公開するんだっけ?」

私「そうだよ、市場参加者が増えたら出来高が増えるし流動性も上がる。いいことじゃん」

T「うーん、株価データって著作権ないのかな?」

私「株価ってファクトデータだよ。著作権なんてないだろ」

T「ファクトデータでも誰かが情報を収集して整理して公開してるわけでしょ?ボランティアでやってるわけじゃないんだからさ。そうなると、彼らの給料はどこから発生しているんだろう?いや、仮にだよ、人がわざわざ手作業でやっていないとしても、サーバーに情報を蓄積するプログラムが動いてるわけでしょ?プログラムには開発費もかかっているだろうし、これだけのプログラムを動かすには莫大なサーバー代がかかるでしょ?サーバー代は誰が払ってるんだろう?その費用はどうやって捻出しているんだろう?」


私「もういい、わかったよ
......」


この2ヶ月間、いろんな人を巻き込んで可能なかぎり調べてみた


話が長くなるので結論先行で言えば、この行為は大いに「問題有」だ。


私と同じように株価データや為替データでもいい、気象データ、視聴率のデータ、なんでもいい。
外部にファクトデータの公開を考えている方がいたら、ぜひご一読いただければと思う。


*****



まず、この問題を考える大前提として、「『著作権法』とは何か」を考える必要がある。


著作権法とは、
 

著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、著作の保護を目的とする法律
 

出典:「ASCII.jpデジタル用語辞典『著作権法』」より


のことをいう。

著作権は知的財産法に分類されており、アイデア、表現、業務上の信用等に係る知的財産を考案した創作者の権利を保護し、それを一定期間排他的・独占的に利用する権利を与えることによって、産業の発達または文化の発展に寄与することを目的とした法律である。


ただ、この権利が認められてしまうと、今度は独占禁止法に抵触するのではないかという疑問が生じる。

独占を保護し、競争者を排除する手段を採用する知的財産法と、独占を排除し競争を保護する手段を採用する独禁法は対立し、トレードオフの関係になっているではないか、と。


独占禁止法とは、

企業間の公正、自由な競争を確保することで、資本主義の市場経済の健全な発達を促進することを目的としている法律
 

出典:「ASCII.jpデジタル用語辞典『独占禁止法』」より


のことをいう。



両法は一見すると相対立する関係のように思うのだが、詳しく調べてみると、著作権法(知的財産法)による独占の保護は特定知的財産の独占の保護であって、独禁法が問題とする市場の独占の保護とは異なっていることがわかる。

さらに、知的財産法による独占の保護は、それによって知的財産の創出や利用の競争を促進する効果をもたらすとも考えられている。

なぜならば、知的財産法による知的財産に対する独占の保護がなければ、不当な模倣やただ乗りを容易に生み出し、知的財産の創出の意欲を低下させるし、知的財産を安心して利用に供する意欲をも低下させてしまうおそれがあるからだ。

この意味では、知的財産法と独禁法は、相互補完の関係にあるとする見方もできる。

近年では、このような考え方が有力とされているようだ。

では、独禁法には抵触しないという考え方を採用して、著作権の保護される範囲はどこまでを指すのだろうか?


著作権法によれば、

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

(著作権法「
2条第1項第1」)より


と定義されている。


上記の文言を文字通り解釈する限り、ファクトデータはあくまでも事実を羅列した情報の集合体にすぎないわけだから、著作物の要件には該当しないように思うのだが...
 

*****


さて、以上を踏まえつつ...

東証のホームページを閲覧したところ、以下のような説明書きがあった。


TSE

相場報道システムから直接情報を取得する場合は、東証と「情報提供・使用許諾契約」の締結が必要となります。

また、相場報道システムから直接情報の取得を行わない場合でも、取得した情報を第三者に提供する場合は同様に東証と「情報提供・使用許諾契約」の締結が必要となります。(情報ベンダー等から取得した情報を東証の許可なく第三者に提供することはできません。)

出典:「東京証券取引所ホームページ『相場報道システム-MAINS』」より


上記の文言を読む限り、株価データを配信している東京証券取引所では、無断で株価データを利用する者たちは、単にフリーライド(ただ乗り)しているにすぎないとの考え方に立っていることがわかる。

すなわち、正規の契約業者は市場開拓のための投資やさまざまな顧客サービスを提供しているが、株価データを無断で公開する者たちはそうしたコストを負担せず、フリーライドしているという主張である。


昨年末、東証の役員の方と話をする機会があったので、それとなく尋ねてみた。

私「いつもお世話になります。このたび、個人投資家向けにソフトウェアを作成しようと思うんですよ。株価データってダウンロードしても、著作権上問題はないですよね?」

役「ええ、問題ないですよ。個人投資家の皆さんも当社のホームページ
からダウンロードして使っていますからね。どんどん使ってください!」

私「
...!?

(一瞬、自分の耳を疑った。どうやら、私の聞き方が良くなかったようだ
...

私「えーと、業務で使っていたソフトの仕様書を誰でも簡単に使えるような形にして、web上に外部公開すれば、いろんな投資家の方に使ってもらえると思うんですよ」

役「個人利用なら問題ないですけど、それは恐らく規約違反に当たると思います。ちょっと営業担当者に聞いてみますね」

営「あー、それだと完全にアウトですね
...」

私「ですよね
...」

やはりダメだった
orz...


web
上に公開するためには、個別に東証と「データ配信契約」を結ばなければならないらしい。


つまり、「ファクトデータは事実を羅列したものであり、一見すれば創作性が無いように見えるが、合法的に外部に公開するためには、データの提供元にデータ配信料を支払う必要がある」ということになる。

おそらく、株価データの著作権を主張する根拠は、ファクトデータの分類に創作性が認められているということなのだろう(参考:財団法人データベースセンター「データベースの法的保護について」)。

これは、大阪証券取引所も東証と同様の立場をとっているようだ。

当社では大阪取引所市場情報をご利用いただくために、リアルタイムでの上場銘柄の四本値、売買高等の情報提供サービスを有料で行っております。

当社の相場情報システムから配信される情報及びその編集・加工情報を取得するには、当社が定める接続仕様に従い直接データ取得を行う方法(直結利用)と直結利用する情報利用者から情報を取得する方法(再直結利用)があり、どちらの場合も当社と情報利用に関する契約を締結していただく必要があります。

出典:「大阪証券取引所ホームページ『市場情報提供サービス』」より 


なお、個人投資家御用達の「Yahoo!ファイナンス」のサイトにも以下のような記載があった。

Yahoo!ファイナンスのホームページに記載されている内容の著作権は、ヤフー株式会社及び情報提供者に帰属します。当該掲載情報の転用、複製、販売等の一切を固く禁じております。

出典:
Yahoo!ファイナンス「免責事項」より


上記の文言を読む限り、「Yahoo!ファイナンス」は情報の二次提供者に該当し、一次提供者の著作権も含め、包括的に保護しているという解釈になる。そのため、上記のようなサイトからダウンロードした情報をうっかり外部に公開してしまうと、一次データ配信者(この場合は東証)からも訴えられるというリーガルリスク(訴訟リスク)が生じることになる。

株価データの二次提供者としては、QUICK、ブルームバーグ、ロイターなどが有名だ。いずれも営業担当者に連絡をとったところ、一次データ配信者の「データ配信契約」を包括した契約が必要であるとの回答があった。



さらには、日経平均株価を算出している日本経済新聞社も日経平均株価の著作権を主張しているようだ。

日経平均株価には著作権があります。

日本経済新聞社は日経平均株価(日経平均、日経225)、日経300など株価指数の著作権を保有しています。日経平均は日本経済新聞社が設定した独自のルールによって採用銘柄を選定し、指数委員会を設けるなどして管理・運営しています。

出典:日本経済新聞社ホームページ「日経平均株価の著作権」より


これは、日経平均の株価指数と同じ値動きをする金融商品(インデックスファンド)の組成を行う際に、名称や算出方法などの利用許諾が必要になるのだそうだ。


*****


さて、ここでデータを外部公開するためには、一般的にどういった方法があるのか。
また、その方法が著作権に抵触するか否かについて考えてみたい。

外部公開するためには、大きくわけて以下の3通りの方法が考えられる。



1. 取引所と配信会社からデータを直接購入して公開する

2. Yahoo!ファイナンス等の配信サイトからの株価データをユーザーのローカルにダウンロードする。つまり、「ダウンロードサポートツール」としてサービスを提供する

3.
Yahoo!ファイナンス等の配信サイトから株価データをサーバー上にダウンロードし、計算済みデータをサーバー上に蓄積させ、計算結果をユーザーに配信する。つまり、「株価データ配信ツール」としてサービスを提供する


まず、

1. 取引所と配信会社からデータを直接購入して公開する

これが正攻法に当たる。完全に自前でサービスを提供するにはこの方法しか存在しない。

→ただし、料金表を見る限り、金額的に趣味でできるレベルでないので、これは一般人にはハードルが高いと思う。

ということで、次。

2. Yahoo!ファイナンス等の配信サイトからの株価データをユーザーのローカルにダウンロードする。つまり、「ダウンロードサポートツール」としてサービスを提供する

ベクター」や「窓の杜」などで配布されているスクリーニングツールは、(有償無償問わず)この方法を使ってユーザー向けにサービスを提供している。自前のサーバーを使って計算させるのではなく、ユーザーのローカルへのダウンロードをサポートするためのツールを提供する。つまり、個人利用のサポートをしているだけだから著作権法上は全く問題ないことになる(
YouTubeやニコニコ動画のダウンロード支援ツールが量販店でも販売されているのを見たことがあると思う)。この利用方法であれば、楽天証券の「マーケットスピード」や岡三オンライン証券の「RSSからの配信データを利用してサービスを提供する方法も考えられる。この方法は合法である。


⇒デメリットとしては、データ量が大きすぎるとダウンロードと計算速度に膨大な時間がかかり、ユーザーに多大なストレスがかかる。

3. Yahoo!ファイナンス等の配信サイトから株価データをサーバー上にダウンロードし、計算済みデータをサーバー上に蓄積させ、計算結果をユーザーに配信する。つまり、「株価データ配信ツール」としてサービスを提供する

この方法を使えば、データ取得料金がかからないので無料である。また、取り込んだ株価データをサーバー上で自動計算まで済ませておけるので、ユーザーへ瞬時に計算結果を返せるというメリットがある。

→先述したとおり、データ配信料を払わずに無断で外部公開を行うため、現行法上、著作権に抵触する可能性が高い(
可能性が高いという表現を使った理由は後述する)。なお、会員サイトで公開範囲を限定する行為も、不特定の第三者に対して公開するという解釈になるとみなされ、NGとの回答有り(個人利用の範囲内であればOKとのこと)。また、不特定の第三者であっても、例外として、社内LAN、学内LANで共有する行為はOKとのこと(参考:「技術も変われば法律も変わる・・・べき?」)。

本当はこれをやりたいんだけどな...


※余談だが、当初は統計ソフト「
R」とJavaScript」をサーバー上で連結してデータ計算を行う構想だったのだが、エンジニアから連絡があった。「この仕様だと計算が終わる前に日が暮れてしまう」と。結局、現段階では、ひとまず3.の方法を使って「PHP」によるwebスクレイピングにシステムの仕様を切り替えて開発を進めている(ゆえに外部公開は保留中)。


*****

スマートフォンの普及に伴い、
web上から効率的にHTMLデータを収集・加工してエンドユーザーに提供する「キュレーションサイト(まとめサイト)」が爆発的に普及したが、その裏ではたびたび著作権の問題が取り沙汰されている(参考:「SmartNewsは違法アプリ?ニュースアプリの仕様と著作権の関係」)。


web-scraping-services

参考サイトを見るかぎり、上記2.を採用すると、「速度」の問題がクリアできないが、上述したとおり、著作権法上は合法行為である。

一方、上記3.を採用すると、「ダウンロード時間」と「計算速度」の問題は解決できるが、現行法上、著作権に抵触する可能性が極めて高い。バレないから大丈夫だって?いやいや、ハッカー精神旺盛なネットユーザーを舐めるなよ(笑)。

HTTPプロキシツールを使えば、流れてくるデータリクエストを横取りして配信元サーバーを逆探知することができるので、ネット上での違法配信はまずバレると思ったほうがいいだろう(この技術を活用した代表例としてはアクセス解析ツールが挙げられる)。


ただし、3.を採用した場合、現行法上の抜け道としては、「『キャッシュサーバー』や『検索エンジン』」と認められれば」外部へのデータ配信はOKとなるのだそうだ。

スクリーニングサイト(計算サイト)は「検索エンジン」として認識させるのは少し無理があるが、「キャッシュサーバー」として一時保存だけしておいて、過去データをどんどん消していけば問題ないことになる。この方法であれば、合法かつダウンロード時間と計算速度の問題も解消できそうだ。


これは名案だ


ところが...


東証のホームページを調べたところ、以下のような記載があった。

当ページに掲載される内容の著作権は、当取引所およびその情報提供元にあります。

情報は、利用者ご自身のためにのみ利用するものとし、第三者または情報を閲覧している端末機以外の媒体への提供目的で加工、再利用および再配信することを固く禁じます。また、情報の蓄積、編集および加工等を禁じます。

出典:「東京証券取引所ホームページ『免責事項のご注意』」より


すでに、先手を打たれていた
orz...

これで、キャッシュサーバー利用も
NGということになる。



上記では、外部公開の方法を大きく3つにわけて考えたが、実はもう1つ方法を考えた

ようするに、ここでは3.の方法が合法的に使えれば問題ないわけだ。


4. 3.の方法でサービスを作り、1.のデータ配信・使用許諾者に親会社になってもらう

どういう事か簡単に説明すると、まず法人を作り、作成したプログラムの所有権を法人に譲渡する。次に、1.のデータ配信・使用許諾者に③株式の51%
以上を譲渡する。これにより、④子会社としてデータ配信を行う。もしくは、ジョイントベンチャーとして配信会社を作る方法も考えられる。

この方法であれば、合法的にデータ配信を行うことができるのではなかろうか。

いや、厳密にいえば、白に近いグレーゾーンと言うべきなのだろうか。

東証やQUICKの方に話したところ、呆れながら言われた。

「システムごと証券会社に売却して、エンドユーザーになればいいではないか」、と(笑)

なるほど、選択肢がひとつ増えた。


5. システムごと証券会社に譲渡し、サービス提供者になってもらう



ちなみに、知財関係の弁護士さんに判例を調べてもらったところ、「株価データの著作権」を巡って裁判に発展したケースは、存在しなかったとの報告があった。

おそらく、裁判を起こしたところで費用倒れになることが明らかだからだろう(配信日時まで遡って損害賠償を請求される可能性はないのだろうか?)。

とはいえ、データ配信元から訴えられないからといって公開してしまうのは問題行為であることには変わりはない(厳密には、判例がないので合法か違法かはわからない)。

著作権法では、出所元(この場合は配信元)を明らかにすることによって、引用としてデータを公開する方法もあるが、データベースの一部利用がどこまで適法と認められるかについては、判断が極めて難しいとの回答だった。


現在、東証と直接データ配信の契約をしているベンダーの「一覧リスト」があった。

さすがに、個人契約は一件もないようだ
...

なお、ページの最下部に、とてつもない注意書きを見つけた。

(注)上記各社は、株価情報を始めとした市場情報の配信について東証と正規の契約を締結している会社ですが、各社が行っている情報提供は、それぞれの会社の責任において行っているものであり、それらの情報の正確性を東証が保証しているものではありませんので、ご留意下さい。
また、上記各社以外は、東証と正規の契約をしていない可能性がありますので、情報取得時には株価情報等の取得方法や正規の契約の有無についてご確認ください

出典:「東京証券取引所ホームページ「東証相場情報提供サイト等」より


どうやら、自分たちで配信者に確認をとっていないようだ(笑)


また、ここでは触れなかったが、為替データの外部公開を行う際も、株価データ同様に著作権法上の注意が必要だ。

ただし、為替データもファクトデータではあるが、株価データと違い、配信会社によって提示レートが異なる(いわゆる一物一価ではない)。

そのため、どこかのデータ配信会社と外部公開のための利用許諾契約を結ぶか、あるいは提示レートのカバー先である銀行等の金融機関と直接、利用許諾契約を結ぶ方法が考えられる。


インターネットはそもそも国境の概念が存在しないバーチャル空間のため、「公開」という行為が全世界に対して行われることになる。

そのため、日本国内の著作権法のみならず、国際条約でも保護対象とされていると考えるべきであろう。

ゆえに、サーバーの設置国を海外に移転したとしても、保護対象の適用外に当たるとは安易に考えないほうがよいだろう。


現状を考えると、私が理想とするサービスを合法かつ無償提供するためには、参入障壁がかなり高いといわざるを得ない(ビジネスモデルとしては広告費によって収益化を行い、サーバー代等の運営コストを捻出しようと考えている)。

この案件、公開できるかどうかわからないが、せっかく調べたことだし、どなたかのお役に立てればと思い、投稿することにした。

最後に、ご丁寧に対応してくださった東京証券取引所およびデータ配信会社各社の皆さま、ご協力ありがとうございましたm(_ _)m


*****


以上をまとめると、「株価データの著作権は配信元である証券取引所によって保護されていると考えられる。さらに、データを外部に公開するためには、個別にデータ配信契約を結ぶ必要がある」といえるだろう。

いちおうの調査結果としては、以下のとおりである。

1. 取引所と配信会社からデータを直接購入して公開する
⇒ 白

2. Yahoo!ファイナンス等の配信サイトからの株価データをユーザーのローカルにダウンロードする。つまり、「ダウンロードサポートツール」としてサービスを提供する
⇒ 白

3. 
Yahoo!ファイナンス等の配信サイトから株価データをサーバー上にダウンロードし、計算済みデータをサーバー上に蓄積させ、計算結果をユーザーに配信する。つまり、「株価データ配信ツール」としてサービスを提供する
⇒ 黒(ただし判例がない)

4. 3.の方法でサービスを作り、1.のデータ配信・使用許諾者に親会社になってもらう
⇒ 白に近いグレーゾーン

5. システムごと証券会社に譲渡し、サービス提供者になってもらう

⇒ 白

※ファクトデータの外部公開についての最終的な判断は、弁護士等の有識者にご相談ください。


一般的には、データ配信契約は、契約者だけが独占的に外部に公開できる権利ではあるが、場合によっては資金力が十分でない個人投資家や中小ベンダーにとっては創出したユニークなアイデアを公開するための参入障壁ともなり、自由で公正であるべき競争を阻害されてしまうおそれがあるとも考えられる。


もっとも、データ配信者としては、契約に基づき排他独占権を付与されたファクトデータが、第三者によるフリーライド(ただ乗り)によって無断で公開され、それも安価や無償利用の形で行われると、データ配信料金に値崩れが生じてしまい、安定したシステムの維持やサービスの充実化といったデータ配信契約そのものの意図が阻害されることになってしまう。


たしかに、データ配信者が営業努力や充実したサービスを行っていることを考慮したうえで、著作権を主張し、高価格政策をとることには合理性があると考えられる。なぜならば、データの無断利用を安易に認めてしまうことは、正規契約者の営業努力に第三者がフリーライド(ただ乗り)しているとの批判も十分検討する余地があるからだ。


しかしながら、無断利用そのものを厳格に禁止し過ぎてしまうと、データ配信者にとっては不当な利潤の増加につながるおそれがあり、エンドユーザーである個人投資家やプロップトレーダーにとってはスクリーニングツールなどの商品選択の余地が限られてしまうこと、かつ気軽に利用する機会が奪われることになってしまうため、自由競争の下にファクトデータの利用が柔軟に行われることも合理性があると考えられる。

ファクトデータの利用は、「著作権を主張するデータ配信者や正規契約をしている契約ベンダー」にも言い分があるし、「データを使ってサービスを外部公開したい投資家やアイデアが豊富な中小ベンダー」にも言い分がある。どちらの意見も一理あると思う。

金融マーケットの世界、ひいては資本主義の世界は、個人の意欲や才覚の違いによって「結果の平等」が実現されない極めてシビアな世界ではあるが、少なくとも、すべての市場参加者の競争条件を対等とした上で、「機会の平等」のもとに、自由で公正な利益獲得競争が行われるべき、と個人的には思う。

上述したように、ファクトデータの著作権をめぐっては、一方においては、データを配信する側である供給元に対してはデータを構築してきた経営努力を正当に評価することが求められるが、他方においては、自由競争の下にデータベースの一部利用にかぎり公開を許可する等、サービスの提供が柔軟に行われ、エンドユーザーの多様なニーズの確保が望まれるところである。


この問題を解決するための良いアイデアはないだろうか...

せっかくいい感じで途中まで作ったのにな......


(参考: 著作権なるほど質問箱「著作権制度の概要」)

(参考:「SmartNewsは違法アプリ?ニュースアプリの仕様と著作権の関係」)
(参考:「技術も変われば法律も変わる・・・べき?」)
(参考: 財団法人データベースセンター「データベースの法的保護について」)
(参考: 白石忠志()「独禁法講義【第7版】」, 有斐閣, 2014年)
(参考: 土田和博(著), 栗田誠(著), 東條吉純(著), 武田邦宣(著)「条文から学ぶ独占禁止法」有斐閣 ,2014年)
(参考: 金井 貴嗣 (編集), 川濵 昇 (編集), 泉水 文雄 (編集)「独占禁止法【第4版】」,弘文堂,2013年)
(参考: 渡辺 智暁, 野口 祐子「オープンアクセスの法的課題 : ライセンスとその標準化・互換性を中心に(<特集>オープンアクセス情報の科学と技術 60(4), pp.151-155, 2010年)